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昭和転生  作者: 佐藤謙羊
17/24

17 元手づくり4

 ショーマが取り出したのは、1本のストローであった。

 シェイクを会議室に持ってきた平社員に手伝わせて、みなに同じものを配る。


 重役オヤジたちの反応は、それみたことか、と言わんばかりであった。



「なんだなんだ、なにか仕掛けでもしてあるのかと思ったら、本当にただのストローじゃないか」



「夏休みの工作以下じゃないか、こんなの」



「これを使ってシェイクを飲めば、味が変わるとでもいうのか? バカバカしい!」



「やっぱりただの悪ガキの悪ふざけでしたな! 子供だましとは、まさにこのことだ!」



「きっと漫画の読み過ぎで、頭がおかしくなってしまったんでしょうなぁ!」



 手にしていたストローをテーブルに放り捨て、ガッハッハッハッハッハッ! と笑うタヌキオヤジども。

 ショーマは彼らなど相手にせず、真っ先に本丸を指さしていた。



「おい社長! お前ならこのストローの価値がわかるだろう!? さぁ、そのストローを使って飲んでみてくれ!」



 玉座で優雅に足を組んでいたレインボーロードは、ショーマ特製のストローをシェイクの入れ物に挿し込みながら、口元を緩める。



「わたくしにとっても、これはただのストローにしか見えていませんよ。てっきり、精霊力を使った魔法のストローかと思ったのですが、違うようですね」



「そんな大げさなもんじゃねぇよ! だがある意味、魔法のストローかもしれねぇな! いーからそれで飲んでみてくれって!」



「いいでしょう。でも、ひと口だけですよ。それが済んだらお帰りください」



 レインボーロードはなんの期待もない様子で、そっとストローを口に運ぶ。


 彼にかかればシェイクのプラ容器も、高級なティーカップに見えた。

 恐ろしいほどに絵になっていたその姿に、突然ノイズが入る。


 美しい柳眉が、わずかに寄ったのだ。


 そして、ひと口だけだと宣言したはずなのに、なおも飲み続けている。

 それも、無言で……!


 普段であれば、新製品の試食もひと口で終わらせ、それだけですべてを判断していたレインボーロード。

 そんな彼がストローから口を離さないので、側近のふたりも、重役オヤジたちも不審に思う。


 まずは両端にいたゴールデンバーニングとシルバーフリージアが、ストローを刺してシェイクを飲む。

 そして彼らもまた、言葉を忘れたかのように、何も言わなくなってしまった。


 ただ無心に、チュウチュウと吸う音だけが会議室に響く。

 会社のトップ3人がそんな状態になってしまったので、重役たちも半信半疑であとに続いたのだが……。


 さらにこの場から、音が奪われた。

 いつもは聞こえないはずの、外の通りの喧噪までもが聞こえるほどに、静まりかえる。


 そしてネズミが大量発生したような吸引音が、室内を席巻し……。

 とうとう、止まらなくなってしまった……!


 まるで、ストローに変な薬が塗ってあったかのように……。

 取り憑かれたように、やめられない、とまらない……!


 その様子を、見守っていたママリアとアーネスト、そして平社員は何度も喉を鳴らしていた。



「み、みなさん、夢中になってシェイクを召し上がっておられます……!」



「な、なんだかお姉ちゃんまで、飲みたくなってきたわ……! 『モンスターバーガー』のシェイクはイマイチだと思ってたのに……!」



「あ、あのっ!? みなさん、い、いったい……いったい何が、どうなっているんです……!?」



 平社員がたまらず尋ねても、答えは返ってこない。


 まるで母の胸に抱かれている赤子のように、誰もなにも物言わず……。

 このシェイクを飲むことこそが人生のすべてなのだと、いわんばかりに……。


 一心不乱に、チュウチュウ、チュウチュウ……!


 やがてその夢のようなひと時も、終わりを告げる。



 ……ズズッ……!



 レインボーロードのシェイクから、残り僅かとなったことを示すノイズが鳴る。


 彼は普段はこんな『はしたない音』を響かせるような、うかつな人間ではないのだが……。


 彼自身もショックだったのか、ハッ!? と我に返る。

 そしてワイングラスのように摘まんでいたコップを、いやむしろストローを、しげしげと眺めた。



「これは、いったい……?」



 ……ズズッ……! ……ズズッ……!



 両隣で、ぷはっ! と口を離したふたりの部下は。



「かあっ!? なんだこれっ!? シェイクがこんなにうまいものだったなんて……! いつの間に中身を改良したんだっ!?」



「ひゅう、違います。ゴールデンバーニング。シェイク自体の味は変わっていません」



「かあっ、なんだとぉ!? それじゃ、何が変わったってんだよっ!?」



 そこまで言って、ようやく気付く。



「ま……まさかこの、ストローっ!? かっ……!? かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」



 やられたぁ! と顔を上げて天井を仰ぐゴールデンバーニング。

 しかし、重役オヤジたちは納得いっていない。



「そ……そんな馬鹿なっ!?」



「ストローを変えただけなのに、こ、こんなに……! こんなに美味しくなるわけがない!」



「そ、そうだ! たかがストローごときで、味なんて変わるわけがないだろう!」



「そ、それも……ちょっとやそっとじゃない! この私が童心に帰ったみたいに、夢中になれるなんて……!」



 真偽のほどはともかく、しゅうぶんにストローの力が広まったところで、セージはプレゼンを再開する。



「ああ、うまくなって当然だ! やめられなくなって当然だ! 俺の考えたこの特製ストローには、ある秘密が隠されてるんだからなぁ!」



「や……やっぱり! このストローには、よからぬ仕掛けがしてあるんだ!」



 と脊髄反射のように批判してくるオヤジたち。



「そんな大それた仕掛けじゃねぇよ! いや、ある意味、大それてるかもな……! そのストローの秘密は、太さと厚みにあるんだ!」



「ふ……太さと厚み!? そんなのが秘密といえるかっ!」



 さっきから文句ばかり言っているハゲオヤジを、ショーマはピッと指さす。



「それが重要なんだよ! おいそこのバーコード! このストローで最初にシェイクを飲んだとき、お前はどう感じた!?」



「ば、バーコード?」



「そっか、この時代にはまだ(●●)なかったんだな。……いいから答えろっ! お前はどう感じたんだっ!?」



「そ、それは……! 吸いにくくなって、強く吸わないとシェイクが口に入ってこないと思った……! 正直、欠陥品だと……!」



「だが最初のシェイクが口に入ったとき、もう虜になっていたはずだ! 次のひと口、次のひと口と、夢中になってストローを吸っていたはずだ!」



「ぐっ……! た、確かに……!」



「それがなぜだかわかるか!? その吸うために必要な力や、吸ったときの感覚が……お前らが生きていくのに絶対に欠かせなかった……あるものを再現してるからだよっ!」



 これはオヤジたちが、一斉にハモる。



「ぜ、絶対に欠かせなかった、あるものっ!?!?」



「そうだっ!」



 と、ショーマはぐるんと身体を翻し、隣にいたママリアに向かって、ガッ! と手を伸ばし……!



「きゃっ!? しょ、ショーマさんっ!?」



 驚く彼女をよそに、量感あふれるソレを、エプロンごと持ち上げ……!



「それは……『ママのおっぱい』だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」



 高らかに、叫んだのだ……!

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