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昭和転生  作者: 佐藤謙羊
16/24

16 元手づくり3

 ファーストフードチェーン『モンスターバーガー』のトップにして、総合商社『モンスター社』のトップ……。

 ショーマは当所、脂ぎったオッサンを人物を予想していたのだが、それとは真逆。


 ゴージャスながらもすっきりと洗練された、優男ながらも鷹揚とした余裕を漂わせる、異世界人の青年実業家……。

 レインボーロードであった……!


 ショーマはアポなし訪問というやり方で、先制パンチを放ったつもりでいた。

 しかし相手は涼しい顔で受け流し、それどころかサービス券でやり返すという、カウンターパンチ……!


 取り巻きのようなスーツ姿の中年たちは、わざとらしいほどに大げさに笑っていた。



「がはははははは! 坊主、してやられたな!」



「いきなり押しかけて社長をびっくりさせようとしてんだろう、でも、残念だったな!」



「さすがはレインボーロード様! 礼儀のなってない悪ガキを、こうもやり込めるとは!」



「私は一生、レインボーロード様についてまいりますぞ!」



 ちょっとムカついて、グッと歯噛みをするショーマ。

 言い返そうとしたが、レインボーロードはそれすら見通しているかのように、



 ……スッ。



 と優雅に手をかざした。

 すると、下品な笑い声とヤジが、ピタリと止む。


 どうやらまだ、レインボーロードのターンは続いているらしい。

 彼はなにかに気付いたようで、改めて乱入してきた少年少女たちを見回し、こう言った。



「我がモンスター社は、『わくわくモンスター地下迷宮(ダンジョン)』というアミューズメント施設も経営しています。先日、日比谷公園にある施設で、初のクリア者が出たという報告がありました。それは3人組だったそうですよ」



 ひとりひとりに視線を移す彼。

 口調は慇懃であったが、その瞳はショーウインドウに並ぶオモチャを眺める子供のようであった。



「ひとりは、清楚ながらも妖艶な雰囲気の女子高生。ひとりは、美麗ながらも強気な雰囲気の小学生女児。そして、最後のひとりは……。幼いながらも幾多の修羅場をくぐり抜けてきたような、不敵な小学生男児……。どうやら、あなたたちのようですね」



 初のクリア者と聞いて、取り巻きのオヤジたちの見る目が変わる。



「『わくわくモンスター地下迷宮(ダンジョン)』をクリアしただと……!?」



「ばかな、あんな子供たちが……!?」



「私など、休みのたびに挑戦しているのに、全然だというのに……!?」



 レインボーロードはショーマのところで視線を止めると、愛おしいペットを愛でるかのように、ふっと笑む。



「多くの人たちは、わたくしにアピールするための時間を得ようと、いろいろな手を使ってくるんですよ。こうやって、押しかけてくる人も珍しくはありませんね。いつもであれば、これでお引き取りいただくのですが……。少しだけ気が変わりました。あなたたちに関しては特別に、お話を伺いますよ」



 ショーマの考えは、すっかり見透かされている。

 アポなし突撃はまさに、多忙であろう社長の時間を、インパクトによってもぎ取るという作戦であった。


 しかし敵もさるもの、奇襲攻撃には慣れっこのようで、軽くあしらわれてしまった……。


 と思われたのだが、僥倖(ぎょうこう)が少年を救う。

 『わくわくモンスター地下迷宮(ダンジョン)』の初のクリア者ということで、話をするチャンスを得られたのだ……!


 それは取り巻きたちが、到底信じられないようなリアクションをしていることからも、千載一遇の機会であることは明白であった。

 ショーマはさっそく話を切り出そうとしたが、ピッ! と白い指先で遮られてしまう。



「ただし、あなたがわたくしに発することができるのは、一言だけです。わたくしはその一言で、続きを聞くに値するかどうかを判断しますよ。ですからよく考えてから、発言してくださいね」



「うっ……!」



 少年は、さっそく出鼻をくじかれてしまった。

 そして当所の勢いを、すっかり削がれていることに気付く。



 ――交渉を有利に進めるために、アポなし突撃したっていうのに……。

 いつのまにかペースを、すっかり奪われちまった……!


 コイツ、口調と物腰は丁寧だが、只者じゃねぇ……!

 かなり、できるっ……!


 それどころか知らず知らずのうちに、瀬戸際に立たされちまった。

 このままじゃ、ただのヤンチャな悪ガキとして処理されちまう……!


 ここから巻き返すには、とびっきりの一言をぶつけてやるしかねぇ!


 その一言でヤツの興味を引けなければ、終わる……!

 せっかく作り上げたモノも、お蔵入りになっちまう……!


 考えろ、考えるんだ……!

 いまこの場でなにを言えば、ヤツの度肝を抜ける……!?



 そして少年は、吟味した一言を紡ぎ出した。



「……いまお前たちがこうやって、雁首そろえて顔付き合わせてる理由を、俺は知っているぞ」



 それは、いちかばちかの賭けであった。

 「ほう?」と続きを促すような反応を示すレインボーロード。



ある(●●)商品の売り上げ不振で、それをなんとかするために話し合ってたんだろう?」



「ほう……? ぼうやがどうやってそれを知り得たのかはわかりませんが、その不振を解決するための売り込みというわけですね?」



「さすが社長、察しがいいな。俺のアイデアを採用すれば、爆売れ間違いなしだぞ……!」



 しかしそれに異を唱えたのは、オヤジ連中。



「ばかな! それは我々もずっと頭を悩ませていることなんだぞ!」



「販売データや現地での視察などを通して、多角的に分析しているのに、不振の原因はまるでわからないというのに!」



「大人のワシたちが大勢集まって知恵を出しても解決しないことが、お前みたいなガキになんとかできるわけがないだろう!」



 社長のレインボーロードよりも、スーツ姿のオヤジたちの相手のほうがショーマにとってはたやすかった。

 びっくりするほど頭が堅いし、なによりも単純だったからだ。


 少年はようやく、いつものペースが戻ってくる手応えを感じていた。



「まあまあ、慌てんなってオッサン。慌てると抜け毛も早くなるぞ。髪は長い友達なんだから大切にしてやんな。……よっと!」



 ショーマは軽口を叩きながら、会議室の長テーブルにあがる。

 身長差のせいで、ずっと見上げていた彼であったが、これでようやく逆転。


 この場にいる全員を、見下ろす立場に……!



「首をずっと上に向けっぱなしだったから、疲れちまった。でもこれでだいぶラクになったぜ」



 首をコキコキ鳴らす少年を、あんぐりと見上げるオヤジ連中。

 次に飛んでくるのは文句だとわかっていたので、さっさと話をすすめる。



「よぉし、今から俺の言うモノを人数分用意するんだ! なあに、ココならすぐ用意できるもんだ!」



 銀行強盗のような態度で、彼が要求したのは……。

 もう、おわかりであろう。


 そう、『モンスターバーガー』のシェイク……!


 社長指示により、できたてのソレがすぐに用意され、社長をはじめとする全員に配られる。

 ショーマはその間に、ママリアとアーネストも壇上に上げた。


 高い所が好きなアーネストは嬉々としていたが、ママリアは「あの、お行儀が……」としきりに気にしていた。

 そして彼女が高いステージのような場所に上がると、これからポールダンスでも始まるかのような、なんともいえない独特の雰囲気が漂う。


 そんなことはさておき……少年はいよいよ、本格的なプレゼンに入った。



「さあさあお立ち会い! 女は愛嬌、男は度胸! 見なきゃ損だよ! 飲まなきゃダメだよ! あらあら、でもってこのシェイク、ぶっちゃけあんまり売れてない! ぶっちゃけあんまり美味しくない! そりゃあそうさ、なんたって肝心なモノが疎かになってるんだからなぁ!」



 子供とは思えない叩き売りのような口調に、「肝心なモノ……?」と反応するオヤジたち。



「そうさ、よく言うじゃないか! お江戸はご家老、オヤジは過労! カマキリ蟷螂(とうろう)、アメリカハローでシェイクはストロー! ってな!」



 ……ビシイッ……!



 とキメ台詞とともに取り出されたのは、なんと……。

 何の変哲もない、ただのストローであった……!

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