14 元手づくり1
「はぁ、楽しかったぁ! そうだ! 宝箱のなかにシェイクのタダ券があったから、せっかくだからシェイクを飲みましょうよ!」
アーネストの提案でショーマたちは再び『モンスターバーガー』に行き、3人分のシェイクを貰った。
そしていま、それをチュウチュウ吸いながら帰りの電車に揺られている。
アーネストは宝箱に入っていた、ぬいぐるみやらティッシュやらの粗品を抱えてホクホク顔。
ママリアは賞金の1万円を預かり、これまたホクホク顔。
「まさか遊びに行って、こんなに色々貰えるなんて思わなかったわね! しかも1万円まで付いてくるなんて!」
「はい。これも、お姉ちゃんとショーマさんのおかげです」
「そういえばショーマ、まさかあんたがあれほど剣術が上手だなんて知らなかったわ!」
アーネストが珍しくほめてくれたが、ショーマはうわの空。
「ああ」と生返事をしながら、姉を見つめる。
「なぁ、冒険者って儲かるのか?」
「なによ急に。なんたって危険な仕事なんだから、儲かるに決まってるでしょ。それに、子供のなりたい職業のナンバーワンでもあるのよ。あ、わかった、今日のことで味をしめて、大人になったら冒険者になりたくなったのね?」
「ああ、その通りだ。でも大人になったらじゃなくて、今すぐにだ」
「はあっ!? まだ6歳のクセして、何言ってるのよ!?」
「冒険者になるのに、年齢制限とかあるのか?」
「冒険するだけだったら年齢制限なんてないけど、それすら無理ね。だって地下迷宮に入るための『復活』と、『離脱』の宝玉がないと」
「それって、どうやったら手に入るんだ?」
「街の冒険者用品店とかで売ってるけど、高いわよ。どっちも使用時の成功率が100%のやつじゃないとダメだから。それでも、『離脱』の宝玉のほうは1万円くらいだけど、『復活』の宝玉は、ひとつ200万はするわね」
「に、200万!?」
ショーマが『かつていた世界』の価値に換算すると、だいだい800万円くらいだろうか。
でも、生命が助かると思えば妥当……むしろ安いくらいともいえる。
「ギルドに所属していればもっと安くなるみたいだけど、どっちにしたってそんなお金、子供のショーマじゃ逆立ちしたって出せないでしょう? それに今日の『わくわくモンスター地下迷宮』と違ってモンスターはゴブリンとオークだけじゃないし、罠もいっぱいあるから、ショーマなんてすぐ死んじゃうわよ」
――3人分ともなると、600万円か……。
と心の中でつぶやくショーマ。
――冒険者になるためには、元手を稼がなくちゃならないってわけか……。
小1を雇ってくれるアルバイトなんて、どこにもなさそうだし……。
今日の『わくわくモンスター地下迷宮』を繰り返して賞金稼ぎするという手もあるけど、効率が悪すぎる。
それにあそこのスタッフは1万円出すにも相当渋って、ずっとトボけまくってたから、また行ったら入場を断られるかもしれねぇな。
アーネストの攻撃力と、ママリアの魅了と治癒があれば、やっていけるかと思ったんだが……。
その前の段階で躓くとはなぁ……。
あ~あ、なんかいい金儲け、ねぇかなぁ……。
結果のわかってる競馬くらい確実で、楽ちんで、それもいちどに大儲けできるような……。
ショーマは心の中でぼやきながら、ふと姉をチラ見。
黙っていればビスクドールのように可愛らしく、絵になる横顔の彼女は、シェイクを吸っていた。
が、突然パッと口を離して、すべてを台無しにするようなしかめっ面を浮かべる。
「このシェイクってヤツ、不味くないんだけど、何か物足りないのよねぇ……? ショーマもそう思わない?」
なんの気なしに話題を振ってみた姉は、弟が目をまん丸にして、瞬きも忘れていることを不思議に思った。
「……? どうしたのよショーマ? 急に、晴天のへきへきみたいな顔して」
「……そ……それだぁぁぁぁぁぁーーーーーっ!!!!」
ショーマがいきなり大声を出したので、その車両にいた乗客みんながらびっくりして、カーブでもないのに大きく揺れていた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
ショーマは地元の商店街に着くと、ママリアを拝み倒して、あるものをねだる。
馬券には猛反対した彼女だったが、ソレに関しては、微笑ましいものを見るような笑顔を浮かべて買ってくれた。
帰宅したショーマはちゃぶ台を占領して、ハサミやカッターを使って工作をはじめる。
それは1日がかりで、ようやく完成。
「で……できたっ!」
「ずっと熱心に作ってると思ってたら、なにそれ。そんなものいくらでもあるでしょうに」
いかにもつまらないモノを見るかのような姉に、ショーマは不敵に笑う。
「いいや……! これは『わらしべ長者』の藁……! 俺たちに大金を運んできてくれる、藁、なんだ……!」
そして台所で朝食の片付けをしていたママリアに飛びつくと、エプロンを引っ張った。
「おいっ、ママリア! 今から出かけるぞ! 支度しろ!」
「ええっ!? どちらにですか!?」
ショーマがエプロンをぐいと引っ張ると、オモチャみたいに連動して、母の困り眉と胸が動く。
「プレゼンだ! それにはお前がいなきゃダメなんだ! だから付いてきてくれ!」
「ぷ、ぷれぜんっ!? よ、よくわからないのですが、ショーマさんが、ママを必要としてくださるなら……!」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
ここは、都内某所にある『モンスターバーガー』本社。
1号店を出店してそれほど日は経っておらず、まだ都内に数店舗しかないので、その本拠地も雑居ビルの一角と、こぢんまりしている。
しかし今や一大ブームを巻き起こしているだけあって、受付は取材や商談を求める人でごったがえしていた。
そこに、
……ズバァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!
ドア蹴破るような勢いで、現れたのは……!
「たのもぉーーーーーーーーーーっ!!」
金髪ツインテールの、小学生……!?
「おっ、お姉ちゃん、乱暴になさらないでくださいっ。あっ、あの、すみません皆様、お騒がせしてしまって……」
大きな胸を上下に揺らしながら頭をぺこぺこ下げる、エプロン姿の女子高生……!?
そして、彼女たちの間から、ひょっこりと顔を出したのは……!
「ちょいと、邪魔するぜ」
まだ小学校にあがったばかりのような、メガネをかけた小学生であった……!