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昭和転生  作者: 佐藤謙羊
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13 サキュバスの力

 戦いを終えたショーマは、更衣室にあるベンチで休んでいた。

 目の前にはシャワールームがあって、水音とともに、はしゃぐ少女たちの声が漏れ聞こえてくる。



「お姉ちゃん、お湯のシャワーって初めて! プールにある水のシャワーに比べると、断然いいわ! 最っ高ぉ~!」



「はい、ママも初めてです。とっても気持ちがいいですねぇ」



 身体じゅうスライムでベトベトになったふたりは、粘液を落とすためにシャワーを浴びていた。


 アーネストはブースカ文句を垂れていたのだが、今やすっかりご機嫌。

 特に文句を言わなかったママリアも、ウットリしているようだった。


 初めてのお湯のシャワーに大喜びの母娘。

 その光景は、実に微笑ましいものであったが……。


 ショーマのいる更衣室からは、薄いシャワーカーテン一枚で遮られているだけだったので、ものすごい事になっていた。

 シルエットとはいえ、ふたりの身体の線がこれでもかと浮き彫りになっていたのだ。


 姉のほうは年相応のつるんぺたんではあるものの、まるで羽根のない妖精のように美しい。

 そして母のほうは、まるで花瓶みたいだった。


 降り注ぐお湯が頭よりも大きい胸にあたり、身体を動かすたびにその量感を示すようにゆっさゆっさと揺れる。

 持ち主が撫でさすると、空気が抜けたゴムマリのような弾力でへこみ、水を弾きつつ張りを取り戻す。


 流れ落ちたお湯は急激にすぼまった腰で勢いを増す。

 それだけの上半身を支えられているのが信じられないほどの、細く華奢な腰。


 次にさしかかる臀部はまた飛び出ているので、水はまるでウォータースライダーのように急流になって飛び散る。

 運がよければ滑やかなトライアングルを通り、むっちりした太ももを通って床に広がり排水溝へとすいこまれていく。


 その、見ているだけで脈が乱れそうな艶姿に、ショーマは思った。


 もしお湯として生まれていたなら、これ以上に幸せな人生はないだろうなぁ、と。


 そして男として生まれたなら、誰しもが思っていたことだろう。

 こんなシチュエーションなら、多少の危険を冒してでも、薄布の向こうをひと目見よう、と……。


 しかし少年は、そんな気分にはなれなかった。

 なぜなら……。


 オークを倒したあと、母娘をスライムの中から引きずり出したのだが、ママリアは真っ先にショーマの心配をしてくれた。



「まあっ、ショーマさん、お膝を擦りむかれて……! じっとしていてくださいね!」



 彼女は血相を変えながらそう言って、ベトベトの身体を拭いもせず、四つ足に伏せた。

 そして顔を傾け、まるで水道の蛇口から直接水を飲むみたいに、ショーマの膝小僧めがけて……。



 ……ちゅっ……。



 と口づけしたのだ……!


 これに少年は、「はうっ!?」と飛び上がりそうになっていた。

 しかしママリアは、すがりつくように彼の脚を押え、



「ひょーまひゃん……りっとひへへくらいはい……(ショーマさん、じっとしててください)」



 さらに、ミルクを舐め取る仔犬のように、



 ……ちろ、ちろ……。



 と、舌を動かした……!


 これに少年は、「はうあああっ!?」と脚を激しく震わせた。

 しかしママリアは離してくれず、最後にはソフトクリームにするみたいに、



 ……ぺろんっ……。



 と擦り傷を、大きくひと舐め……!

 ついに、少年は立っていられなくなる。



「はっ!? はわっ!? はわわわわっ!?」



 情けない声をあげて全身をガクガク震わせ、とうとう腰砕けになり、へにょり、と尻もちをついてしまう。


 膝に口づけを受けた瞬間、逆巻く落雷のような、すさまじい快感か突き上げてきて……。

 舐められた途端、その雷に身体をじゅうを(なぶ)られているような官能に支配されて……。


 トドメのひと舐めは、全身の骨が溶けたかと思うほどに、気持ちがよかった。

 まさに骨抜き。ショーマが呆けた顔でビクンビクンと痙攣していたので、ママリアは慌てた。



「あっ……!? す、すみません、ショーマさん! ママの力でお怪我を治そうとして、つい……!」



 隣で見下ろしていたアーネストは、この異常事態にも動じることなく、やれやれと肩をすくめていた。



「ママ、力を出しすぎよ。まったく、ショーマが相手だからって、ハリキリすぎたんでしょ」



「は、はい! すみません! ショーマさんのお怪我に、いてもたってもいられなくなりまして……! 本当に、本当にごめんなさぁい!」



 モヤのかかった視界のなかで、母に抱き起こされるショーマ。

 身体はグッタリして思うように動かず、しかし鋭敏になっていて、衣類が肌にこすれるだけでゾクゾクした。


 とある行為の直後以上に、何倍もの余韻と、けだるさに包まれながら……彼はうわごとのように声をあげて、何事なのかと尋ねる。


 どうやら、淫魔(サキュバス)は傷を舐めて治すことができるらしい。

 ただその際、相手の精気を必要とする。


 はりきりすぎてしまったママリアは、つい精気を抜きすぎて(●●●●●)しまったそうだ。


 「つい」という軽い言葉で片付けていいものかわからないほどの、快楽の過剰摂取(オーバードーズ)に溺れてしまったショーマ。

 すっかり燃え尽きてしまった少年は、真っ白になりながら、その時のことをこう言い表していた。



「昔はお前のような冒険者だったのだが、膝に舌を受けてしまってな……」



 もちろん昭和の時代にそのネタが通用するはずもなく、「なに言ってんのよあんた」とバッサリであった。


 ……そんな事があったので、目の前でシャワーシーンを見せつけられても、ショーマは出歯亀行為をする気も起こらなくなっていたのだ。


 しばらくして、カーテンがシャッと引かれ、バスタオルに包まれた母娘が出てきた。


 ツルツルの卵肌からは、ほこほこと湯気をたてている。

 濡れた髪の毛が頬に張り付いていて、なんだか色っぽかった。



「あっ! 見て見て、ママ! ドライヤーがあるわ! ドライヤーが! 使ってみたい! 使ってみたい!」



「はい。それじゃあ、ドライヤーを使って御髪(おぐし)を整えさせていただきますね」



 母娘は更衣室に備え付けられたドライヤーにも大興奮。

 月城家にはシャワーはもちろんのこと、ドライヤーもないのだ。


 そしてママリアはドライヤーの使い方がわからず、自分の顔面に向けて熱風を吹き付けてしまい、ひっくり返っていた。


 そんな母娘を横目に、ショーマのなかでは、ある一つの思いが浮かんでいた。



 ――……冒険者って、儲かるのかな……?

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