12 わくわくモンスターダンジョン3
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
打ち切り漫画のラストのような雄叫びをあげながら、自分の倍以上もの体格のオークに突っ込んでいくショーマ。
雑魚のゴブリンは、頭にひとつ紙風船を付けているだけだが、オークはボスだけあって、冒険者側と同じ数だけの紙風船を付けていた。
まずは景気付けに、頭にあるのを叩き割るべく、ジャンプ一番……!
「もらったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」
しかし、
……ぺんっ!
とあっさりはね除けられてしまった。
「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
「ショーマっ!?」「ショーマさんっ!?」
母娘の悲鳴を聞きながら、ゴロゴロと転がって、来た道を戻らされてしまうショーマ。
余裕のオークは太鼓腹を抱えて笑っていた。
「ブヒヒヒヒ……! 軽く払っただけで、紙クズみたいに吹っ飛ぶとは……! しかもほとんどの『生命の源』は失われ、瀕死寸前……! もうあきらめて、大人しくリタイヤするがいい……! リタイヤしたら、世界の半分をお前にやろう……! それに、次回挑戦が半額になるチケットもやるぞぉ……! ブヒヒヒヒ……!」
『生命の源』とは、身体につけている紙風船のことである。
ショーマは地面を転がってしまったせいで、肩にあるひとつを残して、すべての紙風船がボロボロに……!
いわばこれは『残りHP1』の状態である。
芝居がかった動きで、ヨロヨロと起き上がるショーマ。
「負けたら承知しないわよ、ショーマっ!」「もうおやめになってください、ショーマさん!」
真逆の声援を受けつつ、少年は考える。
――トンデモ能力のある異世界人と一緒だったから、つい勘違いしちまったが……。
よく考えたら、俺自身はただの小学1年生じゃねぇか……!
剣技も魔法もなにもねぇ、ただのガキ……!
身体は子供、頭脳は大人の……!
脳内でそこまでつぶやいて、あることに気付いた。
――そうだ!
おいっ『ルールル』! スポーツアシストモードだっ!
『イエス。スポーツアシストモードを起動します』
スポーツアシストモードとは、あらゆるスポーツのアクティビティ管理と、競技で勝利するためのサポートをしてくれる、スマートグラスの機能のひとつである。
たとえばフルマラソンなどの場合は、自分の心拍数や疲労度、残り距離、補給所までの距離などから、1位を取るために最適なペースを教えてくれる。
視界内に、他の競技者がいようものなら……。
……ピピッ!
とロックオンして、その状態を表示してくれるのだ。
ロックオンを示す赤いカーソルが、オークの頭上でアニメーションする。
ショーマは再び、地を蹴っていた。
「ブヒヒヒヒ! 何度向かってきても、同じこと……!」
迎え撃つオークが構えをとった途端、
……ピピッ!
ショーマの視界に、未来を先取りしたようなオークのホログラフ映像が表示される。
スポーツアシストモードでは、ボクシングなどの格闘技の場合、相手の身体の動きを見極め、攻撃の予兆や狙っている場所を可視化して教えてくれるのだ。
なのでそれに従って、身体を動かすだけで……。
……スカッ!
とオークの攻撃は、空を切る。
「ブヒッ!? おっとっと……」
勢いあまって、たたらを踏んでいた。
スキだらけで、弱点が丸出しになった所を、攻撃してやれば……。
……パアンッ!!
あっさりと肩の紙風船を、叩き割れた……!
それだけで、
「「やったぁーーーーーーーーーーーーーっ!!」」
スライム風呂の母娘は、大盛り上がり……!
「ブヒイッ!? ラッキーパンチを受けてしまったようだ! でも奇跡は、二度起きないから奇跡……!」
……スパァーーーーンッ!!
ショーマは返す刀で、反対側の肩の風船も叩き割った。
「ぶっ……ブヒィィーーーーーーーーーーーーーーーッ!?」
半狂乱になって暴れ回るオーク。
しかし予知能力があるも同然の相手に、敵うはずもない。
ちょこまかと動き回るちびっ子勇者に、攻撃は空を切るばかり。
かたや勇者の剣撃は、
スパン! スパン! スパァァァァァーーーーーーーーーーンッ!!
気持ちが良いほどに、全弾ヒット……!
「すごいすごいすごいっ! すごーーーーーーーーいっ!! やれやれっ! ショーマっ!!」
「ショーマさん! とっても素敵ですっ! とっても格好いいですーっ!!」
母娘の応援に、Vサインを返すだけの余裕をも見せる、少年勇者ショーマ。
頭の風船だけになってしまったオークは、ついに奥の手を出した。
「ブヒィィィィーーーッ! こうなったら最後の手段! ゴブリン弓矢隊、であえい、であえーいっ!!」
するとボス部屋の入り口から、弓矢を持ったゴブリンたちが乱入。
その数、10匹……!
「ブヒヒヒヒ! いまだかつてここまで俺様を追い詰めたゲストは、お前が初めてだ! でも、賞金は渡すわけにはいかんっ!」
「ちょっとぉ、飛び道具なんてずるいわよっ!?」
アーネストの抗議空しく、矢は一斉につがえられる。
矢の先はスポンジなので、当たってもたいして痛くはないが、大ピンチ……!
しかしショーマの視界では、
『ロックオンアラート。10の飛翔体が狙っています。今から5秒後に発射、0.5秒で着弾します。弾道予測を表示します』
これから飛んでくるであろう矢の軌跡が、矢印で表示されていた……!
これがある以上は、
……ビシュンッ! ビシュンッ! ビシュンッ!
矢が雨あられのように降り注いでも、へっちゃら……!
身体をスウェーさせて、必要最低限の動きでかわしまくるショーマに、母娘は呆気に取られていた。
「す、すごい……。いくらオモチャとはいえ、飛んでくる矢をよけるだなんて……」
「ショーマさんが、あんなすごい特技をお持ちだったなんて……!」
これには、オークもビックリ。
「ぶ……ブヒイッ!? 矢に加えて俺様も攻撃しているのに!? なんで、なんでかすりもしないんだっ!?」
まるで残像のような動きのショーマ。
ボスのスキを伺い、背後に素早く回り込むと、耳元でささやきかける。
「安月給なのに、悪いな……!」
……スパァァァァァァァァァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!
最後の一撃を、脳天に叩き込んだっ……!!