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南海に波頭砕けて仏桑花
平成十六年八月
「仏桑花」はハイビスカスの和名である。これが季語になるのかどうか……。
つい先日、長い付き合いの弁護士にお会いした。白哲の端正な顔が日焼けして皮膚さえ剥けている。
聞くとガダルカナルから帰って来たと言う。
思わず聞き返した。ガ島、別名、「飢島」とも呼ばれているソロモン諸島最大の島である。硫黄島、サイパンに並ぶ戦場である。戦闘、飢餓、疫病、そして自決。日本軍の死者は二万人。
「あそこで父は死にました。だから毎年いくのです」
臨済宗、山田無文老師は戦跡巡りを四十回余りも続け、敵味方の別なく戦没者の遺骨収集と慰霊に務められた。
サイパンのバンザイクリフで老師の句碑を見かけた。空白の一文字がどうしても読み取れなかった。
血と涙たたえて■むか春の海
通仙洞太室無文老大師。合掌