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26・いざ、花とドレスの戦場へ1

 この後また仕事があると出ていった父を見送った後、母は何故か、メイドに何やら指示を出して下がらせてから、私に向き直って、結構重大な事をサラッと告げた。


「王宮の祝勝会、明後日の夜になったから。

 アンタのエスコート役は、王宮の方で手配してくれるって事で、そのかたがうちまで迎えに来てくれるから、その日はうちで支度して待機してなさい。」

「………はぃ?」

 思わずマヌケな返事を返してしまってから、自分には関係ないと思っていたその行事(イベント)に、母の中で私も参加する事になっている事に、一拍遅れて気がついた。


「…私、休暇は明日までだから、明後日はもう神殿に戻ってるわよ?

 休んでる間の仕事が溜まってる筈だし、そもそも王宮のパーティーに、私なんかが顔出せるわけがな」

「…あらぁ?帝国の将軍を倒したヴァーナ神官長って、アンタの事じゃなかったっけ?

 アタシの勘違いだったかしらぁ?」

「ぐうっ……!」

 目立たず平凡に生きていきたい私にとって、この件は勿論マイナス案件である。

 冗談じゃない。こんな事で有名になったら、ますます婚期が遠退くじゃないか。

 けど、『どうだ、ぐうの音も出ないだろう』みたいな母の表情が非常にムカつくので、とりあえず『ぐう』とだけは言っておく。

 ……いや、くだらないとか言うな。泣くぞ。


「これから戦争になるし、騎士達の士気を高めるためにも、『救国の聖女』を是非連れてきて欲しいと、王様自らアタシ達夫婦に頼んできたのよー。

 アタシもパリスも『それ本当にうちの娘!?』ってなってるけど、お得意様の頼みじゃ断れないからねー。

 そうそう、大神官様にも、既に話は通ってるって。」

 あの女相当ごねたらしいけどねー、なんて言いながら母が笑うのを、白目になりながら見やりつつ、冷静になれと自分を叱咤する。

 12の頃に一度、両親に連れられて王宮のガーデンパーティーに行った事はあるが、4歳年上の貴族のお嬢様に成金の娘だなんだと聞こえよがしの陰口を叩かれた記憶もあるので、ぶっちゃけ行きたくない。

 あの時のお嬢様、現在貴族籍にないらしいけど。

 なんかあの後異性関係の不祥事で、決まってた婚約がパァになったまでは事実らしいが、その後密かに出産したとか王都から離れた修道院に入れられたとか田舎の豪農の妾になったとか、噂話だけは色々聞いたけど詳しい話は知らない。

 まあそんなことはさておき。


「…ええと、困るわ。

 支度といっても、神官衣しか持ってきていないもの。

 神殿に入ってから服なんか1着も作っていないから、とても王宮のパーティーになんか出られないわよ。

 買うにしても時間が足りなすぎる。」

 私はこの国の女性の平均からすると割と大柄で、前世のように細かくサイズ分けされていないこちらの世界の既製服だと、若干のサイズ調整が必要になる。主に丈と胸囲の。

 パーティー用のドレスとか、調整が絶対間に合わないだろう。

 ドレスだけじゃなく靴とか小物、バッグやアクセサリーも必要だろうし。

 だが、母は私の完璧と思われたこの切り返しに、ドヤ顔で更に斬り返してきた。


「それは大丈夫。

 いつ帰ってきても困らないように、アンタの服や小物は、いつだってどんな状況にだって対応できるラインナップを揃えてあるから、安心なさい。

 神官を何人か買収して最新情報を逐一報告させてるから、サイズも問題ない筈よ!」

「なんか全然安心できない情報きた!!」

 買収ってなに!?

 しかも身体のサイズとか計られた記憶なんてないんだけど!

 そもそも神官衣はダホッとしたラインで、必要に応じてウエストを幅広のベルト紐で留める程度のサイズ調整しか要らないから、本人すら気にしたことないし!!

 けどそういや久しぶりに入った自分の部屋がそのまんま維持されてたのはある意味当然として、クローゼットの室内着とか夜着とか替えの下着とか、前に帰った時にあったのとは違うものが入れられてた事は、もっと疑問に思っても良かったのかもしれない。

(ちなみにその時の下着は数点持ち帰って今も使っている。

 さすがにへたってきたので、今回用意されたやつも貰って帰り、前のやつは思い切って捨てようと思っている)


「大抵の問題は金で解決するのが成金クオリティよ!」

「それ胸張って言うこと!?」

「どんだけ張ってもアンタみたく大きくならないんだからいいのよ!

 まあそういうことなんで、今からドレスに合わせたメイクと髪型の調整をするから。

 そろそろ準備ができた頃ね。はいこっち来て♪」

「い──や───っ!!!!」

 どうやらさっきメイドに指示していたのはこれだったらしい。

 反射的に逃げようとしたもののすぐに捕まり、別室にずるずる引きずられていった私は、半刻ほどメイドの手による全身マッサージの洗礼を受けた後、ぐったりとなった身体を容赦なくコルセットで締められドレスを纏わされ、あーでもないこーでもないと髪を結われては解かれまた結われて、顔にも何やら塗られては拭かれまた塗られ、死んだ目で次々宛てがわれるアクセサリーの海に溺れることとなった。

 ……まあ、救いは『ちなみにアタシのイチオシはコレ!絶対似合うと思う!!』と母が自信たっぷりに選んだドレスが、意外とシンプルな型だった事だ。

 シンプルながらも素材は極上で、身体のラインをきっちり出すマーメイドラインのそれは、パールホワイトに近い薄緑から、下へ向かうにつれエメラルドグリーンに変わるグラデーションに染められている。

 裾に広がるその色が、ファルコの瞳のようだと思ったが、次の瞬間にはもう1人、同じ色の瞳をもった男がいた事を思い出した。

 …母がこれを選んだ事に、なんらかの作為を感じるのは私の気のせいだろうか。


「お姉ちゃん、きれ〜い!お姫様みた〜い!!」

 …と、いつの間にお勉強が終わったものか、知らないうちに部屋に入ってきていた妹の声に、飛ばしていた意識を慌てて戻した。が。


「でしょう〜!?

 もしかしたら本物のお姫様になるかもしれないわよ〜!!」

 と答える母の言葉は、全力で聞かなかった事にした。

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