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2・人違いのままストーリー進行

グリム童話とか、かなり突飛な事を当たり前のように描写して、淡々と進んでいく展開とか割と好きです。

そんなイメージで書けたらと思っています。

「…きみは、誰?」

「わたしは……わたしの名前は、マリエル。あなたは?」

「僕に名前はないよ。

 僕は、まっしろで、なにも持っていないから。

 …だから、きみが呼んでくれる名前が欲しい。」

「……ファルコ。

 旧い言葉で“黄金(きん)(いろ)”という意味。

 今日からあなたの名前は、ファルコよ。」


 〜【Born Yesterday〜黄昏の王国】ファルコ出会いイベントより〜


 ☆☆☆


「ねえ、きみは誰?」

 一点の曇りもない澄んだ緑の瞳が真っ直ぐに私を捉えて、形のいい唇が、前世で好きだった声優のひとり、青山ヒカルの魅惑ヴォイスを放つ。


「確実に出会いイベントを埋めにかかってるわね。

 …けど、その手には引っかからないわ。」

 思わず腰が砕けそうになるが、ここで負けるわけにはいかない。

 その整った(おもて)に子供のようなキョトン顔を浮かべる彼に、私は容赦なく告げる。


「いいこと、ファルコ。

 ここであなたが出会うのは私ではないの。

 何も知らずにいるうちに、引き返せなくなる前に、やり直すべきだわ。」

 なんの間違いか、今この場面には間に合わなかったようだが、彼のヒロインはどこか別の場所にいる筈だから。なのに。


「ファルコ?…そうか、それが僕の名前なんだね。

 きみが呼ぶ名前が欲しかったから、とても嬉しいよ。」

 黄金に翡翠を埋め込んだ宝飾の如くキラキラと眩しい、その心からの笑顔を、曇らせることのできる者など、その場には居ない。


「なるほど。

 旧き時代の言葉で“黄金(きん)(いろ)”という意味ですね。

 勇者様にぴったりのお名前かと思いますよ。

 さすがは神官長です。」

「違う!いや違わないんだけど!!

 知らないという罪と知りすぎる罠──ッ!!」

「なに言ってんだこいつ。」

「…落ち着いてください、ヴァーナ神官長。」

「ちょっと待って!

 今、飾らない本音を躊躇いなく口にした人がいる!」

 …かくして、ヒロインの居場所に間違えて私を乗せたまま勇者ファルコとの出会いイベントがあっさり終了し、間もなく私は大神官直々の命により、【ファルコ】の教育係を任ぜられる事となった。

 …いや、日々の修行と礼拝以外、特に仕事も無い神官見習いだったマリエルならともかく、私には神官長としての仕事もあるのですが無視ですかそうですか。


 ☆☆☆


 ファルコの勇者教育の最初の一ヶ月は、籠城中の神殿の中で行われる。

 いわば、育成パートのチュートリアルというべき期間であり、この時期ヒロインとファルコはマンツーマンで、順番に一通りのカリキュラムを消化していく。

 またカレンダー上の休日に当たる日は、2人で過ごしながら、その週の成果を確認する強制イベントになっていた。

 …ヒロインではない筈の私と、この世界のファルコも同様。

 違うのは、メニューにカーソルを合わせてボタンを押すだけだったゲームの操作とは違い、内容から全て私が、自身で組み立てなければならないところだ。


 Born Yesterday〜黄昏の王国…ああもう長いから『イエ国』でいいわ。

 それはともかくそのイエ国で育成するファルコの能力値は数字で表示され、その週に実行するカリキュラムによって変動する。

 学問系のカリキュラムを実行すれば、智のパラメータがアップするのは当然だが、同時に力のパラメータが僅かにダウンする。

 体力系のカリキュラムでは逆の事が起きる。

 信仰系のカリキュラムは心のパラメータをアップさせるが、智と力は僅かにダウンするといった具合。

 更にストレス値なるパラメータがあって、それが一定値以上まで上がると次の週にファルコが行動不能になる為、時々休養コマンドを実行して下げなければならないが、そうすると先の3つのパラメータのどれかがランダムでダウンするので、なかなか思うようには上がらない。


 一応ファルコが倒れて行動不能になった週は能力値の増減はなくストレス値もリセットされるので、パラメータだけでいえばその方が効率的ではある。

 …のだが、そこは恋愛ゲーの罠ということで、数値には出てこない隠しパラメータとして信頼度と愛情度というものがあり、ファルコをダウンさせてしまうと、ファルコ本人を含めた攻略対象全員のそれが、一気に下がってしまうのだ。

 それはもう、終盤でやってしまうとその後のフォローが間に合わないくらい深刻に。

 一応そこでイベントの起きるキャラも居るが、結局隠しパラメータが下がるのは変わらないわけで、スチルコンプリートを狙うというのでもなければ、狙って起こすほどの旨味はない。

 そして、ファルコ以外の攻略対象者は育成の協力者でもあるので、彼らの信頼度はファルコのパラメータの上昇値に影響する。

 効率の良い育成の為には、避けた方がいい事態という事は間違いない。


 ちなみにメインヒーローであるファルコの信頼度は、最初の時点でマックスだ。

 彼のエンディングを目指す場合、ここから愛情値を上げていくとともに、全てのパラメータを平均して高い数値に持っていく必要がある。

(これは『きみの為にここまで強くなれた』と、口だけじゃなく実力で示す事が必要だから、という理由であると、後に某ゲーム雑誌が行なった製作者のインタビューにて語られている)


 勿論、ヒロインではない私に、彼を攻略する必要はない。

 しかし、国の命運がかかっているし、何故かヒロインの仕事である筈の勇者育成が、私の業務に加わってしまったので、効率良く進める為には、嫌われるわけにもいかないのである。

 最後の戦争の時に、あまりに能力値が低すぎると、ゲーム自体がクリアできず、バッドエンドを迎える可能性まであるのだから。


「ヴァーナ、今日は何をするの?」

「…神官長とお呼びなさい。

 今日は、この国の歴史を学んでもらいます。

 勇者として託宣を受け、ただ流されるまま戦うよりも、国への理解を深めて愛していただく事で、自身の住まう土地と文化を守るという自覚を持って、挑んでいただける事になるかと思うので。」

「…この国の為じゃなくても、きみの為なら強くなるよ。

 きみが望む限り、僕はどこまでだって強くなれる。

 僕はまっしろでなにも知らないけど、それだけはわかるんだ。」

 …だから、青山ヒカル声で無自覚に甘い台詞を吐くのはやめなさい。

 というより、それは私に対して言うべき台詞じゃありません。


 ☆☆☆


「ここにいたのか、ヴァーナ。」

 神殿の中の図書室で、ファルコの授業を行なっていたら、唐突に声をかけられ、声のする方へ振り返る。


「ダリ…ダイダリオン様、ごきげんよう。

 私に、何か御用でしょうか?」

「ダリオでいい。幼馴染だろう。

 何を今更取り繕う事がある。」

 彼の名はダイダリオン・ジェイス。25歳。

 我が国には王宮所属と神殿所属、二つの騎士団があるのだが、彼は神殿所属の聖騎士団に務める騎士で、今本人が言った通り、私の幼馴染だ。

 私が神官見習いとして神殿入りする15歳の時より2年も前に、彼はやはり見習いとして騎士団入りしていたので、神殿での立場は一応先輩という事になる。

 なので、一応ファルコの前だからという事もあり、ある程度の礼は取ろうと思ったのだが、その矢先にこれで、私は肩をすくめた。

 私の隣で、本から顔を上げたファルコは、どこか不機嫌そうにダリオを見上げている。


「ダイダリオン様、紹介しますわ。彼がファルコ。

 この度私が指導する事になった、託宣の勇者です。」

「初めまして。ファルコと申します。

 …未熟者ですが、この先お世話になることと思いますので、その折はどうぞよろしくお願い致します。」

 挨拶するようさり気なく誘導すると、ファルコはサッと立ち上がって礼を取り、流暢に挨拶の言葉を口にする。

 それにとっさに応える事が出来ず、ダリオは一瞬固まった。


「…なるほど。教育はうまくいっているようだな。」

「自身のことが判らないだけで、彼は聡い子です。

 最初から字も読めますし、言葉もその辺の若い子より、遥かに流暢に使えますわ。

 …判らないと侮って、悪い言葉など、彼の前では使わないようお願いしますね。」

 恐らくダリオはファルコの事を話だけで判断して、白痴か何かのように思っていたのだろう。

 ひとを見下すとかまではいかないが、彼には少し頭の固いところがあり、こうと思い込んでしまうと、以降の情報が頭に入らない事が往々としてあるのだ。

 今、ファルコの存在を無視して話をしようとしたのが、その証明だ。

 だがそのファルコが会話を、そしてそこに伴う感情の機微を理解できると判断すれば、そこを改める事ができないほど、ダリオは馬鹿ではない。


「そうか…挨拶が遅れて申し訳ない、ファルコ殿。

 私は騎士ダイダリオン。

 いずれこの国の未来を貴方に託す身、こちらこそよろしくお願い申し上げる。」

 ……ん?

 今、なんかちょっとデジャブったんだけど、気のせいか?


ファルコ


原作ゲームのメイン攻略対象であり育成対象。

ゲームタイトルの『Born yesterday』は、英語の慣用句の『I was not born yesterday(昨日生まれたわけでない=簡単には騙されない)』からの引用だが、実際には昨日どころか明日生まれたくらいの、良くも悪くも純真無垢。

年齢不明だが見た目は18、9。声優:青山ヒカル。

神殿の前に裸で倒れていたところを発見され、勇者の託宣を受けて庇護される。

ヴァーナ(ゲームではマリエル)に刷り込み式に懐く。

記憶喪失で、自分のことが何一つわからないが、字は最初から読めるし難しい言葉も知ってる。

正体はとある要人の遺伝子を元に作られたいわばクローン。

というか、遺伝子パターンを上書きした受精卵を急成長させたもので、容姿はまったく違って生まれたにもかかわらず、遺伝子だけ比較したらその人物と同一人物という結果が出る。

挿絵(By みてみん)

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