14・握り潰されていた真実(シナリオ)と可能性(フラグ)1
…そう、ファルコはロアン王子…アローンの複製だった。
正確には受精卵を一個用意してその遺伝子情報を一旦初期化し、そこに王子の遺伝子を上書きしたものを、急成長させたものがファルコの正体だ。
けど、最初の受精卵の初期化が完璧じゃなかったのか、それとも一卵性の双子が成長過程で似なくなる現象が起きたかは判らないが、出来上がってみれば全く容姿の違うものが出来てしまい、神殿ならば悪いようにはしないだろうと、作った研究員が無責任に捨てていった、というのが真相だ。
ちなみにその研究員も攻略対象者で、名前をトーヤ・バレンアレンという。
藍色の瞳と長い髪の眼鏡キャラで、美人系の優しげな顔だが、容姿に反して性格は基本変人で、無神経。
悪気なく失礼な事を平気で言うタイプで、ファンの間でも好き嫌いがはっきり分かれていた。
私は嫌いな方だった。性格が悪すぎて無理だった。
スチルコンプの為に1周はクリアしたが、このキャラを好きだという友人の感覚がどのイベントをとっても理解できず軽くモヤっただけだった。
そもそも女顔の長髪美形で更に眼鏡とかどこ目指してんのとしか思えない上、前世の私は男臭い系の方が好みだったから…あ、今もか。
ちなみにヴィジュアルだけで言えばバアル様は割と好みだったが、ヒロインとの年齢差を考えてしまい、いまいち萌えられなかった。
個人的に年齢差は15歳差までが限界だ。
それ以上になるとオートモードで必殺技『ロリコンじゃねえか!』が発動する。
あ、男女逆なら5歳差越えたらアウトだ。
私にはショタ属性はない。
ファルコは可愛いと思うけど、ゲームの中ならばともかく今の私の状況で、彼に恋愛感情を持てるかと言えば、首を傾げざるを得ない。
それはさておき人間関係や世情に全く興味がなかったトーヤは基本研究所に篭りきりで、帝国による侵攻と王城占拠に、神殿の協力でそれが奪還されるまで、まったく気付いていなかった。
その奪還劇で武勲を挙げた『勇者』の存在が持ち上げられて、それが自分の捨てた失敗作である事に気がついた彼は、『もしかしてあの個体は、意図したものとは別な可能性を秘めていたのでは』と考え、自分が生みの親である事は隠して、王立図書館に教材となる本を探しにきたファルコとマリエルに、偶然を装って近づく。
(出会いイベントはプレイヤー目線である為トーヤの本音は語られないものの、話しかけてくる内容があからさまに不自然で、何か目的があるのだろうという仄かしがある)
そして経過観察目的で育成の協力者となった彼だが、2人と接していくうちに、それまで知らなかった感情を徐々に自覚していく事になる。
マリエルに惹かれながら、ファルコに対しても親のような感情が芽生えた彼は、2人を守る為に、自分に出来る戦いとは何かを考えはじめるのだ。
…数あるルートの中で、ファルコの正体が明かされるのはこのルートだけだった。
一応アローンのルートでもそれらしいことが仄めかされるものの、はっきりとした真実は語られない。
物語の大筋にとっては、ファルコは勇者である事が重要なのであって、その正体など些末な事実なのだ。
……あれ?
でも今回、王城奪還はされたものの、アンダリアスを倒したのが私になってるから、ファルコが託宣の勇者って事実は世間的には公表されてないよね?
箝口令が敷かれてるわけじゃないから、神殿に伝手のある人は知っててもおかしくないけど、今回武勲を(私のせいで)立て損ねたファルコは、少なくとも引きこもり研究員の耳に届くほどの知名度は、今はまだ無い筈。
もしかして、トーヤがファルコに気付くきっかけ、なくない?
…てゆーか、そもそもなんでメルクールが、このことを知ってるんだろう。
「ちなみに、その研究員の身柄はこちらで既に確保済み。
俺の独断だったけど、王城を帝国に占拠された時点で、もし神殿にまで危険が及ぶようならすぐに姉さんを連れ出せるように、うちの私兵を交代で監視に立たせていたから、その監視の目に引っ掛かったんだ。
夜の夜中に、足跡が残らないように浮遊魔法まで使って現れた荷車が、人ひとり捨てて去っていくのを見て、監視していた者はまず、その正体を突き止めようと、戻っていく荷車を追った。
そしてその人物が研究所に入っていったのを確認して戻ったときには、荷車から投げ捨てられた人物は、神殿の門の内側に、既に回収されていたそうだ。
…その後のことは、姉さんの方が知ってると思うけど。」
まじか!トーヤ捕まってた!!
しかも、ゲームでは見逃されてた筈の、神殿前への人体遺棄が目撃されてたの、私が神殿に所属していたせいだった。
なんか私がひとりいるせいで、いろんなフラグが折れてってる気がする。
トーヤ・バレンアレン
失礼で無神経な変人化学者。26歳。
声優:中村茂。
ファルコの正体の秘密を握る人。
というかファルコの生みの親で、研究所に保管されていた王子の遺伝子を使って、彼の複製を作ろうとしていた。
成長させた複製がまったく違う容姿に育った事で、神殿の前に遺棄するが、それに勇者の神託が下ったことを知って、マリエルとファルコに近づく。
原作では2人と接するうちにマリエルに惹かれ、同時にファルコに対しても生みの親としての感情が芽生えて、最終的には彼らを守る為に、共に戦うこととなるストーリーなのだが、今回、物語の片隅でメルクールに身柄を確保され、片田舎に追いやられるもののそこで楽しく研究を続ける事になる為、登場もせずに脱落。




