モブキャラの転生は可能ですか?
優夢が宿屋で眠りにつくのを確認した俺は、ベッドに横になった。
眠気が訪れ、瞼が重くなる。
実は、異世界について調べていたのと優夢の装備の調達で、俺は徹夜してしまっていた。
「ゼオン様、今日はもう休まれますか?」
「ああ。ナヴィもお疲れ様。色々と助かったよ」
「いえ……あなたのお役に立てなのなら、私は嬉しいです。おやすみなさい……」
ナヴィが最後に何か言ったような気がしたが、強烈な睡魔に襲われうまく聞き取れなかった。
そして翌朝、午前5時。
「何か目が覚めてしまった……」
俺はボーっとした頭で、飲み物を取りに冷蔵庫へ向かう。
冷たいミネラルウォーターをグイッと飲むと、少しだけ目が覚めてきた。
「優夢はちゃんと眠れてるかな……?」
何となくパソコンで異世界転生アプリを起動させる。
画面に宿屋の廊下が映し出された。
「何か目が覚めちゃった……ふわぁ……」
欠伸をしながら、どこかで聞いたセリフを言う優夢。
やっぱり兄妹だな……と思いながら、俺は微笑んだ。
ガチャ
扉を開けて、部屋の中に入る優夢。
だがそこは、部屋と呼ぶには随分と手狭な空間だった。
優夢が蠟燭に火を灯す。
「ウォシュレットがないのは、嫌だなぁ……それに、異世界なのに和式っぽいし」
優夢は独り言ちながらおもむろにパンツを下ろすと、穴の上に屈み込んだ。
「これって、まさか……」
そう、まさかのトイレである。
優夢が屈むと同時に画面が動き、妹の太腿の間が正面アップで映し出された。
「ホアッ!? ホアアーッ!!」
予想外の出来事に、俺は妙な奇声を上げる。
無論、優夢は俺が見ていることなど知る由もない。
このままでは、乙女の花園から聖水が零れだしてしまう。
ブッ! プシャアァァァ……
妄想力を鍛えられた諸兄には申し訳ない。
妹のメンツに関わるので、これだけは言っておこう。
今のはスピーカーから聞こえた音ではなく、断じて優夢の排泄の音ではない。
俺が鼻血を噴き出した音である。
俺はティッシュを鼻に詰めると、血液が付着したモニターをパソコン用のウェットティッシュで拭き上げる。
途中でスピーカーから何か音が聞こえ始めた気がするけど、気にしない。
俺は変態だが、変態という名の紳士なのだ。
だからこのスクリーンショットも、あくまで妹の成長記録として保存しよう。
後で確認して、妹の成長の喜びを噛みしめようじゃないか。
俺は自分にそう言い聞かせながら、スクリーンショットのボタンを連打した。
「起きてください、ゼオン様」
「ふにゃ? ナヴィ?」
「もう夕方ですよ?」
俺はベッドからのっそりと起き上がる。
傍らには、エプロン姿のナヴィがいた。
「ナヴィ、その恰好……」
「似合いませんか? 一応あったので着けてみましたが……」
ナヴィはその場でくるりと回る。
ビキニと変わらないサイズの天衣がエプロンに隠れているため、裸エプロンに見えた。
俺は生唾を飲み込む。
「いや、凄く似合ってるけど……どうしてエプロン?」
「お昼を過ぎてもゼオン様が起きないので、お部屋の掃除と料理をしてみました。ご迷惑……でしたか?」
上目遣いで俺を見上げるナヴィ。
童貞相手にそれは反則技だ。
「迷惑なんかじゃないよ。むしろ、彼女ができたみたいで嬉しい」
「彼女……そんな、私なんかがゼオン様の……」
「謙遜することないだろ。ナヴィは美人だし、(おっぱい大きいし、)もし彼女になってくれたら最高だろうな」
「何か不謹慎な感情が混ざっていた気もしますが……ありがとうございます」
頬を赤く染めるナヴィ。
ああもう、本当に可愛いな。
ゲームのキャラクターじゃなかったら、本気で告白したいところだ。
「この匂い……今日はカレー?」
「はい。食材とルーがなかったので、残念ながらレトルトです。匂いと言えば、今日はやけにお部屋がイカ臭かったのですが……」
「……ハハハ」
俺は乾いた笑いで誤魔化した。
身体を良く洗って、部屋にはファ〇リーズしておこう。
「ゼオン様、妹様が呼んでいますよ」
「……へ?」
夕食の途中、ナヴィがパソコンの画面を指差す。
そこには、両手を振って叫んでいる優夢の姿があった。
キーボードのCtrlを押しながらEを押し、優夢を部屋に召喚する。
「ああっ!? カレーだ! いいなぁ……」
「妹様も召し上がられますか?」
「うん、いただきます……じゃなくてっ!」
「忙しい奴だな……一体、どうしたんだ? 落ち着いて話をしてみろ」
優夢は俺が飲んでいたミネラルウォーターを一気に飲み干すと、真剣な顔で俺を見る。
「コレットちゃんが、攫われたっ!」
「コレットって、あの宿屋の看板おっぱ……もとい、看板娘の?」
「優夢ね、コレットちゃんと友達になったの! でも、夕方お買い物に出たきり帰って来なくって!」
「……ゼオン様、これはサブミッションです」
「サブミッション? プロレスの?」
優夢はキョトンとした顔で頭に?を浮かべる。
「俗に言うクエストってこと?」
「はい。【宿屋の看板娘を救え】です。盗賊に攫われたコレットさんを助けることで、様々な報酬を取得できます。ですが……」
ナヴィはチラリと優夢を見る。
「現段階の妹様のレベルでは、難しいと言わざるをえません」
「そんな……何とかならないの?」
優夢は涙ながらに懇願するが、ナヴィは申し訳なさそうに首を振った。
「ナヴィ、コレットをここに召喚するとかいう裏技はあり?」
「技術的に不可能ですね。この世界で生まれた魂でなければ、実体化はできません」
「そうか……なら、考えるしかないな。今の戦力で彼女を助ける方法を」
「お兄ちゃん、それじゃあ……」
「ああ。このサブミッション、受けてやろうじゃないか」