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神様、決意する

 俺こと朝生(あそう)翔平(しょうへい)が住むアパートの1階には、風呂がついている。

住人同士で話し合い、使用する時間帯が決めてあるので、あまり長い時間入っていられない。

だが、幸い今は昼間で、使用する住人はいないため貸し切り状態だった。


 俺は脱衣所で服を脱いだ後、浴室に入る。

スマートフォンを取り出し、あらかじめダウンロードしておいた異世界転生アプリを起動した。

画面から光が漏れ出し、ナヴィが召喚される。


 「本当にパソコンと連動できるんだな」


 「容量の関係で、パソコンと比べると処理能力や一部機能が制限されますが、問題なく使用できますよ」


 スマートフォンの画面を操作し、転生者召喚をタッチする。

再び画面から光が漏れ出し、今度は優夢(ゆむ)が召喚された。


 「うわっ!? 本当にお風呂だ! しかももう脱いでるし!」


 優夢は掌で顔を隠すが、男の裸に興味があるのか、指の間からチラチラとこっちを見ている。

因みに優夢はYシャツ1枚で、下半身は何も穿いていない。

そのことに気づいていないのか、全く隠そうとしないため、見てはいけない部分まで丸見えだ。

鼻血が噴き出そうになり、俺は鼻を抑えて顔を逸らした。


 「と……取り敢えず、洗ってもらおうかな!」


 背中を向けて椅子に座る。


 「仕方ないからやるけど……こっちを絶対見ないでね?」


 ナヴィが親切にスポンジとシャワーを優夢に渡す。


 「バッテリーの消耗が激しくなるので、私はいったん戻りますね」


 「うん。ありがとう、ナヴィさん」


 ナヴィの身体が光に包まれ、スマートフォンの画面に戻っていく。


 「……さて、やりますか」


 優夢はお湯を出してシャワーの温度を確かめると、俺の背中にかけた。


 「おおうっ!?」


 突然お湯をかけられたため、変な声が出てしまった。


 「ちょっ……変な声出さないでよ!」


 「いきなりかけるからだろ!」


 「むぅ、我儘だなぁ……じゃあ、髪を洗うから、頭にお湯をかけるよ」


 シャワーで頭を軽く流し、シャンプーを泡立てる。


 「お客さーん、痒い所はございませんかー?」


 「特にないよ」


 優夢は美容院風の声かけで、髪をわしわしと洗った。

妹の指が俺の髪を丁寧に洗っている……それだけの行為だが、妙に心地良い。

 

 一旦すすぎ、リンスを髪に馴染ませ、またすすぐ。


 「あー、やっぱりYシャツ濡れちゃうなぁ……いいや、脱いじゃえ」


 「ぶっ!?」


 「こら、こっち見ないで!」


 脱いじゃえというパワーワードが、俺の脳内を駆け巡る。

俺からは見えないが、すぐ後ろでたわわな膨らみが揺れているのを想像すると、嫌でも俺の下半身が反応してしまう。


 「よし……OK。続き、やるよ?」


 鼻歌を歌いながら、優しく俺の髪をすすぐ。

俺は真っ赤になった顔が見られないように、深く俯いた。


 「あ、こら! 動かないの」


 フニュッ


 「うおっ!?」


 俺の頭を追って、優夢も前傾姿勢になったのだろう。

柔らかい感触が背中に当たった。


 「い……今のはその……違うの! 前よりおっきいから、加減がわからなくて……!」


 「わ、わかってる……」


 「……背中、洗うね」


 妙な空気の中、優夢がスポンジで俺の背中を洗う。

緊張しているのか、優夢の口数が減った。

俺も意識してしまって、下半身が大変なことになっている。


 「……お兄ちゃんの、おっきいね」


 「はあっ!?」


 「な、何でそんなに驚いてるの? ……変な意味じゃなくて、背中がおっきくなったって意味」


 「何だ、そっちか……俺はてっきり……」


 「……てっきり、何?」


 「いえ、何でもありません」


 優夢の手が止まる。

また何か言われるのかと思ったが、かけられた言葉は思いもよらないものだった。


 「……ありがとね、お兄ちゃん」


 「どうした、急に」


 「私を転生させてくれてありがとうってこと。もう2度と逢えないはずだったのに、こうしてまた会えたから」


 優夢の手が俺の背中に触れる。


 「お父さんやお母さんにも逢えるのかな?」


 「それは難しいと思う……さっき見た規約に書かれてたんだ。異世界転生アプリの存在を他人に公表してはいけないって」


 「そっか……」


 優夢の声のトーンが下がる。

何とかしてやりたいが、規約を守らずにアカウントを停止されたら、優夢の命に関わる。


 「お兄ちゃん……」


 フニュッ


 「ゆ……優夢? また当たってるぞ?」


 優夢の身体が俺の背中に重なる。

ムニュムニュと温かく柔らかな感触が背中に押しつけられる。


 「今だけはエッチなこと考えても良いから……しばらくこのままでいさせて」


 涙声で訴える優夢。

嗚咽が混じり、すすり泣く声が聞こえる。


 「優夢……」


 妹の泣き声を聞き、俺の心に切なさが去来する。

もう2度と逢えないはずだった妹。

これは、奇跡の再会だ。

そう思った瞬間、身体が勝手に動いていた。


 「優夢っ!」


 振り向き、正面から愛しい妹を抱き締める。


 「おにい、ちゃん……っ!」


 お互いに泣き顔で見つめ合う。


 「逢いたかった……お前が死んでから、ずっと」


 「うん……ありがとう、お兄ちゃん」


 泣きながら微笑む優夢を見て、俺は決意した。

――もう2度と、優夢を死なせたりしない、と。

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