優夢、スライムと戦う
水色のスライムは悠々とショッパナ平原を闊歩していた。
人間に慣れているのか、優夢が接近してもこれといって目立った動きはない。
「スライムってこの水色のぷにぷにだよね……あんまり強そうじゃないけど、私に倒せるかな?」
優夢は手近に捨ててあった何かの空き瓶を拾う。
「武器はこれで……よし、やってみよう!」
(がんばれ、優夢!)
俺の声はもう届かないが、心の中で精いっぱい応援する。
優夢はスライムの下へ駆け寄ると、空き瓶を振り翳した。
「えい!」
勢いよく振り下ろされた空き瓶が、スライムに命中する。
スライムの体液がビチャッ! と音を立てて周囲に飛び散った。
「えい! えいっ!」
ビチャッ! ビチャッ!
優夢は何度も何度も空き瓶を振り下ろす。
その姿は思っていたよりも残酷で、ちょっとしたスプラッタ映画にも見える。
やがてスライムは体液の大部分を失い、全く動かなくなった。
「はぁっ、はぁっ……や、やったの?」
へたっ、と女の子座りで草原の上に座り込む優夢。
「優夢、がんばったな……よくやったぞ!」
画面の前で頷く俺。
だが、その時異変に気づいた。
優夢の職業は回復役だから、ローブで全身が覆われている。
「気のせいか? 一瞬、太腿が見えたような…グラフィックのバグか?」
「どうでしょう……一応確認しますね」
ナヴィがキーボードを叩き、状況をチェックする。
この時も何故か、俺の背中に暴力的な膨らみがムニュムニュ当たる。
(こいつ……俺の背中をおっぱい置き場と勘違いしてないか?)
俺は頬が熱くなるのを悟られないように平静を装う。
しばらくすると、ナヴィは焦ったように声を上げた。
「バグじゃありません! スライムの粘液の効果です!」
「粘液の効果? それって……」
「装備を溶かしてステータスを下げるデバフ効果ですっ!」
「きゃああああっ!?」
ナヴィが言い終わるのとほぼ同時に、パソコンのスピーカーから悲鳴が聞こえた。
既にローブの前面を溶かされた優夢が、両腕でたわわな胸の膨らみを隠す。
その背後には、2匹のスライムが迫っていた。
「優夢っ!」
ビュル! ビュルビュルッ!
スライムからが優夢の背中に向け、ヌルヌルの粘液を発射する。
べったりと付着した粘液は、ローブをドロドロに溶かしていく。
「た、助けて……もうしないから、やめてよぅ……」
完全に素肌を晒した優夢は、涙目で訴える。
だが、人語を理解できないスライムには関係なかった。
ヌルヌルと優夢の身体を這いずり回り、粘液を発射する。
「嫌……ヌルヌルでベトベトする……っ」
半泣きの優夢のHPゲージが減っていく。
だが、限界が近づいているのは優夢だけではなかった。
「ぶほっ!」
俺は噴き出た鼻血を止めるために、鼻にティッシュを詰め込む。
画面の中の3Dモデルとはいえ、全裸の女の子のあられもない姿を見て、童貞の俺が興奮しないわけがない。
「はあっ、はあっ……」
おっぱいを守ることに気を取られて下の守りが疎かになっている優夢は、俺が見ていることも知らず股を開く。
「うおおおぉぉぉ!? そんなところまで再現されて……これ、何て神ゲー!?」
「ゼオン様……流石にドン引きします……」
スクリーンショットを連発して盛り上がる俺を、ナヴィは冷ややかな目で見つめる。
「い、いや……これは、そのー、違うんだ……」
下手な言い訳すら思いつかない俺に、ナヴィはため息をついた。
「良いのですか? こうしている間に、妹様が死んでしまいますよ」
死ぬ、という言葉に俺は冷静になる。
そうだ……俺はもう一度優夢に逢うために転生させたのに……
「ナヴィ、俺は優夢を助けたい……どうすれば良い?」
「では、キーボードのCtrlキーを押したまま、Eを押してください」
「Ctrlを押して……E」
押した瞬間、眩い光が優夢を包み込む。
優夢の身体は光の粒子となって、どこかへ消えていった。
「優夢!? ナヴィ、優夢はどこへ行ったんだ!?」
「転生の神殿です」
「……神殿? 転生の塔じゃないのか?」
「転生の塔は転生と魂の具現化をするだけです。転生の神殿は、モンスターに敗北した転生者が神様から啓示や祝福を受け、また新たに冒険へ行く準備をする場所です」
「なるほどな……で、その神殿ってどこにあるんだ?」
「ここです」
「……へ?」
頭に?マークを浮かべる俺に、ナヴィはニッコリと微笑む。
「ゼオン様のお部屋が、転生の神殿なのです」
突然、眩い光が俺の部屋を包み込む。
あまりの眩しさに俺は目を閉じる。
「来ましたね」
輝きが収束していく。
その中心部に、一糸纏わぬ姿の少女がいた。
たわわな膨らみを両腕で抱き締めるように隠した少女は、ゆっくりと目を開く。
「……え? ここは……どこ?」
オレンジ色のサイドポニーテールが揺れる。
あまりの急展開に、俺は止まったばかりの鼻血が噴き出しそうになった。