神が生まれた日
朝生翔平、30歳……独身、無職。
それが現在の俺の肩書きだ。
途中まで順風満帆だった仕事は、度重なる上司からのパワハラで鬱になったため辞めた。
そして、アパートの一室で絶賛引き籠りライフを送っている。
幸い、貯金の余裕はまだある。
食事は近くのコンビニなどで調達し、趣味のゲームやアニメ、マンガで過ごす日々。
将来の不安が全くないと言えば嘘になるが、今は仕事を探す気分になれず、今日も自堕落な生活を送っている。
「……異世界転生アプリ?」
いつものように自室のパソコンでネットサーフィンを楽しんでいると、興味深い文字が飛び込んできた。
異世界転生と言えば、小説でお馴染みのネタである。
平凡な主人公が異世界に転生し、圧倒的なチート能力を手に入れ大活躍する……
今の俺からしたら、何とも羨ましい設定だ。
「ダウンロードは……っと」
少しでも優越感に浸れたら……そんな甘い考えで、アプリをダウンロードする。
課金なしで遊べるシミュレーションゲームのようで、パソコン、スマートフォンの両方に対応しているようだった。
ダウンロードを終えると画面が切り替わり、ユーザー登録へと移行した。
「ユーザーネームか……」
俺は少し悩む。
ゲームに感情移入したい俺としては、ふざけた名前は避けたいからだ。
10分悩んでから、俺はキーボードを叩き始めた。
「ゼオン…っと」
そこはかとなく格好良い名前にしてみた。
ちょっと中二病っぽいが、名前の響き優先ってことで。
諸々必要事項を入力すると、画面が暗転した。
しばらく待っていると、天使の少女が画面に現れた。
「初めまして、ゼオン様。私はあなたをナビゲートする天使です。名前を付けてください」
3Dグラフィックスの天使が深々とお辞儀をする。
かなりの巨乳で、おっぱいがタプンと揺れる様子は男としてクルものがあった。
「ナヴィ……っと」
若干適当な気もするが、わかりやすくて良い気もする。
ナビィではなく、ナヴィなのが俺のこだわりだ。
「ナヴィ、ですね。素敵な名前をありがとうございます」
「いやいや、礼には及ばんよ。はっはっは」
調子に乗って返してみたが、中々恥ずかしい……
後悔しつつ頭を抱えていると、ナヴィはクスクスと微笑んだ。
「ゼオン様は、お茶目な方ですね」
「いや、それほどでも……へ?」
……待て。
俺は今、誰と話をした?
チャット用のインカムなんて持ってないぞ?
画面がチカッと輝く。
眩い光に目を閉じると、パソコンからBGMとSEが鳴り響いた。
俺はゆっくりと目を開ける。
いつの間にいたのか、俺の傍らには見覚えのある美しい少女が佇んでいた。
「……召喚に従って、参上致しました」
流れるような金髪に、吸い込まれるような青い瞳。
透き通るような肌に、白く輝く翼。
「異世界転生アプリへようこそ。あなたは彷徨える魂を導く神となりました」
深々とお辞儀をした天使の少女――ナヴィが微笑む。
薄い布を纏っただけのおっぱいが、タプンと揺れた。
「……はあああぁぁぁぁぁ!?」
朝生翔平、30歳……独身、無職。
この日から俺の肩書きに、神様の2文字が加わることになった。