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ぼくと平先輩は無言になって、とりあえず頼んでいたコーラを飲んだ。平先輩はコーラを口に含んだ瞬間顔をしかめた。
「やっぱり、コーラはきついわ」
「なんで頼んだんですか?」
「最近飲んでなかったから」
もう一口飲み、さらに顔をしかめる。
「うあー、無理。黒木くん、飲む?」
「遠慮します」
平先輩は先輩という威厳を捨ててぶーぶー文句を言った。
…………。こんなに態度の方まで子供じみた先輩を見たことがない。どうしたのだろうか? 嫌なことでもあったのかな?
「うちのクラスで盗難があったこと、君は知ってる?」
恨めしそうにストローでコーラを掻き混ぜながら先輩は言った。
「盗難があったのは知ってますけど、それって、先輩のクラスであったんですか?」
先輩は頷く。
「お札だけ盗まれていたわ。友達ってほどの人じゃないんだけど、やっぱりクラスメイトが盗難にあったのは気分が良くないのよ」
だから今日は様子がおかしかったのか。
「君、犯人を知ってたりしないかしら」
それは質問ではなく、詰問だった。少し前にも似たような問い掛けを他の誰かにされた場面を瞬間思い出した。だが、それは現実逃避。ぼくは、その良くわからない加減に狼狽していた。
「知ってるわけ、ないじゃないですか」
「そう。ならいいんだけど」
先輩の目は険しかった。同級生の國寺くんでも、ここまで辛辣な目付きはしないだろう。
――“怪人”。
そんな言葉が浮かんだ。誰が先輩の何を見てそんな諢名をつけたのかは知らないが、なるほど、そのまんまだ。
「なんで、そんなことを?」
場所や姿勢が違えば談笑用のネタなのかもしれないが、違えばの話。平先輩は絶対世間話の類のつもりでないはずだ。
先輩はコーラを掻き混ぜる手を止めていた。くるくると氷がカップの中を回り、かしゃんといってコーラに全体を一瞬水没させた。
「それは知らなくてもいいこと」
怖っ。