6
ぼくの隣に現れたのは平先輩だった。
「お疲れ様です」
「お疲れ」
とりあえず挨拶を交わすが、会話は起こらない。そりゃまあ、部活中でもほとんど話したことはないからな。
いつも平先輩は松前先輩の話しを聞いている。一方的に話し続ける松前先輩と、それを適当な相槌を打って過ごす平先輩。はたから見ていると仲の良い姉弟なのかと思えることがある。
「黒木くん」
平先輩がおもむろに名を呼んだ。そんなこと今までなかったため焦った。
「えっ、あ、はい?」
横目でなく顔を向けた。平先輩は凛と澄ましたままだった。
「文化祭の準備、ちゃんと手伝ってる?」
ぼくは返答に窮した。まさかそんなことを聞かれるとは思っていなかったため、というか会話がはじまるとは意外だったため、そもそもの返答の仕方を忘れてしまった。
「あっ、えーと……」
「私はサボタージュ」
ぼくの返答は聞かずに先輩は話す。
「えっ、あ、そうなんですか?」
平先輩は頷く。
「クラスではまだ準備をしてるけど、特に手伝うこともなかったから抜け出してきたわ」
凛としながらもその声は幼げなものだった。それは演技とかではなく、体質だった。そのギャップに最初のころは驚かされたが、そんな驚きも既にない。
「ねえ、黒木くん」
最初の質問すら終わっていないのに、先輩は次の質問をする雰囲気だった。
「なんですか?」
「君のクラスで可愛らしい男の子っているかしら?」
「……はい?」
また返答に窮した。よもやそんな質問をされるとは……その意図はなんだろうか?
「どうしてですか?」
「なんとなく」
信号が青にかわり、ぼくらは歩き出した。
「……いなくもないですけど」
「ふーん」
先輩に興味はなさそうだった。なんで!