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部室へ向かったが誰もいなかった。どうやらみなさんクラスの方に出ているらしい。それならいいか、と教室へ戻ることにした。
教室へ戻ってみると、喧騒の中、小阪くんが教室の隅の床に座っていた。所在無さげに。
「おかえり」
小阪くんが硬質的な笑顔で言ってくれた。
「ただいま」
なんとなく、つまり自然にそう返していた。
「どこ行ってたの?」
「部活に休みの報告。誰もいなかったけど」
「そうか」と小阪くんは相槌を打つ。
時々作業を手伝いつつ、雑談を交わした。崇城さんとは違い、屈託なく話せた。小阪くんは聞き上手で話し上手。話すのも聞くのも下手なぼくでも、ちゃんと会話が成立した。ちょっと疲れているようだったが。まあ、授業のあとの作業で疲れてない方が変だけど。
作業は六時近くに終わった。たった一日で小道具の準備がかなり出来ていた。小道具類は大き目のダンボールに詰め込まれ、教室の端っこに片された。
教室内は解散ムードがありながらも、一部の生徒たちは帰路につこうとせずに談笑をしていた。ぼくはさっさと帰るために鞄を背負った。そのとき、教室の隅で小阪くんが鞄と睨めっこしているのを見た。
「小阪くん、じゃあね」
近付きそう挨拶した。小阪くんはちょっと慌てたようにぼくの方を向き、それからほっとしたように「お疲れ様」と言った。
駐輪場で自転車にまたがり帰路へつく。校門を出てしばらく学校前の道を進み、県道とぶつかるところで県道沿いに曲がる。県道を反対側へ渡るのだが、その場所はその日の気分でかえている。今日は学校前の道と県道がぶつかる場所にある交差点で停まった。
信号待ちのため多くの学生がその交差点で足を止めていた。電車で通学している生徒たちはここで県道を渡り、駅前通りに出る。駅前通りを使う生徒は電車通学が大半なので、この交差点で信号待ちをする自転車姿はあまり見ない。他の人たちは友達同士での下校なのか、楽しげに話を交わしている。
ぼくの隣に誰かが立った。あまり気にすることでもないのだが、反射的に確認をした。
目の合った平先輩が、「あら?」と言った。