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 全てが終わって文化祭がはじまった。

 小阪くんは今日学校へ来ていない。

 職員会議の末、お咎めなしのはずだったが、少なくとも犯罪をしたことにかわりないと小阪くんは言って、暫くのあいだ自宅謹慎をすることに決めた。

 なんていうか、彼なりに間が抜けている。彼らしいっちゃ彼らしいが。

 小阪くんに盗みを働かせた先輩方は、正真正銘謹慎をくらっている。退学されていないのが驚きだが、そこにも小阪くんが何やら噛んでいるらしい。

 張本人さんはさすがに退学を示唆されたらしいが、小阪くんが何やらフォローしたらしい。

 どこまでも優等生。というか、優しい。甘いって言うのかな。それとも?

 なんにせよ、悪い子ではない。ちょっと価値観がおかしい気もするが、良い友達に巡り会えたと思う。

 小阪くんが盗んだお金は、すぐに被害者の生徒の元へ返された。クラス担任が事情説明をして秘密裏に返したらしい。

 事件のことは、解決されたという情報だけを各クラスに流すことになった。その結果、金川さんはクラスの和の中へと戻った。崇城さんも一緒にだ。クラスメイトたちが金川さんに対して「疑ってゴメン」的なことを言っているのを見るのは、至極感動的だった。現実にあるもんなんだね、こういう感動って。

 これで顛末は全て語っただろうか?


 さて、後日譚。

 文化祭の日、ぼくは文芸部の方に逃げていた。それは文芸部にいたみんながそうだった。

「にしても、人来ないよな」

 松前先輩が呟く。

「ですね。場所が悪いってのもあるんでしょうけど」

 ぼくはそれを返す。

「んだよな」

 溜息をつく先輩。

「まあ、そのうち来るわよ」

 平先輩が嘯くように言う。

「でもなあ――っと」

 今まで静かだった廊下が少々賑やかになった。といっても、少人数の足音が聞こえただけだが。

 足音はドアの前でやんだ。といってもドアは開けているため、誰が来たのかは知れた。

 崇城さんと金川さんだった。

「やっほー、黒木くんに國寺くん!」

 崇城さんが手を振って入ってきた。それに二人も続いた。

「崇城さん……なんで?」

 なんでこんなところに?

「だって約束したじゃない。黒木くんの小説読ませてって。あと、國寺くんのも。気を使わせるのもなんだから、こっちから来てみました」

 笑顔で崇城さんは言う。なるほど。だけど、なんで金川さんもいるんだ?

 ぼくの疑問が顔に浮かんだのか、崇城さんは説明した。

「金川さんには、まだ事件の顛末を話してなかったから。万永先輩にはワタシから話しておいたから」

 そういえば、そうだ。にしても、万永さんにはあれから何も報告に行っていなかった。近い内に会いに行かなきゃな。

「黒木くん。やっぱり、小阪くんが休んでるのって、事件に関わってたからなの?」

 今まで話したことが皆無の金川さんがぼくに問うてきた。なぜか戸惑いを覚えたが、それに対して答えた。

「うん。でも、小阪くんは全然悪くないよ。それから、金川さんも巻き込んだ結果になって、なんだか落ち込んでたな」

 そう。実は小阪くん、あらかた事件が片付いたあと、金川さんのことを心配していた。それと同時に、今の境遇に追い込んだことが自分であることに落ち込んでいた。

「どう謝ればいいんだろう……」

 考え込んでいた。もはやそれしか考えていなさそうだった。ある意味一途な念だった。いいなあ、こういう純粋なの、とか思った。

 ぼくはそれから事件の始終を話した。万永さんが来たのも顛末を知るためだろうから、というかそうらしいから。

「……学校来ればいいのに」

 話しが終わってすぐ、金川さんが呟いた。

「手伝って欲しいことあるし、それに……」

 そういえば金川さんは文化祭実行委員だ。人手不足は頭が痛いのだろう。ぼくはやはりクラスの方へ行くべきだろうか。

「人手不足なようなら、ぼく、これからクラスの方へ行きましょうか」

 言った途端、平先輩に「そうじゃないでしょ」と言われた。ぼくはクエスチョンマークを、金川さんは赤面を浮かべ、その場にいた他の人は何かを悟っているような顔をして呆れていた。なんで?

「あっ、そうそう。黒木くん、小説読ませてよ!」

 場の雰囲気をかえようとしてなのか、崇城さんがやけに元気な声で言った。

「ああ……部誌って、いくらでしたっけ?」

 ぼくは松前先輩に救いを求めた。本音はかわらず、崇城さんには読ませたくなかった。だが、松前先輩はそれを知ってか知らずか、「お前、友達からお金取ろうとしてんじゃねーよ! タダだタダ!」

 と、おっしゃった。

「そうね。一冊や二冊、毎年売れ残るもの。いや、十冊ぐらい売れ残るんじゃないかしら?」

 平先輩が加勢し、

「うんうん。あげるといいよ」

 山気先輩がとどめ。

「えっ、いいんですか? やったー!」

 ――……ぼくの関与しないところで話が進んでる!

 目の前で松前先輩が崇城さんに部誌を手渡す。崇城さんは満面の笑みでそれを受け取った。

「良かったじゃない、黒木くん。君の小説を楽しみに読んでくれるって人がいて」

 平先輩が、なんか“怪人”っぽい笑顔で言った。

「じゃあ、ワタシたちはそろそろ行こうか? じゃあ、黒木くん、またね。ホームルームは来るんだよね? じゃあ、そのとき! それじゃあ、お邪魔しました!」

 元気に崇城さんと金川さんが去っていく。

 ……うん。もう、知らない。

 以上で『ティーンルーティーントゥラブル〜セットウセイトゥラブル〜』は完結です。

 これまでお読みいただき、誠にありがとうございました。

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