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ごたごたをうまく書き表すことが出来るほど、ぼくには文才がない。だから、要点だけをまとめよう。
最初の事件が起きた日、トイレへ向かった小阪くんであったが、トイレは文化祭準備から逃げてきた男子たちが溜まっており、なんとなくいづらかった。小阪くんは二階のトイレへ移動した。同じような状況になっていそうなことに気付かなかった小阪くんは、なんというか、間が抜けていると言えば間が抜けていたが。
トイレのドアを開けたら性質の悪い先輩さん方がずらーり。先輩方は見た目ひ弱そうな彼を一目でカモと判定。小阪くんがそれに抵抗出来るはずなし。あわれ小阪くんの純真は腹黒な先輩方に踏み躙られた。
「二の五に財布を入れたまま口の開いてる財布があるから、それを取って来い。お札だけでいいから取って来い、と」
小阪くんは言った。
脅された小阪くんは二年五組の教室へ向かい、その財布を盗んだ。そして財布をまた鞄へ戻そうとしたところを平先輩が手鏡で偶然見ていた。
小阪くんはトイレへ戻ろうとしたが、そこへぼくが階段を上がってきた。咄嗟に小阪くんはダンボールや人でジャングルのようになった廊下に溶け込んだ。ぼくがいなくなってからトイレへ行こうとしたが、トイレの前にはあのパワフル女子。その女子の従者のようにして出てきたこの先輩方は平先輩と同じクラスだったわけではないらしく、違うクラスへ入って行った。だが、小阪くんを見付けると睨みつけたようだ。まるで逃がさないかのように。
小阪くんはどうすることも出来ず、ただただその日を過ごした。だが、打開策を打ちたてようとしたらしい。
それが、盗難にあったフリ。その日の帰り際に彼の挙動がおかしかったのは、それを考えていたからだそうだ。
盗んだお金を盗難にあったことにして、お金はそっと返しておこうと考えた。そして実行。自動販売機にジュースを買いに行った帰り、彼がトイレに寄ったのは自分のお金を靴下に隠すためだ。
だが、思い通りにはいかない。まるで無関係な金川さんに容疑者の疑いが掛けられてしまった。「こんなことになるんて」というセリフは、自分の境遇だけに対して掛けた言葉ではなかったのだ。
そして話は今日へ。ぼくは最初、小阪くんをちょっと外へ行こうと連れ出した。あとから二階へ行くことを告げると、困ったような呈を見せたのは、例の先輩たちに会いたくなかったからであろう。ぼくが小阪くんでも会いたくない。だが、ぼくはそれでも連れて行った。
ぼくが松前先輩と話している内に、例の先輩方は小阪くんと接触し、お金を要求した。小阪くんは作った事実の嘘をついたが、先輩方は「それじゃあ、これを盗め」と迫り、小阪くんは抗えなかった。そこで嘘をついたことを述べ、先に盗んだお金を手渡した。だが、先輩方はついでだからとさらに盗みを働かせようとした。
かなり物騒な話をしているが、声を潜めて周囲に聞こえないようにすれば、案外先輩たち数人が後輩を囲むという図は不自然でないのかもしれない。理不尽だが。
それをずっと教室前で待っていた平先輩はさりげなく見ていた。そして小阪くんが折れて万永さんの財布からお金を盗んだとき、小阪くんだけを捕まえ、一階へ引きずって行った。小阪くんだけなのは、さすがに平先輩でも分が悪かったからだろう。
さて、あたり前な話をするが、平先輩は今回の事件の黒幕をその時点で知ることになった。だから今、例の先輩方の、つまり小阪くんに盗難を強制した張本人である男子生徒がここに連れて来られている。
この人、往生際が悪いらしく白を切ろうとしている。まあ、それが続くのも時間の問題だろうけど。
まあ、なんにしてもだ。
――……なんだよそれ。
それが感想。今回の連続盗難事件、蓋を開けてみれば盗難という名の脅迫であり、連続でもなかった。
「……平先輩。どうするも何も、これは先生方に任せるしかないですよ。ぼくらにはそれしか選択肢はありません」
男子生徒に迫り、存分に“怪人”振りを発揮している平先輩にそう声を掛けた。ついでの説明ではあるが、男子生徒さん、半分泣いてる。口がわなないてる。ここからは後ろ姿しか見えないが……いったい、平先輩はどんな顔をしているのだろう? 興味はあるが見たくはない。
「それにしても、ちゃんと先生とか被害者の子とかには説明しなきゃいけないわね」
ノーマルレベルの『怒』の表情で平先輩はぼくに向き直った。安堵と残念の情を覚えた。
「まあ、張本人にさせるのがいいわね」
男子生徒がおののく。本来それは自業自得であるはずなのだが、可哀相に一瞬だけ思えてしまった。まあ、一瞬だけ。だから――
「そうですね。それがいいですね」
ぼくはそう言った。




