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ぼくは万永さんに鞄の中に財布を入れ、口を開いたまま入り口の近くに置いてくれないか、とお願いした。その目的は犯人を捕まえるためだ。
平先輩は小阪くんが犯人だと言った。いや、はっきりそう言ったわけではないけど、それはただたんに小阪くんの名前を知らなかっただけ。
「君のクラスで可愛らしい男の子っているかしら?」
その質問の意図は、小阪くんがぼくのクラスメイトなのではないかと思ったからだ。なぜぼくと同じクラスなのではないかと思ったのは、ぼくが先輩の名を呼ばれるのに気付いて教室を覗き込もうとする直前、小阪くんが慌てて廊下の人込みに紛れたから。
昨日の喫茶店で、平先輩は自分の考えを――解答を回答した。ちょっと回想。
「その子を怪しいって思った途端、君が登場した。しかも彼は君を避けるようだった。首下に見えた体育着の色も一年生のものだったから、知り合いだからじゃないかなって思ったの。だから聞いたのよ。可愛らしい男の子いるかって」
間の抜けた話である。
「で、お札だけ盗んでる理由だけど、それは隠しやすいし少量でも価値があり、かつ、たくさん盗めるから。その隠し場所だけど、きっと靴下の中よ」
当たり。小阪くんは長い靴下の中にお札を隠していた。
「でも、そんなのポケットでいいんじゃないんですか?」
「素早く確実にって言ったら、ポケットはまずいわ。意外とポケットに手を素早く入れるのって難しいのよ。手で握ってた方が安全。それからすぐにトイレにでも入ってお金を靴下に隠したんじゃないかしら」
と、平先輩は言った。
「……そんなもんですか?」
「そんなもんよ」
ついでに、ぼくが平先輩が小阪くんを疑っていることに気付いたのは、先輩が握りつぶしたお札に二箇所折れ目がついているのを見たときだ。小阪くんの財布に入っていたお札にも折れ目が二箇所ついていた。
「動機は何かしらね? 気分かしら?」
さすがに先輩でもそれはわからなかったらしい。
「せざるをえなかったのかしら?」
偶然言い当てていた。