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放課後。文化祭前日の今日、学校内はすでにお祭り騒ぎになっていた。廊下を生徒たちが駆けずり回り、教室を覗けば賑やかな世界が広がっている。
一階の廊下を歩きながら、他クラスの様子を垣間見ていた。隣には小阪くんがいる。
「抜け出して良かったのかな……? 戻った方が良くないかな?」
小阪くんが心配そうに呟く。
「うん、いや、ちょっと二階に用がるんだよ……」
ぼくは小阪くんを誘って準備を抜け出してきた。今、ぼくらのクラスは先生を中心に準備を行なっている。金川さんは学校へ来てはいるものの、ずっと黙り込んでいたので、リーダーがいないのだ。崇城さんが傍についているのだが、そんな二人を、クラスメイトは疑心を持った目で見たりしていた。
「えっ? 二階に行くの?」
「崇城さんに頼まれて、先輩のクラスにダンボールをわけて貰えないか聞きに行くんだ」
「……そうなんだ。でも、いつの間にそんなこと頼まれてたの? 黒木くんと崇城さんが話してるの、今日は見てない気がするけど」
「朝頼まれたんだよ」
「ああ、二人とも朝早いから……」
ぼくらは二階へ上がり、しばし立ち止まった。廊下の左手を確認し、それから右へ進んだ。二年四組の前で立ち止まった。もちろん、この階の廊下も生徒でごった返しており、つまり回りは先輩だらけ。首筋が緑色の体操服を着た人ばかり。気まずい……。
ぼくは机が寄せられている前側のドアから教室内を覗き込んだ。机の上に鞄が乱雑している。中には口の開いた鞄もある。そんな一つが出入り口の傍の机の上にあった。
「おっ? なんだ、黒木? 何しに来た?」
黒板の前に松前先輩が立っていた。
「ちょっと待ってて」
小坂くんにそう言い、教室内へ入った。
「こんにちは。クラスの人にダンボールどこからか取って来いって言われて……先輩、ダンボールって残ってませんか? あったら頂きたいんですけど……」
「ははあ、お前、意外と面倒がりなんだな。スーパーまで行くのが面倒だからって、俺のとこに来たのかよ?」
ぼくはとりあえず頷いた。
「じゃあどうせ、ないって言ったら平とか山気先輩のとこにも行くつもりなんだろう」
話を合わせてぼくは頷く。
「そうですよ。というか、そもそも作業が嫌になったんですよ。だから、話し相手も捜してたんですよ」
「それで俺かよ? まさかお前、俺がさぼって暇しんてじゃないかって思ったな?」
「いえ、そんなことないですよ」
ぼくと松前先輩はそれから少し話した。だが、いいかげん先輩は作業をしなければならないらしく、本題へ戻った。
「ところで、ダンボールだっけ? それなら――」と言い掛けて、先輩はドアの方を見た。
「どうしました?」
聞くと、先輩は「なぜかそこに平がいたような……」と言う。
ドア付近に平先輩はいなかった。それだけでなく、小坂くんの姿もなかった。