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「それにしても平穏だよな」

 松前先輩が部誌の原本をぱらぱら捲りながら、物足りないという呈で呟いた。松前先輩は普段オラオラな感じのムードメーカーなので、退屈そうでいるのは珍しい。面倒くさそうでいることは多いが。

 ここは図書室の隣にある文芸部部室。平生はセミナー室なる不明瞭な役割を担っている。

「どうしました?」

 読んでいた本から顔を上げて聞いた。先輩は食いついたのは君かよ、とでも言いたげな表情を浮かべた。この部室にはぼくと松前先輩の他、國寺くん、山気先輩、それからもう一人の二年生で文芸部唯一の女子であるたいら先輩がいた。“麗人”“怪人”“俳人”“零人”と称されるお方で、ぼくがこの部活ではじめて会った人。第一印象と今の印象が一番変わった人。

「去年のこの時期、つまり文化祭の準備を放課後にはじめるころにはさ、出たんだよ」

「出た?」

 松前先輩はおかしからずという顔で頷く。

「盗難だよ。ほら、みんな作業に集中するから、貴重品に注意いかなくなるんだよな。そこを狙うやつがいるんだよ。ふざけんなよな。それで文化祭中止になり掛けたんだからさ」

 どうやら松前先輩は腹を立てているらしい。もしかして盗まれたりしたのだろうか?

「先輩、盗まれたりしたんですか?」

「まさかね。緊急集会とかやられるから面倒なんだよ。だるいっての」

 矛先は一緒だが原料の違う怒りらしい。

「まあ、あるよりはない方がいいよ」

 パソコンのキーボードを打鍵しながら山気先輩が言った。ちょっと愉快な物言いにぼくはくすっと笑声を漏らした。『ポケット・グロースリー』と部活内では呼ばれているだけあって、含蓄に富んでいる。唯一の三年生で、文芸部のエース。廊下で天井を見上げながら放浪しているところをよく見掛けたりするが、頼れる先輩だ。たとえば小説を書くときとか。

「それもそうですけど」

 松前先輩がつまらなさそうに言う。

「何が面白くないのよ」

 疑問形でない疑問文で平先輩が刺すように言う。

「そういえば、平は去年盗まれたんだっけ? 間抜けだ――」

 あっ、手鏡で叩かれた。

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