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ぼくと崇城さんは、現在二階へ移動している途中である。その理由は簡単で、これから万永さんに会いに行くからだ。
「……ひとまず話は聞いたけど、それ、黒木くんはどこまで本気なの?」
階段を上がりながら、崇城さんは振り向いて聞いた。ぼくはとりあえず、万永さんに頼みたい内容とその理由を崇城さんに話しておいた。
「どこまで、と言われると……半分です。半信半疑です。いや、疑ってはいるけど信じてはいないかな?」
そりゃそうよね……――
崇城さんは表情を曇らせる。
「でも、本当だったら、そうなんだよね?」
崇城さんは曇った表情の上に憂いを満たした。
「ああ、先輩が見間違えてさえいなければ」
平先輩は犯人を知っている。知っているどころか、犯行の現場を僅かではあるが見ていた、らしい。先輩はそう言っていた。もはやミステリも何もあったもんじゃない。
犯行を見ていた。
なんていう解決だ。いや、まだ解決したわけではないけど。それに、それであらわになる事実が、ぼくには受け入れられなかった。それは崇城さんも一緒みたいだ。
「それに、動機だってわからないし」
動機。モティーブ。きっかけ。
さっぱりわからない。見えてこない。見えてきた先に何があるのかもわからない。
「あら? かえちゃんじゃない! どうしたの? それに……」
教室へ顔を出した崇城さんとぼくに気付き、万永さんが朗らかな顔と怪訝な顔を連続して浮かべた。
「お久し振りです」
とりあえずそう挨拶してみた。万永さんは虚をつかれたように応えた。
「久し振り……で、どうしたの?」
ぼくはそれに答える前に教室内を見回した。万永さんしかいないようだ。好都合。
「黒木くんがですね、先輩にお願い事があるんです」
「私に?」
人差し指を自身に向ける万永さんに、ぼくと崇城さんは頷き返した。