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「ちょっ、待って! 私じゃないよ!」
金川さんは作業でかいたものとはべつの汗を流して言った。
「誰も言ってねーって……でも、なあ」
男子が一人歯切れ悪そうに言い、周りのクラスメイトに何かしらの同意を求めた。そして回りはそれに応える。
「うん……なんていうか、やっぱり、ていうか、とりあえずさ、いや、本当に微妙なとこだけどさ……怪しいっていうかさ……」
女子生徒がそう言った。それにも周りが同じような態度で同調する。
「ねえ、みんなやめてよ!」
そう叫んだのは崇城さんだった。彼女は金川さんを守るように彼女の前に立ち、みんなへ憤りの視線を投げ掛けた。
「みんなも知ってるでしょ、金川さんがそんなことする人じゃないこと? だって金川さんだよ! もっと冷静になってよ!」
必死に崇城さんは訴え掛けるが、みなのリアクションは思わしくない。
「……じゃあさ、誰が小阪くんの財布からお札抜き取ったんだよ?」
ぼそぼそっと一人の男子が言う。その疑問には、誰も答えようとはしなかった。出来るわけもないが。
「……とりあえず、先生に伝えない?」
どこからか女子が言った。それは誰もがひとまず納得する意見であった。あくまでも、現段階でひとまず気持ちを落ち着けるためでしかないことだが。
「……じゃあ、私が言ってくる」
崇城さんが泣き出しそうな声で言った。誰も何も言わなかった。
崇城さんは金川さんの手を掴み、一緒に職員室へと向かった。二人がいなくなると、クラスの中は二人に対する疑念が細々と飛び交った。
「……こんなことになるなんて」
小阪くんが呟いた。それはおそらくぼくにしか聞こえないほど微弱なものだった。
小阪くんは財布に入っていたお札、六千円分が抜き取られていた。小銭の方は無事らしく、一円も減っていなかった。
不覚、という感じに小阪くんは落ち込んでいた。そんな彼をぼくはどう励ませば良いのかわからなかった。ただただ、この居心地悪い雰囲気の中に埋没していた。