第83話 獣王
レオさんより武道大会の開催場、つまり闘技場の建設を請け負ってから俺は冒険者ギルドへ鉄材とセメントの確保、大会当日の警備や宣伝などを依頼した。
鉄材は鉱石でもいいから大量にお願いしたら受付嬢さんが目を丸くして驚いていた。
そりゃ国立競技場クラスを作ろうとしてますからね。この世界の基準じゃ恐ろしい量になる。
セメントは普通にこの世界に存在した。元の世界でも古くはエジプト文明から使われていたらしいから不思議はない。ただまぁ、今回使用する量はセメントも桁外れだけど。
大会会場建築に苦労したのは材料集め、それも殆ど冒険者ギルド頼み。一部商人ギルドでも商人たちにお願いして集めてもらいはしたが、大半を冒険者ギルドで集めてもらった。
設計はイヴ、建てるのもイヴ、イヴ様様だ。イヴは設計し、算出した材料が集まれば数分で5000万人収容可能な大会会場が出来上がった。
超でかいコロシアム。リングもデカイが、一番奥からは人が小さすぎて見づらいので、上方四方に大スクリーンを設置した。デカイリングはコクリート仕上げ。倒れたら痛い。しかし、この世界じゃ当たり前だ。地面よりはマシだろう。足場的に。コクリートだが、きっと壊れる。アダマンタイトとかにしたかったが、リングを作る分確保出来なそうだったのと、壊れた時の補修が大変なのでやめた。
見た目の形はコロシアムだが、規模が違うのと内装は全然違う。色も鉄筋コンクリート造りなので灰色だ。大会がない時も訓練で使えるようにスポーツジムもどきも完備してある。
武道大会開催まであと三日………なんとか間に合った。ってか会場も出来てないのに予告したり招待状だすのやめようよレオさん。
大会会場設立をウチに依頼して帰ったレオさんはサイアスさんに依頼料でこっぴどく叱られたそうだ。後日支払いに来たレオさんは前金で白金貨8枚を払い、残りを分割にする契約をリリアーナと結んでいた。俺はノータッチだ。サイアスさんに恨まれたくないからな。
まぁ前金のお陰で材料費は足りたんだけどな。
今は出来上がった会場に出店をするべく、各飲食店関係者や武器防具屋がこぞって訪れている。ウチの中にあるとは言え、こう言う祭り事は皆んなで盛り上げるべきだと思い、商人ギルドで募集したのだ。大会終了時には引き上げてもらうが、何かのイベントで使うときはまたスペースを貸し出す事を約束した。
今回は早い者勝ちにしてしまったが、次回からスペースは抽選にしよう。そのほうが揉め事が少なくなるだろう。
各国の大会出場者や関係者も徐々に王都に訪れている。当然会場を一目見ようとウチに来るのだが、会場は出店店舗の準備をしている為に閉鎖中だ。当日までのお楽しみ。
まぁ当然見に来た人達も不満に思うわけだが、ウチ自体に興味を移し、スクランブルは只今大変忙しい常態にあるわけです。
「店長!在庫がヤバイです!」
「在庫って物は⁈」
「全部ですよ全部!大会前に売るもの無くなっちゃいますよ!」
「マジか!各コアで作成出来る物は至急増産して手間のかかる物は大会中の在庫だけは確保してくれ!」
「了解しました!」
ふぅ〜売るもの無くなるとかマジか?ウチかなり在庫に余裕あったはずだぞ?
詳細をPCで見てみると全体的に品薄になっている。特に衣類、調味料類がヤバイ。コレはウチ独自の商品だから仕方ないのかも知れない。
大会中にはポーション類と武器防具、軽食を中心に販売する予定だから、まぁいいだろう。といっても大会会場からウチには転移魔法陣で直ぐに来れるから気は抜けないが。
家電品は大きずぎるから大会前に買う人がいないのだろう。アイテムバック持ちは買うかもだけれども………
「ここがダンジョンなのか?」
「そうだぞ。どうだ。すげーだろ?」
レオさんが来た。隣には金髪のダンディなイケメンがいる。頭には耳が、そして尻尾つきのイケメンだ。狼系かな?
「いらっしゃいませレオパルド陛下」
人前だから気を使って挨拶してみた。
「改まると気持ち悪いからやめてくれトール」
なんだよ人が気を使ったのに。呼び方変えただけなのに気持ち悪いは言い過ぎだよな。
「レオさん……ちょっと言い過ぎですよ」
「それでいいんだよ。俺とお前の仲じゃないか。気いつかうなって」
「そうおっしゃるならもうしませんが、そちらの方をご紹介いただいても?」
「おう、こっちは獣王だ」
「獣王様!」
「あぁ、獣王国、国王をしているガルフィンと言う。よろしく頼む」
「はい、此方こそよろしくお願いいたします。私は当店、スクランブルの店長兼商人ギルド、ギルドマスターのトールと申します。お見知り置きを」
まさかの獣王だった。獣王って獅子のイメージがあったけど狼人なんだな………
「トール様、先程の指示通り大会中の在庫確保が完了いたしました」
イリムが報告にやって来た。
「サーシャ……………」
ん?獣王がイリムを凝視して固まっている。サーシャって誰だ?
「サーシャは私の母ですが……母をご存知なのですか?」
「サーシャの娘……イリムなのか⁉︎」
「はい、そうですが……」
ガバ!
獣王がイリムに抱きついた!
「離して下さい!」
パチン!
イリムのビンタが獣王の頬にヒットする。
「す、すまない…」
「なんなんですか⁉︎」
「イリム、こちら獣王ガルフィン様だ」
「獣王様⁉︎し、失礼致しました!」
「いや、いい。俺が悪かった。しかし、そうだな……俺が悪いな………」
「どうしたガル?なんか変なもん食ったか?」
いや、レオさん。今の場面でそれはないよ?
「イリム……サーシャは、母は元気か?」
「母は……一年半前に魔物に…スタンピードの犠牲になりました……」
「なんだと!」
声を荒げる獣王。
「サーシャ………イリム、俺と獣王国に来い!」
「え?嫌です」
「俺がお前の父だとしてもか⁈」
えーーーーーーーー⁉︎
いや、有りがちな設定だな。うん、冷静になろう。
「はい、嫌です」
「な………んだと⁉︎」
「私には支えるべき主人がおりますので、離れるつもりはございません」
獣王が俺をキッと睨む。
「貴様がイリムの主人か?イリムを解放してもらおうか」
「いやいや、獣王様。イリムは奴隷ではありません。従業員ではありますが、どうするかはイリム自身の判断に任せております。解放もなにも、そんな権限私にはございませんよ?」
「イリムは貴様を主と呼んでいるではないか!」
「それがイリムの意思なのでしょう。どうするかはイリムの自由ですが、イリムが私の側を選んでくれたのであれば、如何なる理由があろうとも全力で守らせて頂きます」
「トール様……」
従業員を守るのは経営者の務めである。ってかイリムがいなくなるとか店的にも個人的にも容認出来ない。
「ならば貴様に決闘を申し込む!」
「当人の意思は無視ですか?」
「うるさい!娘を親が自由にして何が悪い!」
「それは親のエゴと言うものでしょう?」
「黙れ!貴様が居なければイリムは私の元に来るのだ!」
「奥方が許さないのでは?」
「……………」
「都合が悪くなるとだんまりですか?」
「うるさい!ちょうど武道大会もある!貴様は大衆の面前で叩きのめしてくれる!」
「はぁ私は武闘派ではないのですが……」
「盛り上がってるところ悪いが、ガル、お前は大会に出れないぞ?」
「なに?」
「今大会は各国の王族は参戦不可だ」
「何故だ!」
「俺がサイアスに止められたからだ!」
それは理不尽だよレオさん。
「と、本音はどうでもいいんだが」
「「本音が先かよ!」」
「仲いいじゃねぇか。まぁ国力を示す場でもあるからな。次席や次世代の参戦を強く勧めているんだ。ロートルは黙って見とけってな」
あぁレオさん。国のために我慢したんだね。
「では、その次世代とやらに手本を見せねばならぬな。大会開催前に前哨戦として貴様と一戦交えようではないか」
「それはありだな」
「レオさんまで………私に勝っても自慢になりませんよ?」
「うるさい!私が勝てばイリムは連れて帰る!」
「イリムの意思を無視して容認できませんね」
「では勝てばよい!」
何言ってもダメだなこりゃ……
「私が勝ったらどうなるのですか?」
「イリムはここに残る……」
「それは元々そうだったので戦利品にはなりませんよ。イリムの願いを一つ受けて下さい」
「はっ!勝つつもりはあるのだな!分かった。それでいい!」
言質はとった。
「では二日後、首を洗って待っていろ!」
そう言い残し、獣王は店を出た。




