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そこで終わるはずだった物語

楽しんでいってください

まだ初夏の日差しが残る日

部活動生は大会に向けて気合いがはいっているのかいつもに増して声が聞こえる

一年の教室を抜け 一番端の1-Aの前で春一(はるいち)は止まる


「よしっ 誰もいないな…」


別に怪しいことをしようとしている訳ではない

そこは春一自身のクラスだし 入ることはなんら不思議ではない

しかし あえて誰もいない時間を狙って戻ったのには理由がある


「あった 良かったぁ誰にも見られてないよな…」


周りを見渡すが人の気配はしない引き出しの中も春一が教室から出ていった時と変わらない


「ちょっと 見ていくか」


自分の引き出しから一枚のルーズリーフを取りだし

途中まで書かれた内容に目を通す


「やっぱり サビが弱いよなぁ… 他の歌詞がそこそこのクオリティであるとすれば…」


消ゴムで何回も消し シャーペンで何回も記入する

既に 数ヶ月前から春一はそれを繰り返している

プロであれば数日で終わらせてしまう内容もアマチュアで特出した才能の無い春一は数倍 数十倍の時間を割いてしまう


「いや 待てよ サビを英語にしてみれば……インパクトもあるし」


思ったことをすぐ記入しているルーズリーフは若干黒ずんでいるが 最後はデジタルで入力するので問題ないと春一はずっと同じものを使っている


「えっと確かこれで…」


英語の教科書で単語を調べながも不器用に数分をかけて文をつくっていく 辞書があればもう少し早くしあげれたかもしれないが残念ながらそんな便利に猫型ロボットのように持っているハズがない


「ふぅ…できた……ってか語呂悪っ」


考えているメロディに合わせるとどうしても英語の歌詞が早口になってしまう

どうしたものか…と考える春一

時計を見ると5:10 完全下校終了時間まであと20分

色々逆算すると残れるのはあと10分くらいだ

あと10分で歌詞が思いつくか…

諦めて帰ってやる気が過ぎ去った後で無理して調べるか…

春一は頭を悩ませ 結論に辿り着く


「よしっ帰るか」


どう考えても後者の方が正しい

春一は少し甘えのようで少し気が引けるが…しょうがないと自分を少しなだめる


その時


「やっばい 忘れ物したぁ」


不意にした声に振り返る

制服姿の一人の女子が立っていた


「…!?」


春一は慌ててルーズリーフを隠す

女子は春一を気にしない様子で自分の席の引き出しを調べる


「あったぁ 良かった」


取り出したのはピンクになぞられた筆箱だ

どうやらさっき言ってたように忘れ物をしたらしい


「あれ?朝月(あさつき)くん?なにしてたの 教室で一人で」


「いや…その…」


急に名前を呼ばれた春一は言葉に詰まってしまう

作詞してました!!なんて事を簡単に口にはできない


「そんなことより 倉見(くらみ)さんこそどうしたの?忘れ物?」


少し強引な話題の切り替えに首を傾げる倉見さんだが

春一は歌の歌詞をつくっていたとバレるよりは数倍ましと心に決める…少し大袈裟かもしれないが


「うん 見ての通り筆箱を忘れたの…っていうか今 話題変えたでしょ」


「いや…そんなことは…」


春一の不安は的中し

隠していたことを倉見さんは探ろうとする


「なにしてたの?」


「うっ…」


急に近づいてきた 倉見さんに春一は やっほぉぉ 美少女がこんな近くに なんかいい香りがする とか考える余裕もなく挙動不審に焦りだす


「人に言えないこと?」


「……言えないこと」


「そっか…」


若干の誤解はあるかもしれないが根拠がない限り追及は出来ない…

と油断した春一の手から一枚の紙がすり抜けてなぜか倉見さんの手に握られている それは先程まで春一が大事に隠していたルーズリーフだ


「えっ! ちょっ…なんで」


「だって人の隠している秘密ほど見たくなるものじゃん」


小悪魔…いや悪魔的思考で笑みを浮かべる倉見さん

春一は「ちょっ… 返して」と取り返しにいく春一は…ラブコメならここで押し倒してしまって「あっごめん」「ううん 全然いいよ」的な展開に…とか馬鹿な考えを浮かべその間に距離を取られてしまい身軽な倉見さんに軽く避けられてしまう


「どれどれぇ…」


倉見さんは好奇心が具体化したような目で紙を凝視する 春一は額に不安の汗を滲ませている


「これ…」


そう言ったきり 文字通り動きが止まる倉見さん

笑われるのか バカにされるのか…どっちにしても良いことはない…と諦め 身構える春一だが


「凄く いいよこれ!」


「え?」


予想に反していい反応をされた春一はすっとんきょうに返事をしてしまう


「なにこれ…凄いよ もしかして朝月くんが作ったの?」


「え?…あぁうん まぁそうだけど…」


馬鹿にされたら 売れないバンドの歌詞 とセコい言い訳をしようとしてた春一だが予想外な好感触な反応に思わず正直に答える


「凄いなぁ…特にサビの英語のところとか……これってメロディあるの?」


「メロディは一応あるけど まだ完成してないんだ」


「へぇ…それでも凄いよ」


語彙力が低下している倉見さんに対して 語彙力が低下するときは本当に感動しているときだと勝手に思っている春一は一応安堵の表情だ


「朝月くんはさ…音楽家?とか…なんかそんなのになりたいの?」


疑問を向けてくる倉見さん…当然だ

しかし春一は信念のこもった様子でそれを否定する


「いや…違うよ」


「え?…じゃあなんで作詞なんかしてるの?」


作詞してたの?なんか面と向かって言われると自分で振り切っていても恥ずかしいな…と赤面する春一


「それは…」


春一は息を飲む

それを言ってしまえば確実に会話が終わると…せっかく後々何と言われるか何と馬鹿にされるか分からないからだ

だが今はそれすらも振り切っている この会話を運命のように感じ 気分が紅潮している


「俺はさ…」


春一はそこで一旦ふぅと深呼吸をする

倉見さんもさっきと違って真面目…より興味に近いかもしれない そんな視線を向けている

覚悟を決めて ずっと胸の内に秘めていたことを言葉にする


「俺は主人公になりたいんだ」





ご閲覧ありがとうございます

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