第5話 急いでいる時に限って
ある女子学生が、朝の登校中に体験した不思議な出来事。
彼女が乗った電車が到着ホームで人身事故に出くわす。
その日、とても急いでいた彼女は、野次馬をかき分けて先を急ぐが……。
***
今日の私は急いでいる。
電車の先頭車両に乗りこんだ。
なぜなら停車位置が階段のすぐ前だから。
揺られて待つ事50分。
やっと到着駅のホームへ入った時、数人の乗客がざわついた。
「カバンだ」
「カバンだ」
私も見た。
「カバンだ」
窓の景色をカバンが横切った。
間もなく足元に感触があった。
指でなぞる様に丁寧に感じる。
腕……線路……胴体……線路……腕……線路……
「人が飛び込んだぞ!!」
一連の感触が終わった後に叫び声を聞いた。
扉が開く。
大勢の野次馬が私の前を塞いでいた。
「どいて下さい!降ります!」
野次馬を掻き分けなんとか降りた。
私は先を急いでいる。
急いでいる時に限って邪魔される。
人ゴミを押しのけ、他人の足を踏みつ踏まれつ階段に辿りつく。
急いでいる時に限って足が重い。
やっと階段を上がり、改札口を抜けた。
サラリーマンが並ぶ列に加わりバスを待つ。
私の後ろがざわめいていた。
今さっきの人身事故の話しだろう。
私はそんな事にかまってるゆとりは無い。
今日の私はとても急いでいるんだ。
急いでいる時に限って足が怠い。
時間に少し遅れてバスが到着。
さっさと乗り込もうとしたら運転手さんが叫んで止めた。
「学生さん……足!」
急いでいる時に限って……。
私は気を失った。
電車の車輪で切断された手が、なぜか私の足首を掴んでいた。