第4話 やまびこ
息子夫婦と3人の孫と一緒に山登りをしていたおじいさん。
ちょっと一息ついた後に再び山道を登り始めると、どこかの子供達や若いカップルに出会った。
彼らと一緒に山道を登っていくと、どこか不思議さを感じる出来事が起こる。
***
俺は息子夫婦と3人の孫と一緒に山登りに行った。
この山の山道は淡々としてるが見晴らしが良い。
孫達が声を揃えて、ヤッホーと叫ぶ。
耳を済ますとヤッホーと返ってきた。
息子夫婦が俺と孫達を呼ぶ。
歌を歌いながら山道を進む。
日差しがギラギラ照り付ける。
見晴らしが良いという事は、木陰が無い事を意味する。
少し息が上がってきた。
軽く目眩もする。
「少し休もう!」
俺は息子夫婦に言った。
近くの岩に腰掛け、目をつむる。
静かだ。
風に揺られ、草がカサカサ音を立てる。
「さて、行くか」
俺は間もなく立ち上がり、再び山道を登る。
「こんにちは」
俺を追い越して登る若いカップルが清々しい挨拶をする。
「こんにちは」
俺も挨拶を返す。
互い交わす清々しい挨拶。
俺が山登りが好きな理由の一つだ。
よその子供達が後ろから駆け上がってきて俺を追い越した。
小学2~3年生くらいの年頃だろうか? 流石に元気がいいのう!
子供達は、すぐそこの見晴らしの良い場所まで走っていくと、孫達の様にヤッホーと叫ぶ。
ところが、やまびこは返って来ない。
子供達は残念な顔してしょぼくれる。
「よし、じゃあ今度は俺がやってみようか」
俺は子供達を喜ばそうと腹の底から叫んだ。
「ヤッホー!」
するとやまびこは
「おじいちゃーん!」
と返した。
子供達は喜んだ。
俺は子供達に懐かれ、一緒に山道を登る事になった。
暫くすると、先程の若いカップルが何度もヤッホーと叫んでいた。
だが、やまびこは全く返ってこない。
肩を落としてがっかりしているので俺がヤッホーとやって見せた。
すると、やまびこは
「おじいちゃーん」
と返した。
若いカップルは俺に、良かったですねと祝福してくれた。
俺は子供達と若いカップルと一緒に山道を登る事になった。
やがて山小屋へ着いた。
息子夫婦と孫達が先に到着しているかと思ったら山小屋には到着していなかった。
この大きな山小屋は、売店も充実している。
何を売っているのかは俺には理解出来ない。
毎度の事だが、今の若い者の好みはわからん。
俺は総合案内所へ行き、息子夫婦と孫達を呼び出してもらう事にした。
すると案内所の女性が
「お待ちしてました」
と2階へ案内した。
「こちらは、やまびこが返ってきた方々の待合室です」
と、一言残すと立ち去った。
私はごろ寝して待つ事にした。
どうやら俺はそのまま寝入ったらしい。
「おじいちゃーん!」
孫の声に目が覚めた。
なんと、息子夫婦と孫達の他、医者と看護師が覗きこんでいた。
俺はたまげて飛び起きた。
医者の話しによると、俺は熱中症が原因で病院へ運ばれたそうだ。
あの山道で、息子夫婦に「少し休もう」と声をかけたと同時にバタリと倒れたと聞かされた。
「そんな馬鹿な話はないだろう! 俺は子供達と若いカップルと一緒に山小屋まで歩いて行ったんだぞ」
懸命に状況を話したが、誰も俺の話を信じようとしない。
医者や息子夫婦は当然の事、孫らまでもが「それは夢だよ」と言い放つ。
俺はあれが夢だとは到底思えない。
だがしかし……。
もしあれが夢でなければ、若いカップルと子供達は今頃どうしているのだろうか。
俺は彼らの無事を祈ろうと、そっと手を合わせた。