第3話 河童
ある山奥の観光地。真夏の河原でバーベキューをしていた大勢の観光客を襲った出来事。しかし、何が起こったのかを話せる者は誰もいない。
***
「こらぁ!! そんな所にいるんじゃねぇ!」
ある田舎の山奥にある河原。
真夏の炎天下、バーベキューを楽しむ観光客に向かって一人の中年男が叫んだ。
その異様さに、ざわめく観光客。
「何? あのオッサン」
「誰か警察呼べよ」
だが、中年男の次の一言に、その場にいた全員がピタリと黙った。
「早く!早く逃げろ!河童が出るぞ!」
--河童?--
観光客は呆気に取られてポカンとする。
「ふふふ」
誰かが笑いだした。
すると、その場にいた全員がつられて一斉に笑いだした。
中年男は、更に甲高い声で叫んだ。
「河童だあ!河童が出たあ!」
中年男は一目散に逃げていく。
河原からは中年男を嘲け笑う声が沸き上がった。
「何だよ、あのオッサン」
「ある意味異常だよね」
「騒ぐだけなら良いけどさ、ちょっと迷惑だよな」
河原は元の賑わいに戻った。
ところが……。
「なあ……何だろ?あれ」
「何?」
仲間が指差す方向を見る。
その先には別のグループ。
そして、その足元には……。
「石でしょ?」
「皿じゃね?」
「あの絡んでるのは何?」
「細長い草でしょ?」
「髪の毛にも見えるな」
「誰だよ、ずっと!」
「何が?」
「さっきから笑ってる奴」
『ふふふ』
笑い声のする足元を見ると
石から生えた黒い髪が絡まっていた。
真昼の河原のバーベキュー。
中年男が村の青年団を連れて戻って見てみると
観光客で賑わっていたその場所には人影はなく
食い散らかした生肉が無数に散乱していた。