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怖くない怪談話 短編集  作者: 祭月風鈴
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第20話 少年狩り

 一時期、「オヤジ狩」という言葉が流行った時代があった。

帰宅途中のサラリーマンを複数の少年達が襲い金品を奪う事件。

言葉こそあまり聞かなくなったが、現代も暗い夜道を一人で歩くサラリーマンは狙われる。

だが、以前とは少し状況が変わってきた様子だ。


***


 一人のサラリーマンが帰路を急いでいた。

家では奥さんと幼い子供達が自分の帰りを待っている。

なのに今日は、残業で帰りが遅くなってしまった。

 男は後方に神経を尖らせて歩いていた。

電車を降りて改札口を抜けてからずっと数人の若者がピタリと後をついて来ていた。

付かず離れずの嫌な距離。


「まいったなあ……」


 男はボソッと心境をこぼした。


「今日だけは早く帰らないと、奥さんに怒られるじゃねぇか」


 カーブミラーを通じて後方を再度見たら少年達は自分達と男を撮りながら近づいている。


明らかに彼を尾行していた。

チラリと振り向くと、少年達の手が棒のような物も持っているのが見えた。

深夜に通りすがりのオヤジを襲うシーンを撮ってネット配信する魂胆なんだろう。


「まったく……今時の若者はマナーが無い」


 男は軽くため息をつき立ち止まる。

すると、少年達も立ち止まった。

暫く沈黙。

再び男が歩き出すと、後方で少年達が声をかけた。


「オイ、待てよ」


 男にとっては意外な言葉だった。

何故なら少年達が彼を襲撃する前に声をかけたからだ。

だが、迷惑な事には変わりはない。


「君たち……俺は今夜は早く帰宅したいんだ。 ここの所残業続きでね。

君たちも早く解散して家に帰りなさい」


 すると少年達は凄みを効かせながら男を唸り飛ばし、グルリと囲んだ。


「ハァ? 何言ってんだ ”お前” ……舐めてんじゃねぇぞ!」

「脱がせる?」

「アレやらせる?」

「マジの ”履いてません”言わせるか!?」

「ギャハハハハハ! 安心できねぇ~」

「オイ! 脱げよ! 早く帰りてぇんだろぉ?」


 世の中を舐め腐った嫌な(ツラ)だ……と男は思った。


「君たち、そんな事する暇があるなら学問を高めなさい。 

勉強をしてたくさんの知識を得て、諸外国の同年代達に負けない力をつけなさい」


 男は少年達に声かけをした。

なぜなら男には守らなければならない義務があった。

その義務を果たしてからでなければ、終業後に任務を遂行しても残業代が出ない規則があるのだ。

男は自分に襲い掛かる少年達を紙一重で避けながら、懸命に説得した。

「勉強しなさい」「人の為に良い行いができる大人になりなさい」「優しい心を持ちなさい」

ところが少年達は彼の話しを聞くどころか、仲間を呼んで更に彼に襲い掛かる。


「おいおい、オヤジ一人に何てこずってんだよぉ」

「うるっせーな、楽しんでるんだよ俺らは! 見ろよ、コイツ息が上がってるぜ」


 耳障りな少年達の愚かな喜びを聞きながら、男は会社へ連絡した。


「あ、私です。 予定外の仕事に ”絡まれて” ます。 ……ええ、規則通りの声かけはしましたよ」

「おい、オヤジ! こっち見ろよ!」

「嫌ぁっ! やめて!」


 女の悲鳴に驚いて彼が振り向くと、若い女性が羽交い絞めされた状態で一枚一枚服を脱がされていた。

一人の少年がその様子を撮影している。


「助けて!」


 懇願する若い女性。


「君たち……すぐに、その女性を解放したまえ。 私が君たちを満足させて頂きます」


 男は土下座をし、冷たいアスファルトに額を擦りつけた。

少年達は思いも寄らなかった彼の行動に一瞬驚いた後、卑猥に笑った。


「じゃぁ、最初に下全部脱いで女の前でフリフリしてみせろよ」

「変質者のでっち上げ? ハハハ! 面白そうなの撮れるぜ!」


 ああ、本当に嫌な(ツラ)と声だ……と男は思った。


「最後の警告だ。 君たちはすぐさま女性を解放して自宅へ帰り、勉学に励みなさい」


 男は土下座したまま少年達へ言った。

すると少年達は互いに目で合図し距離を縮めて男を囲む。


「うぜぇんだよ、お前」


 一人の少年が持っていた棒で男の頭を叩き割ろうとした瞬間

土下座していた男の頭が180度回転し、少年達を見上げた。


「ひっ!」

「ぎゃぁぁあああああああああ!」

「た、助け……ぐひゃぁっ」


 少年達は次々と今までの行いの罰を受けていった。

男は予定外の残業を済ませた後、再び会社へ電話した。


「あ、私です。 予定外の残業が発生しました……ええ、規則通りの ”声かけ” はしましたよ」


 男は服に着いた少年達の血肉をハンカチで拭き落とすと

気絶している女性の記憶を消して、その場を後にした。

 数日後、不気味な黒い影に惨殺される少年達の映像がネット配信されたが

残虐過ぎる故にすぐに削除された。

その日以来、男の帰路には通行禁止の柵が設けられた。

しかしそれは、人間用の柵だから男には関係ない。

男は安心して帰路へ着けると喜んだ。



<終>


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