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怖くない怪談話 短編集  作者: 祭月風鈴
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第2話 いらっしゃいませ

 元気が良く、おしゃべりな若い女性店員がいる呉服店。

常連のおじいさんは彼女と話しをするのが大好きで、買い物と称してはしばしば足を運んでいた。

そんなある日、いつものようにお店に顔を出したおじいさん。

近頃「いらっしゃいませ」しか言わなくなった彼女に、店主へ文句を言うが……。


***


 地元の小さな呉服店。

若くて元気な女性店員が働いていた。


「いらっしゃいませ!」


 いつ聞いても元気な声だ。

ある日、近所のおじいさんがステテコを買いに来た。


「いらっしゃいませ!」

「ステテコあるかい?」

「いらっしゃいませ!」

「ステテコが欲しいんだけどよ」

「いらっしゃいませ!」

「お嬢さん、俺ぁ、ステテコを……」

「いらっしゃいませ!」

「だから、お嬢さん!」

「あれ、藤田の親父さん!いらっしゃい。今日も暑いね」


 店の奥から2代目店主が出てきた。


「若旦那よぉ、お宅のお嬢さん、元気いいのは良いんだけどよぉ」

「お嬢さん?」

「ああ、いつも元気にいらっしゃいませって言ってくれるんだけどね」

「え?」

「ここの所、いらっしゃいませ!しか言わないんだよ」

「へ……へぇ」

「ま、俺ぁステテコが欲しいんだけどよ」


 おじいさんはステテコを買って自宅へ帰った。

一人暮らしのおじいさん。

夕飯を食べて風呂から出て、夜風に当たりながらお茶を煎れていたら声がした。


「いらっしゃいませ!」

「お嬢さん?」

「いらっしゃいませ!」

「いつ来たんだい?」

「いらっしゃいませ!」


 天井からネクタイが落ちてきた。


「ネクタイは買わないよ」


 おじいさんはお茶を啜りながら言った。


「いらっしゃいませ!」


 ずいぶん真後ろで声がした。

おじいさんはクルリと振り向くと、眉間にしわを寄せて言った。


「お嬢さん。俺ぁ、お嬢さんの口しか見えねぇよ」


 身体がなければ商売できないだろうと説教を始めたおじいさん。

あまりにも延々と説教が続くものだから、口だけのお嬢さんはどこかへ消えていった。

 数日後、店の床下から切断された女性定員の顎と犯行に使われたネクタイの切れ端が見つかった。

彼女は二代目店主に殺され埋められていた。


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