第18話 真夜中の校舎で
ある女子高にて冬季休暇期間のイベントに参加を目論む部員達が、顧問の許可を得て合宿を行っていた。深夜、静まり返った校舎で彼女達は怪談話しを始める。
***
「それでは部長、よろしくお願いします」
司会進行役の副部長が部員達へ拍手を促す。
拍手と歓声があがる中、体操服からセーラー服へ着替えた部長が教室に入ってきた。
「皆ぁ、とっても待たせてゴメンね! ひとまず先に嬉しいお知らせです。
年々盛況になっていくハロウィンに便乗してこの度、私達『驚かしてみ隊』も『年末年始肝試し全国大会』への参加が正式に決定しましたぁ!」
「きゃー!」
再び拍手と歓声とがあがる。
副部長がパパンと手を叩いて注意を促す。
「はーい、皆! 静かにぃ! 外へ声が聞こえちゃうよ」
「シーッ」
「しーっ」
部員達はそれぞれ指を口に当てて隣同士で『静かに』の仕草をする。
「皆ぁ、協力ありがとう。それでは 今回は、私(部長)の出身中学から仕入れたばかりの『怪奇体験』を話します! 興味持って聞いてね~」
部員達は息を潜めて注目。部長は軽く咳払いをすると、一本に縛っていた長い髪をほどき、顔面にかぶさるように垂らして怖い雰囲気を作った。副部長は盛り上げる為に怪談用の効果音を流す。
「これは神隠しに遭った女子中学生の実体験だよ……。
私の出身中学校は皆が知っての通り、近隣の学校を吸収し全校生徒数1200人になったマンモス中学校。たくさん生徒や先生達で普段から賑やかで明るいんだけど、創立当時の昔から、たった一つ注意する事があるの……それは決して一人で行動しない事。理由は、一人で行動した人は神隠しにあって二度と姿を見せなくなるから。先生も生徒も必ず複数人で行動するように凄く注意していた。ところが今年の夏休み、校内での合宿に参加していた女子生徒が神隠しに遭った。一人で行動したから行方不明になっちゃったの。彼女の仲間は職員室へ駆け込んで助けを求めた。先生達が校舎と周辺を探したけど女子生徒が見つからない。すぐさま大掛かりな捜索が始まった。近所の人達や通りがかりの人達にも協力を仰いで捜索したんだ。でも、どうしても見つからない。とうとう『これは神隠しにあったに違いない』と大騒ぎになってしまった。
……皆はこの出来事、一度は耳にしてるよね」
部長の問いかけに部員達は無言で頷く。
「さて、ここからが本題。
なんと本日の夕方、行方不明になった女子生徒が中学校に忽然と現れました!」
部員達は騒然とした。
副部長が「静かに!」と手を叩く。
「ところがねぇ…‥びっくりした先生達がその女子生徒を保護して事情を聞いたんだけど、なんと身の毛もよだつ出来事に巻き込まれていた事がわかったの。 ちょうど私がガテン系のOBと活動していた時だったから、どさくさに紛れて近くで聞いていたんだけどね……どうやらこの女子生徒は、たまたま運良くこの世へ戻って来れたらしいんだ。それでね、彼女の言う恐怖体験が本当に恐ろしくてね……」
部長は両腕をさすりながら、ゆっくりと話し出した。
「……仲間と廊下を歩いていたら、どこからか自分を呼ぶ声が聞こえてきたんだって。誰だろうと、その声の方へ歩いて行ったら学校の一番奥の行き止まりにある女子トイレの前で、声が聞こえなくなったんだって。はっと我に返った彼女が仲間とはぐれて一人になってる事に気づいたので、慌てて仲間の所へ戻ろうとしたら……。
見ちゃったんだって、恐ろしいアレの姿を! 恐怖のあまりに彼女が悲鳴をあげたら、アレが彼女の方へクルッと振り向いて追いかけてきた。思わず彼女は逃げたんだけど、よりによって女子トイレの一番奥に逃げ込んじゃったんだ。後の祭りだけど、とにかく鍵をかけて凌ごうとした。でもね、アレが扉を一つ一つ開けながら近づいてくるんだって、『ここでもない……ここでもない……』 って言いながら!」
「きゃぁ……!」
部員達は小さく悲鳴を上げた。中には、両手で耳を塞ぎ半泣きする者もいる。
「彼女は息を殺して身動きしないで潜んでいた。それでも、じわりじわり近づいてくる。そしてとうとう、2つ手前の個室までアレが来てしまった。彼女はもう駄目だと思ってしゃがみ込んだ。すると、足元に換気用の小さな窓がある事に気がついた。トイレの床は酷く汚かったけど、そんなの言ってられなかった。彼女は床に這いつくばって小窓から外へ逃げ出した。彼女は助けを求めて無我夢中に走った。そして息が上がって限界になって立ち止まると後ろから誰かが走ってくる音が聞こえてきた。彼女が驚いて振り向いたら、アレが髪を振り乱して追いかけて来ていた。
『ぎゃああっ!!』っと彼女は叫び声をあげながら闇雲に逃げる。気づくとどこか分からない墓地へ迷い込んでいた。彼女は泣き声を噛み殺してアレから必死に逃げた。そして近くの墓石の陰に身を潜めた。耳を澄ますとまた 『ここでもない……ここでもない……』 とアレが近づいて来た。とうとう逃げ場を失った彼女は、耳を塞いで目をギュッと閉じて地面に低くしゃがんだ。恐怖を我慢して一か八かジッとして気配を消そうと頑張っていたらアレが彼女が隠れている墓石の前をス~ッと通り過ぎてどこかへ行った」
部員達から安堵の溜め息がこぼれる。
ところがまだまだ部長の話しは続いた。
「暫く様子を伺っていた彼女。そろそろ学校に戻りたいと思った。これ以上一人での行動は危な過ぎだったから。彼女はしっかりと周囲の安全を確認した。シーンと静まり返っているのでアレが自分を追いかけて来ないし近くにもいないと判断した。そっと墓石の陰から顔を出したら誰もいない。
彼女がやっと安心して力が抜けた次の瞬間
『ここだーっ!』
アレが彼女の後ろから、頭を握りつぶす力で鷲づかみした。悲鳴を上げて腰を抜かした彼女。どんなに足掻いても逃げられない。しかも恐ろしいことに、そのまま除霊されてしまった! ……なんと、彼女は自分自身のお墓に追い詰められていたんだって!」
「ギャーアアア!!」
「はーい、皆ぁ! 静かにぃ! 外へ声が聞こえちゃうよ」
「シーッ」
「しーっ」
真夜中の廃校舎で、どこからともなく悲鳴が響き渡る。決して生者は足を踏み入れてはならない場所で、ハロウィンで勢いづいた地縛霊達は年末年始に訪れる馬鹿な人間共に向けて何やら準備を進めている。
<終>




