第14話 捨て猫の生涯
田んぼの稲が青々と育つ季節に生まれた小さな命の物語。
***
畦道の端っこに子猫が捨てられていた。
まるでカラスの餌になればよい……と言わんばかりに
草の中にポイッと放置されていた。
子猫が一匹で震えていると
飼い主の意向を破る男が通りかかった。
男は子猫を片手で乱暴に掴むと、ひょいと懐に入れた。
子猫はニャーニャー鳴きながら
男の襟元からやっと顔を出した。
それは子猫の居場所が決まった瞬間だった。
やがて、その子猫は親猫になった。
何匹も産んでは育て、産んでは育てと繰り返す。
そうして老猫になる頃、男の死と入れ替わるように孫が生まれた。
猫は男の孫に寄り添い、遊び相手になった。
あまりに賢く、あまりに長生きするこの猫に
周囲の人間は『化け猫』と呼んだが
猫は平然と遊び相手を続けた。
しかしある日、猫は男の孫の前から姿を消した。
人間の目が届かない所でひっそりと死んでいた。
だが猫の魂は天へ昇ろうとはしない。
なぜなら猫は、自分の命を助けた男の恩に報いる事を望んでいた。
やがて年月が過ぎ、男の孫は人の子の親となった。
日々の忙しさに埋もれ猫を思い出す事がなくなった。
しかしいつか再び、その存在に気づくだろう。
猫の魂はいつも傍らにいて、今もずっと見守り続けている。
<終>




