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怖くない怪談話 短編集  作者: 祭月風鈴
13/27

第13話 気が早いカーナビ

 自動車メーカーやIT企業が競って開発している「自動運転車」。

自動運転車とは、ドライバーが運転しなくても走行する便利な車の事だが

それよりもずっと以前に「自動カーナビ」という、運転手や同乗者の将来を予測し

先回りして案内するカーナビが開発されていた事を知っているだろうか?

「自動カーナビ」は、時に必要以上に将来を予測し過ぎる事から 「気が早いカーナビ」 とも呼ばれていた。

今回は、ある若い会社員が「自動カーナビ」を付けてドライブした時のお話し。



***


 

 「なあ……お前、カーナビ変えたんだって?」


 俺は友人が新しいカーナビに付け替えたと聞いて

いらなくなったカーナビを譲ってもらいにやってきた。

”いらなくなった” と言っても、通常なかなか手に入らない高級品。


「見ろよ、これが新しいカーナビ! どんな場所に居ても正確に現在地を表示して、抜け道情報もバッチリなヤツさ」

「へぇ、それはいいね。 じゃあ、その古い方を譲ってくれよ」

「いつもお前は唐突だな。 ま、構わねぇけど、このカーナビは……」

「 ”自動カーナビ” だろ? お前の話を聞いて一度使ってみたかったんだよ」

「そういや言っていたな」

「でも高額過ぎて手が届かなかったからさぁ」

「まぁな、確かに高額だな」

「なあ、”お友達” だろ? 譲ってくれよぉ」


 俺はクネッと腰を曲げながら手を合わせた。

友人は可愛い仕草をする女が好きだと言っていたので、男でも可愛い仕草をすれば通じると思った。


「ははは! お前のその馬鹿な考えが気に入った。 大丈夫! キモさに免じて譲ろう」


 成功! どんな理由であれ手に入ればそれで良し。

俺が浮かれていると、友人は急に深刻な表情になった。

さらに俺の両肩を挟むようにギュッと掴み、低く抑えた声で警告した。


「ただしな、コレはな……お前がしっかりしないと大変な事になるカーナビだぞ」

「大丈夫だって! そんな心配そうなツラすんなよ」

「本当に分かっているのか? 注意事項を説明してやるから少し付き合え」

「くどいなぁ、別に説明なんていらねぇよ」


 俺は友人から ”自動カーナビ” を奪い取ると、一目散に車へ乗り込み、アクセルを踏んでその場を去った。

一刻も早く俺の愛車に付けたかった為だが、これがそもそもの間違いだった。




 2日後




 「よし! カーナビ取付け完了! さぁて、走り行ってくるか」


 飲まず食わずのブッ通しだったが、自力でカーナビを取り付けた。

俺は自分の手で車をいじるのが大好きだ。

早速、”自動カーナビ” の性能を試してみる。

エンジンをかけると、すぐにソレは喋り始めた。


『前方右折、100m先を、左折します』

「えっもう? まだ自宅駐車場だし、目的地をセットしていないぜ。

何かスゲェなぁ! とりあえず走らせてみるか」


 駐車場を右に出て、一つ目の十字路(100m先)を左折。


『しばらく道なりです』

「どこへ案内する気か? いや、古い情報が残っているだけなのか?」


 街中を抜けて観光地へ。


「さすが他県のナンバーが増えて来たな」

『この先、左折です』

「え、そんな急に……あ、あの信号か」


 左折する。

国立公園の無料駐車場の看板が見えた。


『目的地周辺です。 運転お疲れ様でした』

「はあ!?  俺は目的地を設定してねっつーの! あ、でもアイツが設定してあったのかな」


 とりあえず、駐車場に車を停めて降りる。

公園をブラブラしながら適当に女性へ声をかけてみると、驚いた事に彼女はすぐさま俺の誘いに乗った。

スゲー! この雰囲気はもしかして、ホテルまで行けちゃうってか?

俺は下心満々で彼女を助手席へ乗せ、ドライブへ出かけた。

カーナビに目的地をセットしていないが、俺の心にはセットしてある。 

それは当然、女の子と楽しいひと時を過ごせるホテル。


『次の十字路を右折です』


 また勝手に案内をしだした。


「え~? 目的地をまだ設定してないよね?」


 彼女が不思議がる。


「コレさぁ、ダチに譲って貰ったんだ。

”自動カーナビ” って言って、気が早い変なカーナビなんだよ」

「えー! 変なのぉ」

『50m先、右折です』


 案内通りに右折する。


『目的地周辺です。運転お疲れ様でした』

「マジ……かよ」


 ラブホテルの入口前だった。 

俺はゴクリと唾を飲み込んだ。 まさか本当にこんな所へ案内するとは思っていなかったからだ。

何かの偶然だろうと心の中で言い聞かせ、額に滲む汗をぬぐう。

それはともかく……俺は彼女を横目でチラリと見た。

まさかここまで連れてこられて、「あたしは嫌よ」 なんてフザケタ冗談は言わねぇだろうな。


「あたしは……構わないけど」

「オオッ!!」


 どーもご馳走さんッス。

彼女がこんな状況に慣れているのか覚悟を決めたのか分からないが、俺にとってはどうでもイイ。

カーテン付きの駐車場へスルリと入り、タイヤを滑らせて一発で駐車を決め、ドアを開けて彼女を降ろす。

もし彼女の気持ちが変わっても逃げないように肩を抱きかかえながら受付を通って部屋へ入り

ヤル事をやってスッキリした俺は、まだ放心状態の彼女を車に乗せてホテルを後にした。


『ルートを再計算します』

「今度は何処へ行く気だ?」

「面白そうだから案内通りに行ってみない?」


 なんと、カーナビの案内通りに着いた場所は結婚式場の駐車場だった。


「はあ?」

「やだ、可笑しい♪ ね、ちょっと覗いていかない?」

「チッ、面倒くせぇなぁ」


 俺は彼女をどこかで降ろして家に帰りたいと考えていた。

夕方だし腹も減っていた。 かと言って、彼女と一緒に飯を食うだけの気持ちは全くなかった。

何しろ俺にとってはその場限りの単なる遊びだったから。

すると、乗り気のない俺に彼女は凄んで言った。


「まさかここまでアタシを連れてきて、『俺は嫌だよ』 なんてフザケタ冗談は言わないでしょうね」

「い、いや。 俺は……構わないけど」

「うれしい!!」


 彼女の迫力に俺は即・降参していた。 

焦りで心臓をドキドキさせている俺が隙を突いて逃げないように、彼女は俺に腕を絡ませながら式場の中へ入った。

これじゃぁまるで下調べに来たカップルだ。


「楽しかったねぇ♪  それにしても、”気が早いカーナビ” ってよく言ったものね! 

エッチした後は結婚式だろうって、カーナビが予測したのね。 さて、今度は何処を案内してくれるのかなあ」


 ノリノリの彼女に反して俺は疲れ果てていた。

既に夜7時を回っている。 冗談じゃない……俺はさっさと帰りたいんだ。

どこかに彼女を捨てていかなきゃ。


「家は何処? 近くまで送ってくよ」


 俺はエンジンをかけながら彼女へ言った。

もう、サヨナラしたいから、彼女と目を合わせなかった。


「え……」


 少し涙ぐんでいるような声が返ってきた。

でも仕方ない。 俺達はどうせ、通りすがり同士だ。


『案内を開始します。この先、右折です。その後左折です』

「なあ、家は何処?」

「……カーナビの案内通りよ」

「マジ聞いてんだけど!」


 俺は苛立って言った。

 

「怒らないでよ。 カーナビの案内通りなんだから!」

「クソっ、マジかよ」

「私も驚いてる。 このカーナビ……本当に……将来みらいを予測するのね」


 飲食店やスーパーが立ち並ぶ街中から、閑静な住宅地に入った。

カーナビが案内するまま進んでいると、どう見ても人が住んでいなそうな地域に踏み込んだ。

殆ど空き家なのだろうか? まだ人が起きていても良い時間帯なのに、どこも真っ暗だ。


『50m先左折です。その先、左折です』

「……袋小路っぽいな」

「……うん」


 左、左と案内するカーナビ。 ずんずん暗がりへ進んで、やがて街灯さえもなくなった。

俺は何だか嫌な予感がしてきた。 もしかして、故障して間違った方向を案内しているのでは!?


『その先、左折です。その先、左折です』

「やっぱり壊れてる? ずっと街灯ねぇし、民家らしい民家もねぇ」

「ううん、壊れていないよ……合ってる」


 そして間もなく。 俺の嫌な予感が的中した。


『目的地周辺です。運転お疲れ様でした』

「な……なんだ!? ここ」


 俺達は、古い雰囲気の墓地に着いた。

車のライトに照らされて、沢山の地蔵や墓石が浮かび上がる。

道はアスファルトで平らだが、車幅いっぱいまで迫る塀に挟まれてるのでUターンは不可能だ。

どうしてもっと早く気づかなかったのだろうと後悔した。

はっきりと見えないが、墓地の奥に少し広い場所があるようだ。


「とにかく……かなり嫌だけど、墓地の奥で車の向きを変えて、この場所から離れよう」


 俺は彼女に言うと、腹をくくってアクセルを踏んで前進した。

コンクリートで作った鳥居らしき門をくぐると、今度は車幅一杯に迫る墓地の間を通過した。

恐怖のあまり、わき目を振らずに前進する。 

目的の広い場所は、見た感じよりも遥かに遠かった。

車体が多少傷ついても構わない! さっさとこんな場所から脱出したい!

俺はさらにアクセルを踏み込んで、ガツガツ車体の脇を擦りながら広い場所へ突き進んだ。


「はぁ……はぁ……」


 到着するや俺は、ハンドルに額を当てて緊張した呼吸を整えていた。

腕も足も、恐怖で震えている。 

早く逃げなきゃと歯を食いしばり再び車を走らせようとした時、彼女がボソッと呟いた。


「カーナビは、きっと私達がうまくいかないって察したのね」

「え?」

「だから私達がうまく行く場所へ案内してくれたのね」

「何を言って……う、うわぁぁぁぁああ!!!」


 不気味に低い声にゾクッとして振り向くと、バックからサバイバルナイフを取り出して

俺に襲い掛かる彼女の姿が目に入った。


*


 ……その後、俺の記憶はない。 

気が付いたら病院のベッドで横になっていた。 


「よぉ、見舞いに来てやったぜ」


 ドアをノックして、今日も友人が入ってきた。

GPSを使って俺の行先を見守っていた友人が警察に通報してくれたおかげで、俺は事なきを得ていた。

彼女は駆け付けた警察にその場で取り押さえられ、今は監獄にぶち込まれている。


「ありがとう……いつも悪ぃな。 仕事帰りに寄ってくれて」

「いいんだよ、別に。 お前にあのカーナビを渡して後悔していてさ」

「え! 悪いのは俺だよ! 注意事項をちゃんとに聞いていれば、こんな事には……」


 すると、友人が俺から目を逸らせて言った。


「あの、カーナビさ。 俺、外そうとしたんだけど……外れねぇんだよ」

「いや、それは俺が自己流で取り付けたから変な風になっているんだろうよ」

「う~ん……そういう ”外れない” って意味じゃなくてさ」

「じゃ何?」

「まだ、案内を続けているんだよ」

「え?」

「どこだと思う?」

「さ……さぁ」

「彼女がいる監獄へ……だよ。 どうやったら案内を解除できるのか分からないんだ」




<終>

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