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怖くない怪談話 短編集  作者: 祭月風鈴
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第10話 マナーに厳しい廃病院

 真夜中に、心霊スポットで有名な廃病院へ潜入した俺と3人の友人。

そこで見たものは、とても明るい普通の病院だった。

ところが……。


***


 これは、俺が覚えている限りの話しです。

俺達は大学のサークル仲間4人で『バチが当たると神隠しに遭う』と噂される廃病院へ行きました。

県内でも有名な総合病院でしたが医療事故などが相次ぎ、潰れてしまった病院です。

時刻は深夜0時。 どうせ、よくある大袈裟な噂だろうとナメていた俺達は正面入口から入りました。

ところが……。


「……あれ?」

「おい、なんだココ」

「スゲー明るい!」

「出来立ての病院じゃん!?」


 俺たちの眼前には、大きなガラス窓から日差しが降り注ぐ明るく綺麗なロビー。

訪れた大勢の患者を看護師や医療事務のスタッフなどが優しく対応する普通の光景。

真夜中に廃病院の正面玄関にいるハズなのに!

俺と友人1人が戸惑って立ち尽くしていると、もう2人の友人らが言いました。


「あ、俺ちょっとトイレに寄ってくよ。 さっきから我慢していたんだ」

「じゃぁ俺は、そこの自販機でジュース買ってくるよ。 お前ら何がいい?」


 彼らは自分がいる場所の本当の姿を忘れているようです。

なので俺は慌てて彼らを引き留めようとしました。

ところが……


「おい! どうしちまったんだよ! 俺らがいる場所は……」

「ちょっと兄さん達、通してくれないかな?」


 ドスの効いた声で、強面のおじさんが車椅子から声をかけてきました。


「す、すみませんっ!」


 俺と友人は驚いて端へ避けたのですが、その隙に2人の友人を見失ったのです。

慌てた俺たちは、すぐに彼らを探そうとしたのですが、強面のおじさんが俺達の腕を掴んで放しません。

ヒッと悲鳴を上げた友人は、懸命に腕を振りほどこうとして暴れ「放せ!」と車いすを蹴りました。

それを見た俺は「いくらなんでも、それは……」と彼を静止し、強面のおじさんに真摯に謝罪しました。

後から思えば、俺達4人の中で一番正気だったのは彼だったかも知れません。

なぜなら、ここが何処であるかを忘れないでいたからです。


「フン……! ”お前”はマナーが良いなぁ」


 強面のおじさんは俺にニヤリと笑い、掴んでいた腕を放して去っていきました。

しばらく呆然としていた俺達。

しかし……この時には既に奴らのマナーチェックが始まっていたのです。

 再び、ロビーに飛び交う音が耳に入ってきました。


「内科3番でお待ちの○○様……」

「あの~、すみません。 耳鼻科に行きたいんですけど迷っちゃって」

「○○! 病院では静かにしなさいと言ってるでしょ!」


 茫然と目の前の光景を眺めていたら、友人が俺の肩を叩きました。


「おい、しっかりしろよ! どうするんだよ?」

「……どうするって?」

「ヤバイよ」

「何が?」

「俺ら完全に心霊現象を見ている! とにかく外へ出よう! 警察に行ってアイツらの捜索願いを……」


 後から思えば、この友人は不運でした。

現状をしっかりと把握していたが為に、逆に自ら踏み入ってしまったようです。

青ざめる友人をよそに、俺は呑気な事を言っていた記憶があります。


「ハハ、どうして外に出るんだよ……そういう時はさ」

「え?」

「健康診断に来たんだと思えばいいじゃん。 明るくて怖くないんだからさ、見学しようぜ」


 すると突然、友人が叫びました。


「ひっ!」


 全身が真っ白い服の女に脚を掴まれていたのです。

長い髪を振り乱したその妊婦が叫びました。


「う……産まれるぅっ!!」

「や、やめろ! 離せ!」


 妊婦を蹴ろうとする友人。

俺は慌てて彼女を守り、叫びました。


「看護師さん! 大変です、助けてください! 赤ん坊が産まれそうです!」

「産まれるー!!」

「大丈夫ですよ、頑張って!」


 俺は彼女を励まして、駆けつけた看護師さんへ渡しました。


「お、おい! 逃げるぞ! ヤバイよ!」


 友人は俺を強く引っ張って外へ出ようとしました。

ところが……


「あ!開かない?!」

「お前何してんだ?」


 俺は、一人焦る友人に尋ねました。


「開かねんだよっ!!」


 友人は俺の胸倉を掴んで、激しく揺すりました。


「まあ、落ち着けよ。 そんなに慌てんなよ」

「バカやろ! お前、正気か?」

「お兄ちゃん達、ここの『押す』を押せば開くんだよ」

「あ、ご親切にありがとうございます」

「お前、”何”に礼を言ってるんだよ! 気持ち悪ぃ事いうなよ!」

「お前、教えてもらったのに失礼な事いうなよ! バチが当たるぞ!」





「……そうだよ。失礼な奴にはバチが当たるよ」





 あれから4ヶ月経ちました。

3人の友人達は、依然、行方不明のままです。

俺は学校と警察に連絡を入れたのですが……。

どうしても思い出せないんです、彼らの名前と顔を。

これは俺の憶測ですが、友人らは『人』としての最低限のマナーを守れず、バチが当たって神隠しに遭ったのだと思います。

そしてあの廃病院に今もまだ閉じ込められているのだと思います。


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