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実験的小説

作者: でんでろ3

 暑い。ただもうひたすらに暑い。こうクソ暑いとどんな鉄の意志も汗に溶け出してしまうというものだ。

 今時、珍しい木造アパートの6畳1間。トイレは共同。風呂無し。簡素なシャワーが共同で有る。部屋に流しとコンロがあるのが、唯一の救いか? 2階角部屋である。日当たり良好なのが、こんな日には、恨めしい。

 この部屋の主、ポニーとテルは、駆け出しお笑いコンビ「でんでろんず」としてのネタ作り兼練習を、扇風機がいたずらに熱風で室内の空気をかき混ぜる中で、40時間ばかり連続でやっていた。


「なぁ、ポニー」若干……と言うわけには行かないほど、額の広いテルが、肩で息をしながら言った。

「なんだ? テル」若干、ちょっとだけ、笑いを取るには微妙な長さに面長なポニーが膝に手を置きながら応えた。

「さすがに、やっぱり、ちょっと、休まないか?」

「ダメだ。極限状態から生まれるギャグ、と言うものも、研究テーマの1つだ。……行くぞっ」

2人は同時に息を大きく吸うと、シャキッと立って、寄り添った。


2 人「でんでろんずでーす」

ポニー「ママー、僕、蓮舫(レンホウ)欧陽菲菲(オウヤンフィフィ)の見分けがつかないよ」

テ ル「……ぇ?……」

2 人「伝わらないにも程がある~。程がある~。程がある~。ビシッ」


「なんだ? 今のツッコミ?」と、下からねめつける様にポニー。

「いやいやいや、ここは、俺が、『なんだ? 今のボケ?』って、切れる場面だろう?」

思わぬ逆切れに、テルが戸惑っていると、

「北斗百裂拳!」

と叫んで、ポニーがテルに、無数のパンチを叩き込んだ。

「うつけものっ! この、俺たちのギャグは、相手に伝わらないということが、命なのだ。だから、これでいいのだ」


 さらに、5時間後。


2 人「でんでろんずで~す」

テ ル「社長、大変です。わが社の株がどんどん買い占められています。M&Aです」

ポニー「なにー? つまり、お口で融けて、手で融けないということか?」

テ ル「……はい?……」

2 人「伝わらないにも程がある~。程がある~。程がある~。ビシッ」


「今のは、俺も、自分で反省してる」機制を制してテルが言った。

「でもな、やっぱり、あるところを超えたあたりから、俺たち、やればやるほど、悪くなってないか?」

「火中天津甘栗拳!」

ポニーは、そう叫ぶと、テルに無数のパンチを浴びせた。

「稼ぐに追いつく貧乏なし。努力に追いつく才能なし。さっ、やるぞっ」

そうポニーは言ったが、テルはぶつぶつと小声で、

「んなこたねーだろ。お笑いや芸術は才能だろ……」と言った。


さらに3時間後。


2 人「でんでろんずで~す」

ポニー「今日は、新しく開店するお店の商売繁盛を祈願しましょう」

テ ル「はい」

お賽銭を入れ、鈴を鳴らし、柏手を打つ真似をする2人。

ポニー「どうか、がっつり儲かりますように」

テ ル「どうか、毎日、沢山のお客さんが、詰め掛けます様に」

ポニー「ちょっと、あんた、何、縁起でもないこと、お願いしているのよ」

テ ル「何でですか?」

ポニー「だって、家は、ネイルサロンよ」

テ ル「だから?」

ポニー「たくさんのお客さんが、爪欠ける、なんて」

2 人「伝わらないにも程がある~。程がある~。程がある~。ビシッ」


「これ、少し良いんじゃあ……」(自分の出番も多かったし)とは、決して言わないテルである。

「ペガサス流星拳!」

そう叫び、ポニーは、テルに、無数のパンチを、叩き込んだ。

「意味があったら、伝わっちまうだろうが!」

(全く伝わらないと、共感が得られないんだよ)というのを、どのタイミングで教えてやろうか悩むテルであった。


 さらに9時間後。


2 人「でんでろんずで~す」

ポニー「教授!やりました!ついに、不死の生物を発見いたしました!」

テ ル「なに? 本当か? 早速、見せたまえ」

ポニー「はい、これです」

テ ル「なんじゃ、ただのゴキブリではないか。これのどこが、不死なんだ」

ポニー「だから、節足動物でしょ」

テ ル「……だから?……」

ポニー「だから、節……」

2 人「伝わらないにも程がある~。程がある~。程がある~。ビシッ」


「ついに、やったんじゃねえか? 俺たち」感動に打ち震えながらポニーが言う。

「徹夜続きで、冷静な判断力失ってるだけだって」呆れ顔でテルが言うと、

「ひゃくれつ肉球」

と、ポニーが叫んで、ポニー無数のパンチが、テルの顔面にヒットした。

「疑うなら、もう一度やってみよう」


 その直後。


2 人「でんでろんずで~す」

テ ル「ジョブズが生きていたら、きっとこう言うであろう」

ポニー「ウンポコピーッ!」

テ ル「……ぇ?……」

2 人「伝わらないにも程がある~。程がある~。程がある~。ビシッ」


「ネタ古いし、意味分からんし、……」テルはワナワナと震えていた。

「もう、お前とはやっとれんわっ」

「おっ、それ、新しい」

「古いわっ」

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