バレンタイン
一応7作目です。書いた順番的にはかなり最初の方ですが。
「はぁー……はぁー……」
手に息を吹きかける。あまり意味がないと分かっていても、つい吹きかけてしまう。
「はぁー……はぁー……はぁ」
「桜……お願いだから隣で溜息とかつかないでよ」
「うぅー」
今日は2月14日。
私も恋する乙女なわけでイベントに参加する側だ。
「緊張するなら、私が渡してこようか」
「そ、それはだめ!」
自分で渡してこそ意味があるはず……と、私個人はそう思う訳で。
「なら頑張れ」
「う、うん!ありがとう、彩女ちゃん!」
昇降口で別れ、自分のクラスに向かう。
「いつ……渡そうかな」
なるべく早く渡して、早く落ち着きたい。
「よし!教室に入ったらすぐ渡そう!」
廊下で1人歩きながら、そう意気込む。
ただ、いきなり大声を上げたせいで注目の的になってしまった。
「あ、おはよう」
「おはよう」
友達の挨拶を返しながら教室を見渡す。
「いない……?」
いくら見ても教室内には見当たらない。
「いきなり失敗……」
落ち込みかけ、自分を奮い立たせる。
「まだ朝だしね!これからこれから!」
「何を張り切ってるのか知らないけど、そこをどいてくれると俺は嬉しい」
「えっ?って、えぇぇえ!?手島君!?」
振り返った先にいたのは、目的の人物。まさか、向こうから話しかけてくるとは思いもしなかった。
「で、どいてくれないか?」
「あ、うん。ごめんね」
手島君は私の横を通り抜け自分の席にすわる。
渡すなら今なのでは?そう、心の私が問いかける。
「よ、よし!」
手島君の座る席に向かい歩き出す。
「あ、あの」
「ん?あぁ、すまん用事なら後でにっしてくれ。宿題やらなきゃいけないんだ」
手島君はその言葉通り、鞄から昨日渡されていた宿題を取り出した。
「そ、そうなんだ……」
結局、この時間に渡す事は叶わなかった。
「あ、あの」
「すまん!移動教室だから」
「ちょっといい?」
「先生にお呼びがかかってて」
「今大丈夫?」
「悪い。友達に──」
結果として渡せなかった。それも、見事な程に。
まるで、避けられているかのように。
「はぁ……」
「だから、隣で溜息を吐くなって」
「だってー……」
自分の鞄を見つめ、さらに落ち込みかける。
「まぁ……いいことあるさ」
「慰めになってないよ!」
そして私はとうとう校門をくぐる。
「はぁ……このチョコどうしよう」
「食べちゃえば?」
「なんか、もったいない」
「なら私がもら──」
『おーい!!』
チョコを取られる直前、校庭の方が声が聞えた。
「今、声が聞えた?」
「部活の連中じゃない?それより、そのチョコちょーだい」
「だから、嫌だって」
このチョコを渡すことは諦め、鞄にしまう。
「じゃ、帰りま──」
『おーい!まってくれー!』
「んー?」
今度は声が確実に聞こえたので、後ろを振り返る。
「はぁ……はぁ……」
走ってきたのは手島君だった。
「やっと追いついた」
「どうしたの?」
何故、私を追いかけてきたのか意味が分からなかった。
「いやさ、なんか俺に用あったんだろ」
「そのために?」
正直、驚いた。まさか、追いかけて来るとは。
「で、なんの用だったんだ?」
「えーっと……」
「はら、早く渡しなさいよ」
「う、うん」
私はさっきしまったチョコを取りだす。
「あの……これ」
「チョコ?」
「うん。今日、バレンタインだから」
「あぁ、そっか」
手島君は顔を赤くしていた。
「あんがとな」
「うん!」
「良かったじゃない」
「なんか……緊張してた私がバカみたい」
「そんなもんでしょ」
「そんなものなのかな」
「きっとね」
2人で帰路を歩く。
「あ」
「どうした?」
「雪」
「ん?あー、本当だ」
2人揃って、空を見上げる。
「今日、寒かったしね」
「だね」
そして、また歩き出す。
「ねぇ」
「なに?」
「告白も出来るかな」
チョコを渡せたのだからきっと……。
「桜の気合次第じゃない?」
「だよね」
後ろを振り向く。そこには、雪のせいで出来た靴跡が。
「来年は、その靴跡が桜とあいつならいいね」
「そう、だね」
「やる気ねーな」
「ち、ちがうもん!」
「はいはい」
「だーかーらー」
でも本当に……来年は……──。
季節感?知りません(笑)
長編を上げるため、途中で書きやめちゃった短編を全て上げにかかっています(笑)
多少の変更をしながら、キャラに名前を付けて。
感想お待ちしております