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再会

 彼女…いや、あれと出会ったのは6歳のころだったと思う。専用ショーケースの中の赤い椅子に、それは座らされていた。見たことのない青い髪と眼が、代わり映えのない町並みにはとても不釣り合いで不気味だった。だけど僕の目を奪うのには十分すぎるほど美しくて。食い入るようにそれを見つめていた。その時母が僕の手を引いていたのだが、その動作やや乱雑で強く、手首が痛かったのをよく覚えている。――今思えば、母は見せたくなかったのかもしれない。


『生きる人形』なんて。





 1,


『ドールシンドローム感染者が……』

 テレビからそんなニュースが耳に入った。どうやら新しい感染者がでたらしい。

 ――またやってるよ、大雪とこのほかにニュースないのか

 そんな風に僕、綾巻功あやまきこうは思った。

 ドールシンドローム。

 それは、絶世の美女だけがかかる不治の病。いわゆるまだ少女と呼ばれる年頃で成長が止まり、不死の身体へと変化する。その際に手足は限界近くまで細くなり人格も静かで無口になる。…らしい。その姿がまるで人形のようだったためこんな風によばれている。初めて発見されたのは300年ほど前だというが。

 ――どーせ僕には関係無いことだなぁ

 ドールシンドローム感染者は世界的に見ても20人いるかどうかだ。日本にいればまぁお目にかかることはないだろう。

 ――10年前じゃああるまいし、な

 嫌なことを思い出してしまった。はやく忘れて朝飯でも食べよう。うちの両親は仕事の関係で家にいない。一人暮らしだから飯も自分で作らなければいけないのが面倒だが、慣れると意外にできるものだ。

 適当に作った飯を適当に食っていると、女性アナウンサーの声が耳に飛び込んできた。

『なんと今ちょうどその人形の一体が日本に来ているんですよね。』

 その一言とともに画面に表示された写真は、10年前のあの少女だった。僕は手に持ったスプーンを落としかけそうになりながら、慌ててテレビの電源を切った。

 深呼吸をして落ち着きこうとしたがあまり効果はなく、心臓の動きもおさまらない。

 あの青い瞳が脳内にこびりついている。幼い頃の記憶がよみがえる。



 怖い。



 ――そうだ、学校行かなくちゃ。

 みんなと会えば忘れられる。そうにきまっている。

 震える体を必死に抑え、僕は学校へ向かった。



 ○



 今日の授業もあっという間に終わり放課後。

 少しでも長くみんなといないと不安で、僕はどこかに遊びに行かないかと誘った。すると羽山がこんな提案をしてきた。

「じぁあさ、隣街の美術館いかねぇ?」

「え?何で?」「遠くね」「つまんなそう」

 ギクリとした。その美術館はだって…

「つまんなくねーよ!今朝テレビ見なかったのかよ、今あの『人形』があるんだぜ!」

 ――ヤバい、どうしよう。

『人形』のことを忘れようと誘ったはずなのに。しかも自分から誘っているため断るのも不自然だ。僕が動揺しているうちにみんなの意見は決まってしまったようだ。

「功、行こうぜ!」

 今日1日心の支えになっていたはずの羽山たちの笑顔がこんなに自分を苦しめることになるとは思ってもみなかった。が、しぶしぶ僕は美術館について行くことにした。




 そこから美術館に着くまでの間は地獄のようだった。まず冷や汗が止まらない。体もまた震えだしてしまう。それらをみんなに気付かれないように無駄に神経をすり減らしていた。

 ――もう、どうにでもなれ

 疲れた。そもそもトラウマなんて克服すればいい話だ。案外もう平気になっていたりして。そう考えると少し気が楽になってくる。

  「あ、あれじゃね?『人形』。」

 羽山が指差した方向には見覚えのあるガラスの箱。ああそうだ、忘れもしない。あの箱の中だけまるで異世界になったような美しさ。目を奪われ周りがぼやけてくる感覚。

 あの頃と何も変わらない。


 ――こうして、僕は『人形』と再会した。


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