第6話魔法適性検査
目が覚めると、俺はベッドの上にいた。一瞬今までのことが夢なのかと思ったが、部屋の材質が木材なことと、いつも自分の命を支えていた管がついてないので現実であろう。
「そうか俺は試験官に負けたのか……一応傷は付けられたけど、合格になったのかな?気絶したら失格とかだったらどうしようもないけど…」
俺は負けた悔しさよりも、試験に合格しているかの方が気になった。正直、人生で争いごとをしたことがないため、勝つ喜びや負けの悔しさというものがよくわからない。漫画や小説では勝ち負けはとても重要だったが、今の俺には必要ない…自分でも気づいていない負け惜しみかもしれないが。
「目が覚めたのね?」
受付の人と同じ格好をした女の人が声をかけてきた。耳が長く、肌も浅黒い漫画で見たダークエルフかもしれない。しかし、この服は全身を見るとナース服を黒く塗っただけに見える。これのせいで親近感があったのかもしれない。
「なかなか目を覚まさないから気付け薬を使おうと用意してたところだったのよー。惜しかったわ」
「あ、気を使ってくれたんですね、ありがとうございます」
「…丁寧な言葉を使う冒険者なんていつぶりかしら」
「…?丁寧な言葉はダメですか?」
「ダメということはないわ…ああ、年下の男の子が丁寧な言葉を使うっ何かいいわっ!」
…この人はダメなタイプかもしれない。俺は一応試験のことを聞いた。
「試験官がやりすぎたからすまないと言っていたわ。まあ、ここまで意識を取り戻さないような技なんて試験で使うべきでわないのだけれど。あと、一応実技は合格Cランクだそうよ」
「あ、合格してたんですねよかった。ありがとうございます。」
「正直Cランクで受かる人はここ数年いなかったわー。あなたは将来有望かもね!」
そう言いながら俺の手を取り、胸を当ててくる」
「そんなことないですよー」
俺はそんなことをされても慌てない。看護婦の格好をしている限りな!俺は看護婦相手にもうひとりの俺に管を通されたり、パンツを変えてもらったり、その動作の際に胸を押し付けられたりと耐性がある。
「……慌てないのはつまんないわね。まあ、もし怪我したらまた私が面倒見てあげるわ、次は意識があることを期待しているわ。次は魔力の適性検査があるから部屋から出て右側の部屋に行って」
「ありがとうございました」
俺はそれだけを言うと部屋から出た。正直またあの人にお世話になりたくない。本能的な何かを感じたのだ。そして検査へと移る。
部屋に入るとローブをかぶった小さい女の子がいた。ローブから覗く髪は緑で、よく見ると耳が長く尖っていた。
「では魔力の適正検査をします。まずはこの薬をのんでください」
「はい」
俺は目の前の薬をノーウェイトで飲む。色がレインボーで匂いも恐ろしく、量も多かった。だが長い入院生活ではたまに、とても飲めないと思ってしまう薬もあったので、いつのまにか慣れてしまった。
「…普通はためらったり質問をしたりするのですが?」
「こういうところなら危ないものは出てこないでしょう?ましてや薬というなら飲まない理由はないです。
「…わかりました。スムーズにことが進む分には問題ないですからね。
ぷんぷんという音が聞こえてきそうな態度だった。女の子は壁にある棚からビーカーのようなものを取り出し、その中になにか透明な液体を注いだ。
「本当は水晶とか誰かの魔力でチェックする方法が楽なんだけど、そんなお金も技術もないから最も古いやり方で行くわ。あなたこの中に指を入れなさい」
いつの間にか敬語が砕けてきている。やはりこの国は敬語が浸透していないのか?と考えていたら、ずい、とビーカーを押し付けてきた。俺は素直に右の人差し指をビーカーに入れた。すると、液体の色が変わった。それもカラフルに。
「この水は魔力を溶けこみやすくした水で、さっきあなたに飲ませた薬は魔力に色をつけるものだったの。色のついた魔力がこの水に触れると、魔力が溶け込んで色が変わって適正がわかるの。しかもそれぞれの適正の色は混ざらないし、割合でどの魔法が向いてるか分かるすぐれものなの!」
女の子の目がとても輝いている。魔法分野のオタクなのかもしれない。弟が自分の趣味のものを語るときと全く同じだったからだ。
「あなたの適性は…ってなにこの色の濃さ!あなたどれだけ魔力あるの?」
「魔力が多いと色が濃くなるんですか?」
「そうよ!魔力が多いほど溶け込む量も増える。でも指先から漏れる魔力なんてたかが知れてるからよっぽど大量の魔力を持ってなければここまでもれないわ!」
(俺に与えられた力って結構やばいんじゃないか?)
「とりあえず濃さは置いておきましょう。とりあえず適正よ。えーと青の水、緑の風、色が変わってないから無、暗紫色の闇、で、割合的に水と無が向いてるわね。
そう言って女の子がメモをしていく。水と風はイメージがつくが無と闇ってなんだろう?
「無と闇てどんな魔法なんですか?」
俺は気になったからすぐに聞いてみることにした。
「無は単体では衝撃波とか物に直接触れずに干渉したり、物体の強化だったりと魔力を直接ぶつけるのを効率よくするようなものよ。闇は…単体では意味をなさないけど、ほかの属性と魔法合成することでその魔法を変質させることできるわ。」
「魔法合成?」
「基礎である。火、水、土、風、光、闇、無、この7つの魔法のうちどれか2つ以上を組み合わせて行う魔法のことよ」
――魔法合成
基礎となる属性同士を混ぜることで別の力として扱うもの。例えば、先程イシュラが使っていた魔法は土と水の魔法を合成して、植物の命の力として扱っていた。本来土と水には物体を強化する力がないが、命の力とすることで同じ命である自分の力を強化したのだった。
(正直ピンとは来なかったが、便利なものなんだろう。知らんけど。)
「そうですか。では闇はどのように変質出来るんですか?」
「そうね…例えばあんたの適性の水は氷に、風は雷に、無は…物体を遅く出来たり重く出来たりするわ」
「へー」
(なにかしらマイナスの方向に変化するって理解しておこう。)
「まあ、普通は2つか3つだから、4つも適正あれば魔法使いとしても申し分ないわね、剣士なんてやめて魔法使いにならない?」
「まあ、機会があれば考えてみるよ。」
「ほんと!じゃあもし魔法を学びたかったら私のとこに来てね!えっとたしかここに私の名刺が…」
女の子がまた目を輝かせた。オタクは仲間になりそうな人材にはとても優しいと弟が言っていた。まあ、俺の中でのオタクの知識は弟のことしかないのだが。
「はい!私の名刺!紙って高いからなくさないでね!」
免許証位の大きさと形をした紙には手書きで「ギルドブレイブ専属魔法使いフィンネ・ケルキオン」と書かれていた。
「これをギルドの受付に出せばここまで連れてきてもらえるから、よろしくね!」
「う、うんわかったよ…」
笑顔が眩しい。ここまで食いつくと思ってなく、軽い気持ちで考えてみるよなんていうものじゃなかったと思った。でも魔法にはあこがれがあるので習うのは本当にいいかもしれない。
「じゃあ、診断書に魔法適性を書いたからこれを持って受付に行ってね、後待ってるからね!」
俺は紙を受け取ると受付に向かった。このあと受付がどこか分からず、かなり迷ったの内緒である。
ついにヒロイン候補が出ました!