第4話ギルドとスルクライ
―――冒険者ギルド「ブレイブ」
イシュタルの世界で知らぬものはいない勇者「スサノ」が拠点としたギルド。現在存在するギルドの中で3番目の歴史があり、勇者「スサノ」だけでなく銀騎士「シュヴァーン」や鍛冶王「ヴァルカン」などの歴史を残すような人物を送り出してきた。今現在も冒険者ギルドでもトップクラスのパーティ「スルクライ」「神喰」「ブレイブ」の3つが拠点としており、古さ故の敷地の狭ささえなければ王都に次ぐギルドになれたと言われている。テンカの街は人の出入りが激しく、歴史もあるということでギルド「ブレイブ」に登録しにくるものは多い。だが、登録したものの殆どは、3ヶ月もしないうちに90%以上が死んでしまう。このギルドはいわゆる「普通」の人では生きていけない。何かしら「特別」なものを持つものしか生き残れない。そして今日も冒険者が登録しにくる。だが、今日来たものは今までの冒険者とは何か違う雰囲気を持っていたのだった。
「すいませーん。冒険者として登録したいんですけどもー」
俺はギルドに入るとまずは受付と書かれた場所に向かった。受付をするのはお姉さんのようで安心した。顔がなんとなく自分を世話してくれた看護婦さんに似ている気がするのは元の世界が恋しいからだろうか。
「冒険者様でいらっしゃいますね?今までにほかのギルドに所属した経験は?」
「ありません」
「そうですか。ではこの登録用紙に必要なことを書いてください」
俺は受け取った登録用紙を見る。名前、年、希望職業、魔力適性という欄がある。だが、文字が読めても書く事ができない。だから
「すいません…俺、字を書く事ができないんです」
「なら代筆をしましょう。ではまず名前からお願いします」
代筆をしてくれるのか、それはありがたい。
「名前は望月大和。年は16。希望職業は剣士。魔力適性は…魔力適性ってなんですか?」
「魔力適性は使える魔法の種類や得意な魔法を表すものですねー。一応ギルドの登録の際の試験で調べますので、こちらで書きましょう」
「お願いします」
「では、必要項目を書きましたので試験を受けていただきます。試験官との試合と魔力適性検査になります。試合で高評価をだせばギルドランクを最大B判定として認めることができます」
「ギルドランクってなんですか?」
そう俺が聞くと、受付の女の人がこいつ何を言っているんだ?という目をしてきた。
「……ギルドランクというのはですね、EからAそれと特殊ランクSで格付けされるものでして、高ランクほどいろいろな依頼を受けられます。一応4人以上のパーティで組めばランクをひとつ上として依頼を受けられたりします。ランクを上げるには地道な依頼と定期で行われる試験に合格することです」
一応聞いてみたが、自分の中の認識とそこまで違いはなかった。ギルドランクさえ上がれば危険は増す代わりに高額な依頼も受けられる。そんな感じだろう。
「わかりました。ありがとうございます」
「では、後ほど試験を行いますので、待合室で待っててください」
そして俺は待合室まで案内されて、順番が来るまで待つことになった。
「お前のようなガキがギルドに登録しに来たって?登録できても依頼なんかまともにできないだろ?やめとけって」
待合室で待っていると、大柄な男が失礼なことを行ってきた。顔を見ると死んだ時にぬわーって言いそうだった。俺の読んだ小説のパターンだと、こう言う奴は無視しないとめんどくさい。だから俺はシカトを決め込むことにした。
「……」
「はっ!怖気づいてやがるか。まあ、俺様を目の前にしたらそうなるよな!こう見えても俺は生まれた村では一番の強さだったからな!」
彼の自身の源は村単位での強さ1位だったかららしい。まあ村一番でもすごいのだろう知らないけど。
「俺の名はバッカス!覚えておきな、絶対に有名になるからな。」
「……」
「反応の悪いやつだなー。もしかして怒ってるのか?だったらすま―」
「バッカスさん順番が来ましたよー。」
係りの人がバッカスの名を呼んだ。
「おっと俺の番がきたようだな。じゃあなガキ、荷物まとめて故郷に帰るんだな!」
バッカスが部屋の外に出ていく。騒がしいやつだった。
(なんであんなに失礼なことを行ってくるんだろうか?まあ、俺の見た目は子供というか、16歳だもんなー日本でも働く年齢ではないらしいからな。)
らしいというのはその年齢でも働くやつは希にいると聞いたからだ。俺の読んでた小説とかだと14歳で世界を救ったり、16歳で勇者のパーティにいたりしたからわからんが。
「試験終了!」
そんなことを考えていると、バッカスの試験が終わったようだ。次は俺の番だな。
俺は剣を手に取ると軽く振る。この体になってから調子がいいが、こんなに思い通りに体が動くのは初めてだ。体を動かしていると、俺の名前が呼ばれた
「ヤマトさーん。順番が来ましたよー」
俺はミスリル銀の剣2本を鞘にしまい背中にくくり付けて、会場に向かった。
試験会場は漫画とかに出てくる闘技場のような場所だった。石で出来ており、足元は砂が敷き詰められている。観客席に人はいないが、ここが埋まったらすごいだろうなと思った。俺は試験管の男と向き合った。
「それでは試験を始めます。実技試験官のイシュラ・スルクライと申します。」
――イシュラ・スルクライ
パーティー「スルクライ」のリーダー。現在、ギルド「ブレイブ」最強の男。そんな彼が今日試験管を勤めているのは、「ギルドの試験官をすれば面白い人間に会える」というお告げがあったからだ。イシュラはそんなお告げなどは普段は信じないのだが、なぜか今日のことは信じてみる気になったのだ。
「どうも俺は望月大和と申します。よろしくお願いします。」
イシュラの目の前の男は16歳だという。しかも身長は小柄で、華奢な女性みたいにに手足が細い。短髪の女性だと言われたら迷うだろう。だが、この男からは見た目のような貧弱さを感じられない。しかも、言葉遣いも丁寧で、普通の冒険者のような粗暴さもない。
「それでは試験内容を説明します。」
イシュラは目の前の男の力量を図るためにも、試験を行うことにした。
「私と剣による模擬戦を行い、その結果によってランクを決めます。」
「倒せなかったら合格できないということですか?」
「いえ、私を倒せなくても戦闘の内容でランクを決めますので、負けてもBということもありますよ。」
「ちなみに剣以外の使用の制限は?魔法とか。」
「魔法は使用せず、剣のみで戦っていただきます。一応自己強化魔法は剣技に入りますので、例外的に大丈夫です。」
イシュラは正直、目の前の男と早く戦いたかった。なれない敬語を使ってまであのお告げの通りにしているのだ。
「では試験を始めます。いつでもかかってきなさい」
もう待ちきれない、多少強引だが、イシュラは試験を始めることにした。