第3話ショニの心
「ヤマトさんテンカの街に着きましたよー」
ショニの声が聞こえる。街についたらしい。テンカの町と言うのか、覚えておかなければ。
「ありがとうございます!今外に出ますね。」
俺は馬車の中から出て、外を見た。そこには石、木、水晶、鉄いろいろな材質でできた建物が並んでいた。どれも作られたばかりのように新しく、中には建築中のものもある。ここまで統一されてない建物に唖然としていると、ショニが声をかけてきた。
「驚きましたか?この街はイシュタルでも1、2を争う商売の町です。建物も商品なので、様々な材質で作られているんですよ。来るたびに景色が変わるので、飽きないですよー」
「商売の町?ギルドはちゃんとあるのかな?」
「ありますよ!大きい街ほどギルドもしっかりしています。まあ、王都にあるギルド本部ほどではないですが、トップ5に入るくらいのギルドはあります。……あ、ヤマトさんが行くのは冒険者ギルドですよね?商人ギルドのことではないですよね?」
「商人ギルド?」
「商人ギルドは私たち商人が登録するギルドで、お互いの縄張りを荒らさないようにするギルドですかね……もしかしてヤマトさんはギルドのことをあまり知らない?」
「恥ずかしながら…ギルドに登録すれば生活はできるだろうということしか知らなくて…冒険者や商人ギルドといったように分かれてることも知りませんでした。」
「それはなんと!生活するためのギルドなら冒険者ギルドですね。冒険者ギルドへ行くなら武器と装備がないといけませんね。武器をお譲りしましょう。どんな武器がいいですか?」
「本当ですか?ショニさんってとてもいい人なんですね!!」
俺は本当にラッキーだと思った。異世界で初めてあったショニさんはとてもいい人で、一文無しの俺にここまで世話してくれる。商人だから貸しとか代価が必要とか考えていたが、助けた恩というのはなかなか大きい代価だったのか?だけど、俺はこれだけの恩を忘れないようにしなければ。もし、ショニさんが困っていたら力を貸そう。俺は心に深く誓った。それがショニの思惑だとも知らずに。
「そんな…当然のことをしてるまでですよ。とりあえず武器を選ぶ前に荷物の整理もあるので宿に行きましょう」
「はい!ありがとうございます」
俺たちは検問を抜けて宿へ向かうことにした。検問は荷物のチェックもなくあっさり通った。ショニさんは顔が知られているのかな?とか思いながら馬車は揺れる。
ショニさんに宿に連れてきてもらい、自分に与えられた部屋を見るととても広かった。ベッドは自分どころか家族で寝ても大丈夫そうなくらい広く、椅子は座り心地が良く、壁には高級そうな絵がかけられていた。いくら外に出たことがない自分でも、この部屋はとても高級な部屋だとわかった。
「ショ…ショニさん!この部屋は…」
「気にしないでください。ではあとで外に来てください。武器を渡しますから」
ショニさんはそれだけ言うと部屋を出て行ってしまった。
「どうしようこんなに広い部屋…ベッドひとつあれば十分なのに…」
俺は今までの生活を振り返ると、ほとんどがベッドの上だった。自分一人が寝れば埋まるような小さなベッドだ。いきなりこんな広いベッドを見せられても困るだけだった。だから俺は椅子を並べると、その上に布団のシーツと毛布をかぶせた。
「これで寝る場所は確保だな」
俺はやりきった顔をすると外に向かった。
「何か希望の武器はありますか?」
外に出ると、ショニさんがいきなり聞いてきた。俺は異世界に来たらこうだ!という武器があったので聞いてみる。
「…喋る剣とかあります?」
「…喋る剣…ですか?」
魔法のある世界だし、俺のよく読んでいた小説では主人公はしゃべる武器を持っていた。だからもあればと思ったがショニさんの反応は芳しくない。
「ありませんでしか?」
「いや…あるにはあるんですが…」
あるのか!でもここまで考えているということは良くないものか、相当高級なものなのだろうか。
「あるのですが、今ここにはありません。それに喋る剣というのは魔剣の類です。とても数が少なく、気軽にお譲りできる値段でもありません。申し訳ないのですが、喋る剣はお譲りできないですね」
「そうですか…なら仕方ないですね。じゃあ小さくて軽めの剣を2本ください。」
「わかりました。では…このミスリル銀の小剣2本をお譲りしましょう。
「ありがとうございます!」
2本の剣を頼んだのは、2刀流の主人公に憧れていたからだ。喋る剣は実在するらしいので、それを手に入れるのを当面の目標にするのもいいかもしれない。それよりも先に生活を安定させるほうが先だが…
ショニさんから受け取った剣を振ると、とても軽く重さを感じないほどだった。
「なんて速度だ…」
ショニさんがなにか呟いている。
俺はとりあえず武器をもらい、鎧も適当に選んだので、ギルドに案内してもらうことにした。
「ギルドは向こうの噴水を右に曲がったところにあります。では私は商人ギルドに行きますので、ここでお別れですね」
「そうですか…ここまで本当にありがとうございました!ショニさんに会えてなかったら一体どうなっていたことやら……」
「いやいや、いいんですよ。こちらこそありがとうございました。いま思うとヤマトさんって凄くお礼を言ってましたね。それに言葉遣いも丁寧だし。まさか貴族の跡取りとか?」
「そんなことはないですよ。それにここまでお世話になった恩は忘れません!もし何かあったら手伝いますよ」
「それはとても心強いですね。一応ギルド出した依頼にショニと名前があれば私ですので、もしよかったらお願いします」
ショニは内心ガッツポーズをしていた。なぜならここまで思った通りにことが進むと思わなかったからだ。もしヤマトが活躍をするようなら、ショニの名前は出てくるだろう。そうすれば最高の宣伝にもなるし、こちらの「お願い」も聞いてくれるだろうでも、今のショニの心は何か黒いものがあった。
(なんかうまくいったのに気分がよくありませんね…)
ヤマトを別れたあともショニの心は晴れないままだった。
「ここがギルドかな?」
ヤマトは冒険者ギルド「ブレイブ」と書かれた建物の扉の前にいた。
(今更だけど、見たことない文字でも読めるし、言葉も通じるな。自由に動ける嬉しさでそんなの全然考えてなかった。)
そしてヤマトはギルドの扉を開けた。