彼が彼女を追う理由
初投稿です。
誤字脱字満載だったり、日本語ではなかったり、その他諸々あるとおもいますが、どうかお手柔らかにお願いします。
ここに小鳥を愛でる赤髪の少女がいると伺ったのですが。
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これはとある国の、とある愚かな物語。
その国にはいつも通りの寒い季節がやって来ました。彼女はその季節と共にこの国へやって来ます。また同様に去って行くのです。
彼女はこの時期を待ち侘びていました。なぜなら、この国には彼が居るからです。しかし彼女の一族の長は言います。
「お前の気持ちがどうであろうと、それは個人の問題だから口はださんよ。だがしかし、境界線は越えてはならん。特にお前は。」
けれど彼女はこっそり彼に会いに行くのです。
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彼女にとって彼は命の恩人です。
数年前、彼女は誤って越えてはいけぬ境界線を越えてしまいました。そのせいで一本の矢が彼女の身体を貫きました。そんな血まみれの彼女を見つけ、匿い、看病してくれたのが彼でした。彼は境界線の向こう側へ行く事はできません。そこで彼は彼女が完治するまで、親切に面倒を見てくれました。しばらくして彼女の怪我は無事治り、彼女が自らの意志で境界線の向こう側へ帰る日がやって来ました。その日彼は彼女に言いました。
「さぁもうお行き。君は自由なんだ。僕の分までどうか世界を見てきておくれ。」
そうして彼女の首にペンダントをつけ、窓を閉め切ってしまいました。もうここへは来るなという彼の想いを彼女は汲み取りました。
彼の元を離れ、再び一族と合流し、彼女は彼のいる国を離れました。
別の国でいつも通り過ごしまた。仲間と共に語らい、おいしいご飯でお腹も満たします。けれど一向に彼女は満たされませんでした。何が満されないのか、何故満たされないのか、彼女にはわかりません。
そこで彼女は境界線の近くへわざわざ行きました。木の陰から境界線の向こう側を覗くと、その国の兵士達が訓練を受けているようでした。すると兵士の一人と目が合いました。
「おい!そこにいるのはっ!」
彼女は反射的にその場から逃げ出しました。誤って境界線を越えてしまい、一矢貫かれ、意識が薄らいでゆく、あの恐怖が再び蘇ったのです。
結局彼女は無事逃げおおせました。
もしかしたら一度味わったあの危機感、恐怖感でなら満たされるではないかと境界線まで来ましたが、彼女が満たされる事はありませんでした。
そして彼女の内になにかが欠けたまま、彼のいる国に再び冬が来ました。
その国で、彼女はまた仲間と共に語らい、おいしいご飯でお腹を満たします。しかしやはり満たされないのです。
そこで彼女はこっそり境界線を越えに行きました。彼にもう一度会ってみよう。何か変わるかもしれない。そう思ったからです。
一年前、彼が閉め切った窓へ近づき、コンコンとガラスを叩きます。すると直ぐさまカーテンが開き、懐かしい彼が姿を現しました。一呼吸置いて下を向いた彼は彼女の姿に気がつき、目を見開きました。そんな彼の様子に彼女が首を傾げると、彼は困ったように笑い彼女を窓の内側に招待しました。
「仕方のない子だ。おいで、そこじゃ寒いだろう」
彼は目を細め微笑みます。その視線の先には彼女がいます。至極当たり前のこのことが彼女はとても素晴らしいことに感じました。部屋の中で青年の語りを聞き、日が沈みかけた頃に仲間の元へと彼女は帰りました。
帰り道彼女は思い返します。
―…こんなに話したのは久々だ。楽しかったよ。また明日。
青年の笑顔が頭から離れません。それは別に煩わしくも何ともありません。むしろ…
そこで彼女は気づいてしまいました。
自分が満たされていることに。
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それから彼女は足しげく彼の元へ通いました。そんな日々が続き、やがて日常となり、彼と語らい始めてから幾度かの冬を越しました。彼のいない国に渡っている間、彼女は彼から受けとったペンダントを見ては淋しさを紛らわしていました。
この様な彼女の姿を、一族の仲間達は微笑ましく見守っておりました…ただひとりを除いて。
「おい、じい様がお呼びだぞ。」
そう言われ、彼女は一族の長の元へ行きました。
そして言われたのです。
「境界線を、越えているのだろ。」
まさかばれているとは思っていなかったので、彼女はとても驚きました。
「忠告はしたはずだ。越えるな、と。お前のことを心配してるから言うんだよ。母の気持ちを考えてみなさい。私は同じ道を歩んで欲しくない。」
急に彼女を罪悪感が包み込みました。母の話は仲間からよく聞かされました。
「貴女の母さまは命を懸けて貴女に生を授けたの。だからその生、大切にしなさい。」
初めはまるで自分のせいで母さまが死んだのだと言われてるようで彼女はよく耳を塞ぎました。しかし時を重ねてゆく度に、彼女には仲間を想う気持ちが生まれ、なんとなくですが母の気持ちが分かったつもりでいました。しかし今は違います。紛れも無く今の彼女は、彼のためになら死ねるのです。それは母が自らの命と引き換えに自分を生かしたその心情と、何一つ変わらないと信じています。彼女は母が自分の生を守ったように、彼の微笑みを守りたいと強く願っていました。けれど一方で彼女の中に仲間を想う気持ちがあるのもまた事実です。母を知らない彼女のことを目に掛けて、確かな愛情を注いでくれている仲間達。そんな彼らに支えられ、自分は恵まれていると理解しつつも、彼女の中の心の天秤は彼に傾いているのです。そのことに彼女はどうしようもなく罪悪感を感じたのです。
「今年の冬を最後にする。」
なのでそんなじぃさまの言葉は、揺れ動く彼女の心を突き落とすには十分だったのです。
最後、と言うのはもうこの国に来る事はない事を意味していました。
ー…もう彼に会えない⁉
彼女はその場から走り出しました。じぃさまの静止も、何事かと驚く仲間の声も聞こえません。今、彼女の頭の中には彼しかいないのです。
彼女は彼のいる境界線の向こう側へ、無我夢中で走りました。
彼女が境界線付近の異変に気がついたのは、あの彼との逢瀬の入り口である窓辺に着いた時でした。
いつもの調子でコンコンと窓を叩こうとしました。しかしいつもと様子が違います。人間の気配がするのです。
彼女はそっと耳をそばだてました。
「隊長、全員配置に着きました。御命令を。」
「そのまま待機。王子の身柄を確認してからだ。」
「御意。」
彼女は状況があまり良く理解できていませんでした。しかしひとつだけ彼女に分かったことは、彼が今危険な状況にあると言うこと。ならば早く彼にそれを伝えなければ。その一心で彼女は窓を叩きました。
コンコン…
静寂に包まれていた境界線付近に響き渡ります。
部屋の中では彼が彼女の存在に気が付いたようで、微笑みながら窓辺へと近づいてきます。
一方では、先程彼女が聞いた会話をした二人が再び会話を続けました。
「隊長、あのペンダント…!」
「あぁ、間者の噂はやはり真であったな。見ろ王子が窓辺へ向かっている。」
「隊長!御命令を!!」
「全隊員に告ぐ、私の銃声が合図だ。」
彼は彼女の来訪を心の底から喜んでいました。人質としてこの国に渡り、境界線近くの塔でただ虚しい毎日を過ごす。そんな味気も色味もない日常のほんの些細な“異常“が彼女でした。だから彼は血まみれの彼女を助けたのです。そして介抱したのです。そして仲間の元へ帰した後も、自分と関わる後も危険な事だと知り得ながら、彼女をここへ迎き入れていたのです。無知で無垢で素直なそんな彼女は癒しそのもの。しかし、今窓の向こうにいる彼女はどこか焦っているように見えました。背後を気にしながら、しきりに腕を広げ、何か叫んでいます。そこでやっと彼は、周囲の異変に気が付いたのです。
ー…囲まれている!
彼は走り出しました。このままでは彼女が危ない。早く部屋の中へ入れてやらねば。
彼がそう思い走り出したのと同時に、一発の銃声が空に木霊しました。
パンッ…
彼女は銃声に酷く驚きました。後ろを向くと隊長と呼ばれていた男が空へ銃を向けていました。再び窓の内へ視線を向けると、彼が目の前にいてまどを開けていました。
そして窓辺にいた彼女は瞬時に彼に持ち上げられ、部屋の中へと入れられ…
「危ない!」
そう叫んだ彼に目を向けると、彼は窓を背にしながら、いつもと変わらぬ微笑みを、その麗しい顔に浮かべていました。
「よかった、君が無事で」
何故彼がそのような事を口にするのか、彼女にはわかりませんでした。しかし彼女がその事について思案する間もなく、彼は彼女の方へ倒れこんで来ました。彼女は彼の下敷きにならぬように、咄嗟に一歩下がりました。そして倒れこんでうつ伏せになった彼に絶句します。
彼の背中には無数の矢が無残に刺さっていました。彼は彼女を庇ったのです。彼女は悲しみに包まれました。なぜ自分如きのために。そして母の事が頭を過ぎりました。一族にとっては邪で、彼女にとってはとっておきの考えが頭の中にひらめきました。
彼女が境界線を越えなければ、彼と出会うことはありませんでした。
彼と出会わなければ、不用意に境界線を越えることはありませんでした。
不用意に境界線を越えなければ、彼がこのように傷つくことはありませんでした。
彼女は決心します。
これは全て自らが生み出した過ち。そして厄災、歪み。これらを正せるのは自分だけだと。
遠く、羽音に耳をすませながら、彼女は一筋の涙を流しました。
「ごめんなさいじぃさま。ごめんなさいみんな。ごめんなさい母さま。ごめんなさい…」
バサバサ、バサバサ、
聞きなれない羽音が彼の耳に届きました。何事かと彼は目を覚まします。うつ伏せの状態で腕に力を入れようとした所で思い出しました。自分が矢に刺されていることを。しかし痛みはありません。身体を起こし、恐る恐る背中に腕を回します。矢と思しき物はありません。服は破れているのに、傷口は見当たりません。自身がこの様に目を覚ましている事といい、にわかには信じられぬ事ばかりです。そして自分が身を呈して守った彼女を探します。すると彼の左斜め前方、ふたつの赤色のシルエットがありました。彼は急いでそこへ駆けつけます。
「一体…」
彼女はぐったりと倒れこんでいました。
「ほぉ、この子が母の二の舞を踏み助けたのは貴方か。」
「人語を操る鳥…貴方は不死鳥か。………まさかっ、」
目の前に横たわる赤い小さな鳥。その顔に残る涙の痕を見て、彼は全てを悟りました。
「ご名答、私は不死鳥一族の長。そして彼女は不死鳥だ。」
彼は昔書物で読みました。神に呪われた鳥について。彼らは赤い羽を持ち、寒い冬を求め国々を渡り行くと。
「僕は、彼女に助けられたのですか。」
彼は彼女の身体をそっと手の平に乗せながら聞きました。その顔に表情はありません。
「左様。不死鳥の涙を体内に取り込んだ者に“死“は訪れない。そして不死鳥が涙を流す事は不死鳥自身の“死“を意味する。今貴方の手の上にいるのは死んだ鳥だよ。」
「そんな…」
無表情の彼の顔に悲愴の色が浮かび上がってきました。
「おっと、涙を流してはならぬよ。貴方の涙は不死鳥の涙同然なのだから。」
「…構いません。またあの日々に戻るくらいなら、」
長はふぅっと息を吐き、やれやれといった具合に話しはじめました。
「…不死鳥は涙をながして死ぬとき、ひとつ来世について願うことができる。きっとその子は母親と同じように、人間として生まれ変わる事を望んだのだろうよ。」
「ならば僕も…!」
「あの子の死を理由に自らの運命から逃げるんじゃない!!」
長は羽ばたき、その足で彼の頭を小突きます。
「それに再び人間として生を受けたあの子に、不死鳥の記憶があるとは限らない。だから、貴方にはあの子を迎えに行ってやってほしい。」
突然、彼の手の内にいる彼女の身体が光出しました。
「不死と言うのは、無常の日々だ。特に貴方にとっては今以上にやるせない、白くて黒い日々が待っていよう。けれど、その生の有無は貴方に決める資格はないのだよ。」
彼女の身体はいよいよ直視出来ぬ程、輝き出しました。
「それでは。不死同士なのだ、再びまみえる事もあろう。」
そうして長は境界線の向こう側へ、飛び立って行きました。
その時には、既に彼女の身体は光の粒となって飛んでいっていました。
彼は涙を流せませんでした。
いいえ、流しませんでした。
けれどその日以来、彼の心は泣いたままでした。
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この国には不老不死の貴人がいるそうで。
道すがら、彼は必ずこう尋ねるそう。
ー…小鳥を愛でる赤髪の少女をご存知ありませんか?
曰く、彼女は彼の生を終わらせる権利を持っているのだとか。
頭の出来の悪い私達には、理解出来ぬ話しですがね。
了
たいちょーの銃は空砲です。
きっと銃は希少で高価なものなので、弓矢が主流なんです。
という後付け設定。笑
お粗末様でした。