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色ノ唄ガ聴コエル  作者: 灰兎
第2章-蒼の部屋-
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4月30日



週末、研究所を出て知人宅を訪れた。


久しぶりの首都である。


ーー



「アイスランドの文字だねぇ」


大学時代の友であるミデヤンは眼鏡をかけながら言った。


ローテーブルの上には先程図書館で借りてきた本が一冊。

あの部屋でニアが読んでいたものと同じものだ。


「遙か北の小国で使われてる文字だよ」

「内容は?」

「主に宗教。メソジスト教の教えと思想が書いてある。元々は一つだった宗教がメソジスト教、バプテスト教、アナバプテスト教に分かれたんだ。アイスランド周辺ではメソジスト教が主流なんだ。これはその信者が読むんだろうねぇ」


「聖書みたいなもんか」

「というか聖書だな。僕も現物は初めて見た。しかし何でこんなの持ってきたんだ?」


「実は‥‥‥」






『中で見たことは他言無用でお願いします』




「ちょっと、な。」


「?‥‥まぁいいか。コーヒーは?」

ミデヤンが差し出したポットにカップを出す。

歯切れが悪くて不審極まりないのに、コイツは普通に接してくれる。

大学時代から変わらない、ティースプーンを親指と中指で持つ癖を見て少し笑んだ。


「何だよ」

「や、別に」

「気持ち悪ぃなぁ」


コーヒーが熱い。俺は少し顔を歪めた。


ー‥‥





「そういやミデヤン結婚は?」

「全ての書物が僕の嫁さ」

うむ、相変わらずだな。コイツに色恋は似合わない。


外は既に茜色に染まっている。随分長く話していたようだ。

「なぁレビ、今晩暇か?」

「ん、あぁ。それが?」

「いい店知ってんだが、どうだ?」


酒を呑む仕草をして笑った。お互いまだまだ語り足りないようだ。

「いいな。帰らなきゃならない場所もないし」

「お互いどうにかしないとな」


苦笑いを浮かべながらアパートを出た。






ーー‥‥



「しっかし此処もやりにくくなったよなぁ」


「首都の監視厳しくなったのか?」


ミデヤン行きつけだと言う下町の片隅にある飲み屋。

この辺りでは珍しいデザインで、「東の果ての小国」の庶民向け飲み屋風だそうだ。


「’’オデン‘‘と言う煮込み料理をつまみながら一杯」

というのがミデヤンのお気に入りらしい。



お互いすっかり出来上がった状態で、語る。


「そ。しょっちゅうサバーカの連中が目を光らせてる」


サバーカとはヘロデ直属の秘密警察のことだ。


「ちょっと喧嘩があっただけで監獄行き。やってられないさ」


「まったくだ」


「しかもまた戦争だとさ」

ヘロデが総統になってからこの国は大きく変わった。

戦争とは無縁の小国だったはずが、今は周辺国から一目置かれている強大な軍事国家。


その急成長の秘訣は数多くの暴力なのだから何とも情けない。



「あーあ、何でもいいから救世主様とやらが来てくれないかなぁ‥‥!」


ミデヤンは吐き捨てるように言い、グラスを仰いだ。


「救世主‥」

「さっきの、メソジスト教だがね、分かれた三つの宗派には一つの共通点があるんだ」

「共通点?」

「別々の物語のようだけどね、必ず‘‘蒼紅の救世主’’が世界を救うとされて、る‥‥」


そこまで言うとミデヤンは眠ってしまった。




救世主か‥‥。



「そうか‥」


それで世界が変わるなら


神にでも何でもすがりたいよな。



グラスの氷はすっかり溶けていた。




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