表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
色ノ唄ガ聴コエル  作者: 灰兎
第2章-蒼の部屋-
4/15

4月27日


4月も終わりに近づいている。

窓がない生活にも慣れてきた。

週末は外に出られるから息抜きもできた。


日記も軌道に乗ったようで、順調に続いている。


この施設には外国の子供が多く暮らしているらしく、巡回中に何度か出くわした。

皆髪や目の色が様々だったが、一貫して表情がないのが気になる。


あれだけ出くわして声すら聞かない。


一体何故彼等はいるのだろうか‥‥。   




ーー



夜の巡回は恥ずかしながら怖い。

夜は廊下を照らすのは常夜灯の薄緑色だけで、懐中電灯一つだけとは何とも頼りない。


「昔っから肝試しは苦手だったよなぁ」


ブツブツ呟きながら果てしない廊下を歩く。




不意に小さな物音が聞こえた。

音がした方を見ると、「生物管理室」の扉が開いている。

「生物管理室」は国内生物の標本が多数保管してある場所‥だったはず。


「行きたくねぇ‥」


とはいえ仕事だから仕方ない。

恐る恐る部屋を覗いた。




「子供?」



ホルマリン漬けの生物の棚の前に子供が一人佇んでいた。

食い入るように生物の瓶を見つめている。


こんな時間に子供が一人でいるのはよろしくない、よな。


部屋に入ると子供は俺に気づいた。



「‥‥‥だれ?」




 

たどたどしい言葉が部屋に小さく響く。

今まで見てきた子供たちと同じ、表情がまったくない。


年齢は6歳くらい。茶色の癖っ毛に薄緑色の丸い瞳。肌は透き通るように白い。ヨハネス人だ。

患者服は大きすぎるのか裾を引きずっている。


少年は答えを待つようにじっと俺を見ている。


「俺は警備員のレビ」

「れ、び?」

「そう。君は?」

「にあ」

「ニアか。ニアはここで何をしてるんだ?」 


「これ」



白く細い指は真っ直ぐにホルマリンの瓶に囲まれた水槽を指した。  


水槽だが、水は入っていない。

ドールハウスの家具が並べられ、ガラス越しに少女がこちらを見ていた。


薄紅色の長髪はシルクのヴェールのように肩にかかっている。瞳は一見金色に見えるが、よくよく見ればうっすら虹色の光をたたえていた。


何よりも特徴的なのは


背中から生えている小さな羽だ。


羽虫のような羽がダイオードの蒼い光を受けて輝いていた。




「‥‥フェアリー?」 

あまりの美しさに思わず呟いてしまう。



「ふぃおね‥」

下からの声に顔を向ける。


ニアは静かに、されど愛おしそうに彼女を見つめていた。


「この子、フィオネっていうのか?」 

「ううん。ぼくがよんでるだけ」


おはなしできないから  


とニアは付け足した。


フェアリーはさっきと変わらない。

恐らく精巧な模型なのだろう。





「もう、いく‥」


小さく呟いて、ニアは振り返った。



「ばいばい、れび」


「お、おう」



衣ずれの音をたてながらニアは部屋を後にした。



俺も部屋を出ようとする。

一瞬水槽に目をやった。


「っ!?」


笑ってる!?


再び目をやるとフェアリーは無表情になっていた。



「気のせい‥‥だよな」



無理矢理納得させ、今度こそ部屋を後にした。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ