Ⅰ
4月6日
今日から初めての街での生活だ。
それと共に日記という新しい習慣を身に付けてみようと決意した。
とはいえ、いつまで続くか不安でもあるが。
ーーー
ーー
「ここか‥」
俺は新しい赴任地に立った。
打ちっぱなしのコンクリートでできた建物が無機質な印象を与える。
ボストンバッグを持ち直し、建物の中へ入った。
俺がこの春から勤める此処は、
「国立生物研究所」
国内の生態調査や生物の観察を目的としている。
‥が、それは表向きの目的で、裏では国の委託で生物兵器の研究開発が行われているのだともっぱらの噂だ。
独裁者ヘロデならやりかねないと妙に納得してしまうし、戦争が始まる雰囲気がただよう国内情勢を考えればもはや噂は噂ではなくなっているだろう。
俺はその研究所の警備員として警備会社から派遣された。
受付で渡された制服は深緑色をした軍服のようなものだ。
此処の研究員だと言う女性に施設内を案内される。
スラリとした華奢な体を白衣で包み、漆黒の髪を一つに纏めている。赤いセルフレームの眼鏡が神経質な性格の印象を与えている。
’’この女性には逆らえない‘‘
そう直感した。
建物は白い壁と床で、清潔な病院といったような内装だった。
一通り案内されてから、銀灰色の扉の前に連れてこられた。
堅固な造りになっていることは一目瞭然だ。
女性は扉の前で立ち止まり、私を見据えた。
赤いセルフレームの眼鏡の奥で切れ長の目が
鋭く光った。
「ここから先は機密の研究をしている場所です。レビさんには此処から先の警備に当たってもらいますが、住み込みでお願いします。何かありましたら研究員を呼んでください。それから、中で見たものに関しては他言無用でお願いします」
早口でそれだけ言うと、女性は指紋認証装置に手をかざし扉の中へ進んだ。
住み込みかぁ‥‥。
いきなり此処に派遣された理由が判明した。
俺が独身で家族もいないからだ。
独り身なら住み込み勤務も構わないと判断されたのだろう。
「もう34なんだがなぁ‥」
いい歳して何やってんだか‥と情けなくなり静かに肩を落とした。