-汽車-
8月15日
-ヨハネス国首都クレアンス-
『まもなく発車致します。お乗りの方はお急ぎください』
ホームに鳴り響くアナウンスに促された人々が汽車の入口に吸い込まれる。
人の流れから弾き出されぬよう気をつけながら、私も汽車に体を滑り込ませた。
休日ということと、近場で祭が行われていることもあってか、家族連れが多い。
比較的人がいない個室を探しながらさ迷ううちに汽車は動き出していた。
ようやく見つけた誰もいない個室に腰を落ち着ける。
流れていくビル街をしばし眺め、私は一息ついた。
ビル街を見飽きた頃
隣の席に置いていたバッグから一冊の本を取り出す。
色あせた表紙には
『レビ=イェーガー 4/6~』
と角張った文字で書かれていた。
これは私の曾祖父が書いた日記だ。先日実家に帰省した際に見つけた。
中に挟まれていた写真に若かりし頃の曾祖父と、一人の少年が写っていた。
何故か、その少年が気になった。セピア色の写真からは髪色などは特定できないから、容姿が気になった訳ではない。
ただ‥何となくだ。
日記の冒頭に少年のことと、写真が撮られたであろう場所の名前が記されていた。
妙な好奇心に突き動かされ、私は長すぎる大学の休暇を使ってこの場所を訪れることにした。
平凡な毎日に飽き飽きした若者の娯楽と考えてもいいだろう。
目的地までは充分すぎる程時間がある。
それまでこの日記を読んでいよう。
開け放たれた窓からは穏やかな夏風が舞い込んでいた。
申し遅れたが、私の名前はアロン。
以後お見知りおきを。