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蛍の道

作者: 有璃香

 

 そこの家には誰も住んでいませんでした。

 もう何年も前から空家になっています。

 もう使えないようなタンスや机などが置きっぱなし、そして玄関も開けっぱなしになっていました。

 最近になって一匹の猫が出入りするようになりました。

 空家内には1つ大きめの茶色い丸い時計が壁にかけられていて、正確に動いています。

 その猫は、かけてある時計の前に座る事が多く、時計の針をよく眺めていました。


 「もうすぐ冬休みだな。」

 夕暮れの学校の帰り道、ふと空を見上げるとスーッと1つの流れ星が。

 「これは良い事が起きそうだなぁ、もしかすると宿題が去年より少ないのかも知れない。」

 少年は何だかドキドキしていました。

 「だけど、確実に寒くなって来ているのは肌で感じるな、僕は寒いのだめなんだなぁ。」

 少年は家の玄関に入ると、お母さんが突然目の前に現れてこう言いました。

 「(ゆう)、最近チャッピがどろどろに汚れて帰って来る事が多いのよ。近所の人の話だと、

 この近くに古い空家があるじゃない?あそこに出入りしている所を見たって言う人が・・・」

 「で?」

 「さっき又、チャッピが出て行ったのよ。あの空家まで行ってくれない?」

 「ちょっと怖いなぁ、もう暗いでしょ。まぁいいけど。」

 「鞄は部屋に置いててあげるから。」

 優君は鞄を置くと、お母さんは懐中電灯を手渡しました。

 チャッピとは飼っている猫の名前です。下を向きながら玄関を後にしました。

 「あぁ、良い事じゃなくて残念。」

 しばらく下を向きながら歩いていました。

 「首が痛くなって来た。」

 首を横に振ったり、両肩を上げたり下げたりしました。もう外はすっかり日が暮れていました。

 「あーっ、この辺はクラスメートの西藤(さいとう)さんと友達の(すばる)君の家があるなぁ。何してるんだろうな。」

 周りをキョロキョロしながら、家の明かりを確かめながら歩き進めていくと、空家が見えて来ました。

 

「あーあれだ。何だか怖いなぁ、お化けでも出て来たらどうしょう。何でこの辺には街灯がないんだ?」

 さらに前進して行きました。家の前に着きました。小さな門があり、片方が開いていました。

 恐る恐る中に入り、引き戸のドアに手をかけるとスーッと開いてしまいました。

 「うわぁっ、あまり力入れてないのに開いたよ。」

 優君はすぐに懐中電灯を点けました。

 「土足でお邪魔します。」

 周りはかなりホコリがたまっていました。懐中電灯を上下左右に照らしながら目を凝らしていました。

 「タイムスリップしたみたいに今の時代じゃないみたいだな。あれ?時計の針の音が聞こえる。」

 壁にかけてある時計を照らしました。

 「益々、謎が深まってくるなぁ。」

 優君も時計を眺めてしまいました。自分の腕時計と比べるとほとんど狂いのない事がわかりました。

 「ガサッ、ドスン」

 と、もう1つ近くにある引き戸の向こう側から物音が聞こえたのでゆっくりと開けてみると、

 すぐ目の前にチャッピが背を向けて、行儀良さそうに座っていましたが何よりも驚いたのは、

 この家の裏に小さな川が流れていることでした。

 「これは川か溝か?うーん、川だな。何でチャッピ、ここに来るんだ?」

 「ニャアオ」

 チャッピは川に近づき中に入って行き、ゴミや缶を口でくわえて外に出していました。

 「チャッピがする事はないんだよ、家に帰ろうよ。」

 頭を撫でていると、川のそばに生えている丈の高い雑草からいくつかの光っている小さい何かが、

 飛び始めました。

 「蛍だ!凄い、こんな所に。」

 少し後ろに反りかえってしまいましたが暫く、この狭い空間での沢山の蛍に見とれてしまいました。

 チャッピもじっとしていました。蛍はキラキラと暫くの間、飛んでいました。

 そして、元の居場所に戻って行きました。

 「チャッピ、そろそろ帰らないと叱られるかも知れないよ。」

 優君は振り返り、家から出て行こうと足早に動き出しました。

 チャッピも着いて行きました。玄関から出ようとした時、どうしても気になって振り返りもう一度、

 時計を眺めてしまいました。

 そして、家から出て行き、

 「ここは昔、きっともっと沢山の蛍がいたんだね。だから街灯が少ないんだ。」

 家に着くと心配そうにお母さんが待っていました。

 「まぁ、あなた達。」

 優君とチャッピは足元がホコリや泥で汚れていました。


 時間が流れて行きました。

 チャッピも優君の部屋でくつろいでいました。

 「不思議な空家だったね。今となって怖さがないよ。」

 優君は仰向けになって寝転がったりしていました。

 するとチャッピが背中をかゆそうにして顔を背中に向けたりしていました。

 「どうしたの?」

 その時でした。チャッピの背中から一匹の蛍が飛びだし、

 チャッピはその光を追いかけて遊んでしまいました。

 「よく着いて来たなぁ。」部屋の窓を半分開け、

 「帰してあげないと可愛そうだ。」

 部屋の中を自由に飛んでいましたが、窓から出て行くと、

 優君も後を追うように視界から消えるまで目で追っていました。


 今でもあの時計は正確に動いています。蛍達はその場から離れず、一部の人達に知られても、

 家が荒らされる事はありませんでした。



                   


                        終

 







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