第9話 フォートリッジ攻防戦
警報が鳴り響いたのは、深夜二時だった。
けたたましい鐘の音が、町全体を揺さぶる。
「総員、配置につけ! 敵襲だ!」
兵士たちの叫び声が、夜の闇を切り裂いた。
僕は飛び起きて、急いで服を着た。
部屋を飛び出すと、廊下でセレナと鉢合わせた。
「始まったわ」
彼女の顔は、冷静だった。
「予想より早かったけど——準備はできてる?」
「ああ」
僕たちは、階下へと急いだ。
エリシアとレインも、既に準備を整えていた。
「行きましょう」
エリシアが、杖を握りしめて言った。
四人で、城壁へと向かった。
城壁の上は、混乱していた。
兵士たちが武器を手に配置につき、松明が次々と灯される。
城壁の外を見ると——
闇の中に、無数の松明が見えた。
それが、こちらに向かって動いている。
ゼフィロス軍だ。
「数は!?」
ダリウス隊長が、叫んだ。
「およそ五千! 報告通りです!」
「魔導兵器は!?」
「三基、確認! 距離、千メートル!」
隊長は、歯噛みした。
「援軍の到着は、早くて明日の夕方だ。それまで、持ちこたえなければならん!」
彼は、兵士たちに向かって叫んだ。
「全軍、聞け! 我々は、この町を守る! 家族を守る! 王国を守る! 一歩も、引くな!」
「おおおおっ!」
兵士たちの雄叫びが、夜空に響いた。
でも——その声には、恐怖が混じっていた。
五倍の敵。
そして、魔導兵器。
勝ち目は、薄い。
「学院の諸君」
隊長が、僕たちに向き直った。
「東の塔に配置する。そこから、魔法支援を頼む」
「了解しました」
僕たちは、東の塔へと走った。
塔の上からは、戦場全体が見渡せた。
そして——敵軍が、はっきりと見えた。
無数の兵士。
騎兵隊。
そして——三基の巨大な魔導兵器。
鋼鉄の巨人のような、その兵器。
高さは十メートル以上ある。
四本の脚で歩き、前面には巨大な魔力砲が装備されている。
「あれが……魔導兵器……」
レインが、震える声で言った。
「どうやって、倒すんだ……?」
「まず、敵の先鋒を削る」
セレナが、冷静に指示を出した。
「エリシア、大規模な火魔法で敵の前線を焼き払いなさい。レイン、防御結界を張って。エリオは——」
「周囲を警戒する」
僕は、答えた。
「敵が城壁を登ってくる可能性がある」
「そうね。頼むわ」
セレナは、自分の魔力を集中させ始めた。
彼女は、何をするつもりだ?
でも——今は聞いている暇はない。
敵が、射程距離に入った。
「全軍、構え!」
隊長の号令が響く。
「放て!」
一斉に、矢が放たれた。
無数の矢が、空を覆う。
そして——敵陣に降り注いだ。
悲鳴が上がる。
だが——敵は止まらない。
盾を掲げて、前進を続ける。
「第二射、放て!」
また矢の雨。
でも——敵の数は多すぎる。
矢では、止められない。
「エリシア!」
セレナが、叫んだ。
エリシアは、両手を前に突き出した。
彼女の周囲に、膨大な魔力が渦巻く。
空気が歪む。
そして——
「『紅蓮の奔流』!」
巨大な火炎の柱が、敵陣に向かって放たれた。
轟音。
熱波。
敵の前線が、一瞬で焼き払われた。
数十人の兵士が、炎に呑まれて倒れる。
「すごい……」
レインが、呆然と呟いた。
でも——
「まだ足りない」
エリシアが、冷静に言った。
「敵は、まだ四千以上いる」
その通りだった。
前線が崩れても、すぐに後続が埋める。
そして——魔導兵器が、動き出した。
四本の脚で、ゆっくりと前進する。
地面が、その重さで揺れる。
「魔導兵器、射程距離に!」
見張りの兵士が、叫んだ。
魔導兵器の前面が、光り始めた。
魔力が、集中されている。
あれは——
「避けろ!」
セレナが、叫んだ。
瞬間——
閃光。
轟音。
魔力砲が、発射された。
青白い光の奔流が、城壁に向かって飛んでくる。
レインが、必死に防御結界を展開した。
でも——
結界が、砕け散った。
魔力砲は、城壁の一部に直撃した。
爆発。
石壁が、粉々に砕けた。
「くそっ!」
ダリウス隊長が、叫んだ。
「城壁が破られた! そこを守れ!」
兵士たちが、破壊された部分に集まる。
でも——
二発目が、来た。
三発目が、来た。
魔導兵器三基が、次々と砲撃を加える。
城壁が、ところどころ崩れていく。
「このままじゃ、持たない!」
レインが、叫んだ。
「どうすれば——」
「魔導兵器を、止める」
僕は、決断した。
「あれを破壊しなければ、城壁が持たない」
「でも、どうやって!?」
「僕が、行く」
僕は、塔から飛び降りる準備をした。
「エリオ!?」
セレナが、止めようとした。
「無茶よ! 一人で行くなんて!」
「だから、一人じゃ行かない」
僕は、三人を見た。
「一緒に来てくれるか?」
エリシアは、一瞬だけ考えて——頷いた。
「当然よ」
レインは、震えながらも——頷いた。
「行くよ……友達だろ?」
セレナは、ため息をついて——微笑んだ。
「仕方ないわね。私も行くわ」
四人で、塔を降りた。
そして——城壁の破壊された部分から、外へと飛び出した。
戦場に、足を踏み入れた瞬間——世界が変わった。
矢が飛び交い、兵士たちが叫び、血と硝煙の匂いが充満する。
これが、戦争だ。
記憶の中の戦場が、蘇ってくる。
でも——今回は違う。
今回は、仲間がいる。
「行くぞ!」
僕は、魔導兵器に向かって走った。
エリシアが、前方の敵兵を火魔法で薙ぎ払う。
レインが、防御結界で矢を防ぐ。
セレナが——何か、呪文を唱えている。
彼女の周囲に、複雑な魔法陣が浮かび上がった。
「『時の遅延』」
セレナが、手をかざした。
すると——周囲の敵の動きが、遅くなった。
まるでスローモーションのように。
「今よ! 抜けて!」
僕たちは、遅くなった敵の間を駆け抜けた。
そして——魔導兵器の目の前に到達した。
近くで見ると、さらに巨大だった。
鋼鉄の脚。
魔力で輝く関節部。
そして、砲口からは——まだ魔力が漏れている。
「どこを攻撃すれば!?」
レインが、叫んだ。
「関節部よ!」
セレナが、指を差した。
「あそこが、最も脆い!」
「分かった! エリシア!」
「言われなくても!」
エリシアが、両手を組んだ。
彼女の魔力が、一点に集中する。
「『焔槍』!」
鋭く尖った火炎の槍が、魔導兵器の関節部に突き刺さった。
金属が軋む音。
でも——貫けない。
「硬すぎる!」
「もう一度!」
エリシアが、さらに魔力を込める。
でも——その時。
魔導兵器の砲口が、こちらを向いた。
魔力が、集中されている。
撃たれる——!
「レイン!」
「任せて!」
レインが、前に出た。
彼の魔力が、水の壁となって展開される。
「『水盾の陣』!」
厚い水の壁。
でも——魔力砲の威力に、耐えられるのか!?
閃光。
魔力砲が、発射された。
レインの水盾に、激突する。
水が蒸発し、白い蒸気が立ち上る。
レインが、必死に魔力を注ぎ込む。
でも——水盾が、割れ始めた。
「くっ……もう、限界……!」
「レイン!」
僕は、レインの背中に手を当てた。
そして——自分の魔力を、彼に送り込む。
「エリオ!?」
「一人じゃ無理でも、二人なら!」
僕たちの魔力が、合流する。
水盾が、再び厚くなった。
そして——
魔力砲が、止んだ。
水盾は、ギリギリで持ちこたえた。
「今だ、エリシア!」
「分かってる!」
エリシアが、最大の魔力を込めた。
彼女の全身が、紅く輝く。
「『紅蓮爆砕』!」
巨大な火球が、魔導兵器の関節部に叩き込まれた。
爆発。
金属が砕ける音。
そして——
魔導兵器の脚が、折れた。
巨体が、傾く。
そして——倒れた。
地面を揺るがす、轟音。
「やった!」
レインが、叫んだ。
でも——
「まだ、あと二基いる」
セレナが、冷静に言った。
「急ぎましょう」
僕たちは、次の魔導兵器へと走った。
でも——その時。
背後から、殺気を感じた。
「後ろ!」
振り返ると——
ゼフィロスの騎兵隊が、こちらに突撃してきていた。
十騎以上。
槍を構えて、猛スピードで。
「囲まれた!」
レインが、叫んだ。
前には、魔導兵器。
後ろには、騎兵隊。
四方を、敵に囲まれている。
「どうする!?」
「戦うしか、ない」
僕は、杖を構えた。
でも——心の中では、恐怖が渦巻いていた。
死ぬかもしれない。
ここで、また。
そして——また、12歳に戻るのか?
いや——
死なない。
死ねない。
まだ、やるべきことがある。
「来るわ!」
セレナが、叫んだ。
騎兵隊が、突撃してくる。
僕は——
その瞬間、時間が遅くなった気がした。
騎兵たちの動きが、スローモーションに見える。
馬の蹄が、地面を蹴る音。
槍の穂先が、光を反射する様子。
全てが、はっきりと見えた。
そして——僕の中で、何かが開いた。
記憶だ。
あの未来の記憶。
何度も戦った、戦場の記憶。
それが、今の僕に流れ込んでくる。
どう動けばいいか。
どこを狙えばいいか。
全てが、分かる。
「エリシア! 十時の方向!」
僕は、叫んだ。
「レイン! 水で足元を凍らせろ!」
「セレナ! 時間魔法をもう一度!」
三人が、即座に動いた。
エリシアが、十時の方向に火球を放つ。
騎兵の一人が、落馬する。
レインが、地面に水を撒き、それを凍らせる。
馬が、氷に足を取られて転ぶ。
セレナが、時間遅延の魔法を展開する。
騎兵たちの動きが、さらに遅くなる。
そして——
僕は、火球を精密に制御して、次々と騎兵を撃ち落とした。
馬を傷つけないように。
人を殺さないように。
でも——無力化する。
一分後——
騎兵隊は、全員が倒れていた。
殺してはいない。
気絶させただけだ。
でも——戦闘不能にした。
「エリオ……今のって……」
レインが、呆然と言った。
「すごい、指揮だった……」
「今は、後だ」
僕は、次の魔導兵器に向き直った。
「まだ、やることがある」
さっきの感覚が、まだ残っている。
戦場を俯瞰で見る感覚。
全ての動きが、予測できる感覚。
これが——循環者の力なのか?
何度も人生を繰り返した経験が、今の僕を助けている。
ならば——
使わせてもらう。
「行くぞ!」
次の魔導兵器も、同じ手順で破壊した。
エリシアの火魔法で、関節部を攻撃。
レインの防御で、反撃を防ぐ。
セレナの時間魔法で、隙を作る。
そして——僕の指揮で、全てを統合する。
二基目、破壊。
三基目——
でも、これが最も厳しかった。
敵も、僕たちの戦術を理解し始めていた。
魔導兵器の周囲に、兵士たちが集まってくる。
護衛のために。
「数が多すぎる!」
レインが、叫んだ。
「近づけない!」
「なら——」
僕は、決断した。
「エリシア、最大火力で一気に吹き飛ばせ」
「でも、魔力が——」
「僕の魔力を使え」
僕は、エリシアの背中に手を当てた。
「魔力共有だ。僕の全てを、君に託す」
「エリオ……」
「頼む」
エリシアは、頷いた。
僕の魔力が、彼女に流れ込む。
そして——彼女の膨大な魔力と、混ざり合う。
化学反応のように、魔力が増幅される。
エリシアの全身が、眩しく輝く。
「これは……こんなに魔力が……」
彼女は、両手を前に突き出した。
「『劫火滅星』!」
空が、赤く染まった。
巨大な火球が、天から降ってくる。
それは——隕石のようだった。
魔導兵器と、その周囲の兵士たちの上に——
落下。
爆発。
轟音。
衝撃波が、周囲を吹き飛ばした。
僕たちも、後ろに吹き飛ばされる。
地面に叩きつけられて——
しばらく、何も見えなかった。
耳鳴りがする。
体中が、痛い。
でも——生きている。
ゆっくりと、立ち上がった。
目の前には——
魔導兵器は、完全に破壊されていた。
溶けた鋼鉄が、地面に散らばっている。
周囲の兵士たちも、全員が倒れていた。
気絶しているのか、死んでいるのか——
分からない。
「やった……のか……?」
レインが、よろよろと立ち上がった。
エリシアも、セレナも——無事だった。
「魔導兵器、全滅したわ」
セレナが、確認した。
「でも——敵の本隊は、まだいる」
遠くを見ると——
まだ数千の兵士が、城壁に押し寄せていた。
魔導兵器は破壊した。
でも——戦いは、まだ終わっていない。
「戻りましょう」
僕は、城壁に向かって走り始めた。
「城壁を守らなければ」
でも——その時。
突然、激痛が走った。
背中に——
何か、刺さった。
「エリオ!?」
セレナの叫び声。
振り返ると——
一人の敵兵が、弓を構えていた。
さっき、気絶したはずの兵士だ。
でも——起き上がって、矢を放ったのだ。
背中が、熱い。
血が、流れ出ている。
視界が、ぼやけてくる。
「エリオ! しっかりして!」
レインが、駆け寄ってきた。
エリシアが、治癒魔法をかけようとしている。
でも——
傷が、深すぎる。
肺に、達している。
これは——
死ぬ。
また、死ぬのか。
また、12歳に戻るのか。
全てが、無駄になるのか。
「いや……」
僕は、呟いた。
「まだ……終わってない……」
意識が、遠のいていく。
でも——
死にたくない。
まだ、やるべきことがある。
リーシャを、守らなければ。
みんなを、守らなければ。
セレナを、救わなければ。
死ねない——
その時。
僕の中で、何かが弾けた。
魔力が——暴走する。
いや、暴走じゃない。
これは——
時間魔法。
循環魔法。
僕の能力が——
発動する。
でも——
今回は、違った。
死んでから戻るのではなく——
死ぬ前に、発動した。
世界が、歪む。
時間が、巻き戻る。
でも——
12歳までじゃない。
もっと短い、巻き戻り。
気づくと——
僕は、さっきの位置に立っていた。
魔導兵器を破壊する、直前。
エリシアが、最大魔力を溜めている、その瞬間。
あれ?
僕は——死んだはずでは?
いや、まだ死んでいない。
これは——
「短い巻き戻り」だ。
数分前に、戻った。
ということは——
もうすぐ、エリシアが魔法を放つ。
そして、魔導兵器を破壊して——
あの兵士が、起き上がって、矢を放つ。
それを——防げば。
「エリシア! 魔法を放った後、すぐに伏せろ!」
僕は、叫んだ。
「え?」
「いいから! 信じて!」
エリシアは、戸惑ったが——頷いた。
「『劫火滅星』!」
巨大な火球が、落下する。
爆発。
そして——
「伏せろ!」
僕は、全員を地面に押し倒した。
その直後——
矢が、頭上を飛び過ぎた。
さっき、僕を射た矢だ。
でも——今回は、当たらなかった。
「今のは……?」
セレナが、矢の方を見た。
そして——気づいた。
地面に倒れている兵士が、弓を持っている。
「あの兵士……!」
セレナが、立ち上がって魔法を放った。
兵士は、気絶した。
今度こそ、完全に。
「エリオ……どうして分かったの?」
セレナが、僕を見た。
その目には——疑問と、驚きがあった。
「まるで、未来を見たかのように……」
僕は、答えられなかった。
どう説明すればいいのか。
僕は——死んだ。
でも、死ぬ前に時間が巻き戻った。
これは——新しい能力なのか?
それとも——
「後で、説明する」
僕は、立ち上がった。
「今は、城壁に戻ろう」
四人で、城壁へと走った。
僕の心臓は、激しく打っていた。
何が起きたのか。
なぜ、短い巻き戻りができたのか。
分からない。
でも——一つだけ、確かなことがある。
僕は、死ななかった。
今回は、死なずに済んだ。
城壁に戻ると、状況は変わっていた。
魔導兵器が全滅したことで、敵の士気が下がっていた。
そして——
遠くから、角笛の音が聞こえた。
「援軍だ!」
ダリウス隊長が、叫んだ。
「王国軍の援軍が到着した!」
地平線の向こうから、無数の旗が見えた。
王国軍の援軍。
三千の兵士たち。
それを見たゼフィロス軍は——
退却を始めた。
魔導兵器を失い、援軍が来た今、これ以上戦っても勝ち目はない。
敵は、撤退していった。
そして——
戦いは、終わった。
「勝った……?」
レインが、信じられないように呟いた。
「勝ったのか……?」
「ええ」
セレナが、頷いた。
「私たちは、勝ったわ」
城壁の上で、歓声が上がった。
兵士たちが、互いに抱き合って喜んでいる。
僕たちも——
「やったな、エリオ!」
レインが、僕の肩を叩いた。
「君のおかげだよ!」
「僕だけじゃない。みんなのおかげだ」
僕は、三人を見た。
エリシア、レイン、セレナ。
この三人がいなければ、勝てなかった。
「ありがとう、みんな」
「こちらこそ」
エリシアが、珍しく微笑んだ。
「あなたの指揮がなければ、私たちは死んでいたわ」
セレナは——じっと、僕を見ていた。
その目には——疑問があった。
彼女は、気づいている。
僕に、何かが起きたことを。
でも——今は、何も言わなかった。
ただ——
「後で、話しましょう」
小さく、呟いた。
その夜、フォートリッジの町は祝賀ムードに包まれた。
戦いに勝ったことを祝う、小さな宴が開かれた。
僕たち四人も、招かれた。
ダリウス隊長が、杯を掲げた。
「諸君の活躍に、感謝する。特に、学院の四人——エリオ、エリシア、レイン、セレナ。君たちがいなければ、この町は陥落していた」
兵士たちが、拍手をした。
僕たちは、少し照れくさかった。
「今日の勝利は、諸君のものだ。誇りに思え」
隊長は、僕たちに向かって頭を下げた。
その夜、僕たちは遅くまで話し合った。
戦いのこと。
恐怖のこと。
そして——生き延びたことの喜び。
でも——
僕の心の中には、まだ疑問が残っていた。
あの、短い巻き戻り。
あれは、何だったのか。
深夜、一人で城壁の上に立っていると——
セレナが、やってきた。
「眠れないの?」
「ああ」
僕は、夜空を見上げた。
「色々、考えていて」
「さっきの、巻き戻り——」
セレナが、核心を突いた。
「あれは、何だったの?」
僕は、しばらく黙っていた。
そして——決めた。
セレナには、全てを話そう。
彼女なら、理解してくれるはずだ。
「僕は——死んだんだ。あの瞬間」
「え?」
「背中に矢を受けて、死んだ。でも——死ぬ直前に、時間が巻き戻った」
セレナは、息を呑んだ。
「まさか……永劫回帰が——」
「変化したのかもしれない」
僕は、自分の手を見た。
「今までは、死んでから12歳に戻っていた。でも、今回は——死ぬ前に、数分だけ戻った」
「なぜ……?」
「分からない。でも——もしかしたら、僕が能力を理解し始めたからかもしれない」
禁書庫で、時間魔法の本を読んだ。
永劫回帰について、学んだ。
それが——能力に影響を与えたのかもしれない。
「つまり、あなたは——」
セレナが、驚いた顔をした。
「短い時間なら、意図的に巻き戻せるようになったの?」
「分からない。今回は、偶然だったかもしれない」
でも——もし意図的にできるなら。
これは、とてつもない力だ。
戦闘中に、何度もやり直せる。
最善の選択を、見つけられる。
でも——
「危険ね」
セレナが、真剣な顔をした。
「その力、使いすぎないで」
「どうして?」
「時間を巻き戻すたびに、あなたの魂は削られるわ。それが、永劫回帰の代償」
セレナは、僕の手を取った。
「短い巻き戻しでも、同じことが起きる。使いすぎれば——あなたの魂は、消えてしまうかもしれない」
魂の消滅——
それは、完全な死を意味する。
「分かった。気をつける」
「約束して」
「約束する」
セレナは、ほっとした顔をした。
「ありがとう」
二人で、しばらく夜空を見上げていた。
星が、無数に輝いている。
平和な、美しい夜空。
でも——この平和は、脆い。
今日の戦いは、終わった。
でも——これは、始まりに過ぎない。
本当の戦争は、これからだ。
それを、僕は知っている。
六年後——いや、もっと早く来るかもしれない。
世界の転換期。
滅びと再生の時。
それに、僕は立ち向かわなければならない。
でも——今は。
今は、生きている。
仲間も、無事だ。
それだけで、十分だ。
明日のことは、明日考えよう。
今は——この瞬間を、大切にしよう。




