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未来息子:父ハルト編

冤罪婚約破棄の後、なぜか不器用な恋が始まりました

作者: *ほたる*
掲載日:2026/01/30

 冤罪による婚約破棄騒動は、数日後に真実が明らかとなった。

 事件は収束し、王太子との婚約は解消。


 そして──

 侯爵令嬢であるエレオノーラと、伯爵家三男のハルト。

 家格の差こそあれど、急成長を遂げるハルトの商会が評価され、二人の婚約は正式に認められることとなった。


「改めまして──これからはよろしくお願いします」


 ドレスの裾を摘み、カーテシーをするエレオノーラ。

 その姿に、ハルトは頬をかきながら照れくさそうに笑った。


「……堅苦しい挨拶は苦手でさ。俺なりのやり方で、よろしくって言わせてくれ」


 そう言って差し出された手に、

 エレオノーラは驚き──それでも、そっと握り返した。


 それから二人は、度々会うようになった。

 侯爵家の庭園で散策していたとき、

 石につまずきかけた彼女を、ハルトが素早く抱き寄せる。

 心臓が、ドクンと跳ねた。


「あ、ありがとうございます……」


 頬が熱い。

 見上げると、ハルトはふっと身体を離し、


「ヒールだと危ないよな。気をつけて」


 と手をひらひら振って歩き出す。


 ──王太子の隣にいた頃、こんなふうに抱き寄せられたことは、なかった。

 その優しさに、胸の奥が……なぜかざわついた。


 数日後──エレオノーラは初めてハルトの“職場”を訪れた。

 急成長を遂げている商会は活気に満ち、人々が忙しなく動いている。

 エレオノーラが興味深くその様子を眺めていると、従業員の一人がハルトに気づき──サッと走り寄ってきた。


「ハルト様!ちょうどよかった!ここ、どのように改良すればいいか悩んでまして!」


 エレオノーラは目を見張る。

 いつも軽口を叩くハルトなのに、従業員の口から出る「ハルト様」は、明らかに尊敬と信頼に満ちていた。

 ハルトは用紙を受け取り、目を通す。


 真剣な眼差し──その横顔から、なぜか目が離せなかった。


 少しずつ、少しずつ……心に積み重なっていく。

 気づけば、もう戻れないほど深く、

 エレオノーラの胸にはハルトが入り込んでいた。


 胸が苦しい。

 そばにいるだけで、鼓動が速くなる。

 ……離れたくない。もっと──そばにいたい。


 けれど、ハルトの態度は変わらない。

 優しいし、助けてくれるし、大切にしてくれる。


 でも──掴めない。

 彼はいつも飄々としていて、距離の取り方がわからない。


 (彼にとって私は……ただの政略結婚の相手?)

 (こんなに好きになってしまったのに……どうして、彼の心はわたしに向いてくれないの?)


 胸の奥に押し込めていた想いが──耐えきれず、あふれ出す。

 エレオノーラの瞳から、一筋の涙がこぼれた。


 庭園でお茶をしていたハルトは、突然泣き出した彼女にぎょっとして立ち上がった。


「ど、どうした!? 何かあったのか?」


 後ろの椅子がガタッと倒れる。

 エレオノーラの涙は止まらない。

 淑女として、人前で泣くなどありえないのに。


(でも……どうしても、止められない……)


 嗚咽をこぼす彼女に、ハルトは戸惑ったまま手を伸ばす。

 その指先が彼女の髪に触れかけた、その時。


「ハルト様は、私のこと……どう思っているんですか?」


 伸ばしかけた手が、小さく跳ねて止まった。

 涙で濡れた紫の瞳が、春の光を受けて揺れている。


「私ばかり……好きみたいで……」


 ハルトの黒い瞳が、大きく見開かれる。


「……苦しいの」


 エレオノーラは、そっと瞼を伏せた。

 一筋の風が通り抜け、ハルトの焦茶の髪をふわりと揺らす。

 庭園を撫でるような、やわらかな風だった。


 ──ハルトは意を決し、そっと彼女を抱き寄せる。

 エレオノーラの金糸のような髪が、肩で震えた。


「……泣くなよ」


 低く掠れた声。


「君に泣かれるのは──嫌なんだ」


 指先に力がこもる。


「俺だって……ちゃんと、好き。……だからさ」


 顔を上げると、ハルトは困ったように笑った。その頬が、ほんのり赤い。

 ──エレオノーラは目を見開き……それでも涙は止まらない。


「……ああっ。もう!」


 再び強く抱きしめると、そっと彼女の頬に口づける。


「これ以上はムリ! 恥ずすぎて死ぬ!!」


 耳まで真っ赤なハルトに、

 エレオノーラの表情はふっと和らいだ。


 春の風が、優しく二人を包んでいた。


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