朔視点後半
夜。街灯の下、病院の白壁がやけに冷たく光っている。
救急車のサイレンが遠ざかっていく音だけが響いていた。
真白が運ばれていったあと、何時間経ったのかもわからない。
手についた血の跡はもう乾いていた。
誰かが「命に別状はない」と言っていた気もする。
でも、その言葉を耳にしても、身体の震えが治ることはなかった。
頭の中で、何度も何度も、ぶつかる音が響く。
廊下を出ると、入口の前に真白と仲の良かったクラスメイトの佐藤と鈴木が立っていた。
二人とも学ラン姿のまま、顔が強張っている。
「……有馬」
鈴木が俺に気づいて、名前を言われた瞬間、息が詰まった。
何か言わなければと思うのに、喉の奥がひりついて言葉が出ない。
「真白は……まだ、目を」
それでも、絞り出すように告げれば、鈴木の拳が飛んできた。
鈍い音がして、頬が焼けるように痛い。
「何やってんだよ……!お前、真白のこと、好きだったんじゃねぇのかよ!!」
周りの空気が重たく張り詰める。
佐藤が眉を寄せるが、止めようとしない。
「……違う、俺は、そんな」
「違わねぇよ!!毎日見てたろ、誰よりも真白のこと気にしてたじゃねぇか!それなのに、なんで、守らなかったんだよ!」
拳がもう一度振り上げられるが、途中で止まる。
鈴やんの目から大きな雫が頬を伝って落ちる。
「やめろ、鈴やん」
静かな声。
でも、それ以上に重かった。
「……お前さ、気づいてたんだろ。真白が限界だったこと。それでも、何も言わなかった。怖かったんだよな。自分が関わったらもっと悪化するかもって」
俺は何も言い返せなかった。
俺はずっと自分のことばかり考えていた。
「お前は自分を守ったんだよ。あの時、真白を守るんじゃなくて」
風が吹いた。
秋の夜の冷たい風。
誰も、次の言葉を出せなかった。
「……真白はまだ生きてる。だから、今は何も言わねぇ。でも、あいつがもし目を開けなかったら、俺、お前をぜってぇ許さねぇからな」
鈴木はそれだけ言って、病院の外へ歩き出す。
佐藤もその背中を見てから、ゆっくり俺の方を向いた。
「……俺も、同じ気持ちだよ。たとえ真白が目覚めても好きだなんて言葉、今さら言うんじゃねぇよ」
そのまま二人は去っていく。
残された朔は、ただ立ち尽くす。
街灯の光に照らされた足元に、
自分の影が長く伸びて、震えていた。
俺が真白を好きだった。
それが真白を壊した。
守りたかったのに、
何もできなかった。
それだけが、今も、消えない。
ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます。
次回からはいよいよ異世界編に入ります。
朔の出番は少し減ってしまいますが、ふたりの関係を描くうえで大切なパートになります。
これからも見守っていただけたら嬉しいです。




