溶け込んだ
あれからも何度か有馬の家に遊びに行った。
僕が何もないって言ったのを気にしたのか有馬の家に行くたびに、少しずつ家具が増えていった。
最初は、テーブルと椅子。
次は、ふかふかな革製のソファ。
気づけば、隅には見慣れない布団と毛布まで置かれるようになっていた。
疲れている時はソファでうたた寝をすることもあったし、
そのまま夕飯は一緒に食べるのも恒例になっていた。
生活感が出て来たというより、その空間が僕にとって寛げるものにどんどん変わっていくようで居心地が良かった。
特にこのソファなんか完全に僕の定位置になりつつある。
自分の家よりも落ち着くこの感じ。
「おばあちゃんみたい」
「は?俺が?」
隣に座る有馬が眉間にしわを寄せ、不満げにこちらをじっと見つめてくるので慌てて訂正する。
「おばあちゃん家みたいに落ち着くなぁって思ってたら、口に出てた」
「そういうことね。よかった、気に入ってくれたみたいで」
有馬が表情を和らげてホッと息をついた。
「本当に、なんならここに住みたいくらいだよ」
「いいよ。真白が言うなら一緒に住んでも」
「じゃあ、家事と仕事は有馬の役割な」
「月島は何するの」
「僕、ニート」
「ははっ、養われる気満々じゃん」
「そうだよ、僕を養ってー」
「……月島なら特別に養ってやってもいいけどな」
「そこは嫌がれよ」
有馬は僕の冗談を全て受け入れようとする。
しかも、顔を背けるようにして耳まで真っ赤で照れながらするから。
そんなに言ってて恥ずかしいなら言わなければいいのに。
きっと傷つかないような言い回しを選んでくれているんだ。
ほとんど告白みたいな声なのも、正直どう反応すればいいのかわからない。
僕は慣れていないノリだから少し困るけれど、別に悪い気はしなかった。
「有馬のせいで僕がダメ人間になったらどうしてくれるんだ」
脇腹に指を伸ばした。
「っ、やめろ」
笑いながら逃げようとする有馬の肩を軽く押さえる。
本気で抵抗されないのを良いことに思う存分くすぐる。
そう言えば、外で一緒に歩いていて知らない女の人に声をかけられた時。
僕じゃなくて有馬目当ての逆ナンだったけど、
有馬は、一貫して冷たい態度で、その場を終わらせていた。
それなのに。
僕の名前を呼ぶときだけ、有馬の声が柔らかくなって、目がクシャリと細くなって、
その表情がたまらなく可愛くて。
有馬も僕のこと結構好きだよな。
って、誰かをくすぐりながら思い出すことじゃないよな。
パッと手を解放すると、有馬は苦しそうにハアハア息を整えた。
「有馬、そこ座らせて」
いまだ肩を上下させる有馬の膝の上を指さす。
「……いいよ、おいで」
いいのかい。
ドキドキしながら座ろうとすると、遠慮がちにギュッと抱き寄せられた。
高校の時に仲のいい人たちで膝の上に座って話していたからやってみたけど、
背中が密着して包まれて、思ってた以上に甘えてるみたいで恥ずかしい。
自分から言っておいて自爆している気がする。
「有馬、今日泊まってもいい?」
最初から泊まるつもりで来たわけではなかったが、なんとなく帰りたくなくなった。
部屋の隅に置かれているあの新品の布団は有馬が自分のために買って来たわけじゃないだろうということも察していた。
最終的な理由付けとしてカバンの中から酒瓶を出して見せた。




